【第1回の趣旨】
住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会は「事業領域拡充×事業サービス化の視点で挑むハイブリッド経営」をコンセプトに掲げ、全国の各エリアで成長・成功している「住まいと暮らしドメイン」の優良企業を視察訪問している。
第2回ゲストの株式会社ミナモト建築工房は、持続可能な社会の実現に向け、地域密着型の家づくりを展開している。その背景には、顧客に寄り添う「マンツーマン工法」や、自然を生かした設計思想、地域との強固な連携がある。本リポートでは、創業から現在に至る成長の軌跡を振り返りながら、学ぶべきポイントを深掘りする。同社の成功事例を通じて、これからの家づくりや地域貢献の在り方について考えたい。
開催日時:2024年12月26日(岡山開催)
はじめに
ミナモト建築工房は、岡山県に本社を構える工務店で、自由設計の注文住宅を手掛けている。建築士の資格を持つ担当者が、土地探しから資金計画、設計、打ち合わせ、現場管理、アフターサービスまでを一貫して担当する「マンツーマン工法」を採用しており、顧客一人一人のニーズに応じた家づくりを実現している。事業内容は、木造注文住宅の設計施工や分譲地開発など多岐にわたる。2022年度の実績では、新築完工棟数は96棟、売上高は約31億を達成。2023年度には、新築完工棟数101棟、売上高約33億と着実な成長を遂げている。土地の特性に合わせた設計や窓の配置を工夫し、夏は心地よい風が室内を通り抜け、冬は暖かい光が差し込むような住まいを提供。冷暖房に頼らなくても快適に過ごせる家を目指し、地球環境と住む人の双方に優しい家づくりを目指している。
同社は地域社会との連携を重視し、まちづくりにも積極的に取り組む。周辺環境に調和した家づくりや、近隣コミュニティーとの関係性を構築することで、豊かな住環境を創造。設立以来、地域に根差した工務店として、顧客の多様なニーズに応える家づくりを続けている。その取り組みは、持続可能な社会の実現に向けた一助となっている。
講演の様子
「マンツーマン工法」とは?
「マンツーマン工法」とは、前述の通り建築士の資格を持つ担当者が、土地探しから建築後のアフターサービスまで一貫して担当する工法である。通常、家づくりでは営業担当・設計担当・現場監督・アフター担当などが分業制で動くケースがほとんどである。しかし、分業制ではコミュニケーションの食い違いや責任範囲が曖昧になりやすく、顧客のイメージと実際の建物がズレる原因となり得る。マンツーマン工法では一人の担当者が全工程に関わることで、“言ったつもり・聞いたつもり”のミスコミュニケーションが大幅に減少できる上、顧客は常に同じ担当者に相談できるため安心感を得られる。また、担当者が状況を一元管理していることから、設計段階や施工途中での微調整や将来的なリフォームプランにも一貫した視点で対応可能。マンツーマン工法は「顧客満足度」と「建物の品質」を高めるだけでなく、分業制の隙間を埋める総合的なサポート体制が最大の強みだ。一人の建築士が最初から最後まで担当することで生まれる信頼感が、同社のファンを生み、地域で愛される家づくりへとつながっている。
「マンツーマン工法」の特徴と強み
ミナモト建築工房のマイクロSNS戦略
ミナモト建築工房が取り組む「マイクロSNS戦略」は、大手SNSへの広告や広範囲へのPRも行いつつ、自社拠点を中心とした“半径2km(車で10分)”のエリアをターゲットにしている。この戦略は、通常のウェブマーケティング(広告やSEOなど)以上に、「実際に施工を依頼した方」や「建築現場を目にした近隣住民」のリアルな声を広げることに重点を置く。この取り組みを通じて、地主からの土地紹介や、新しく戸建て住宅を建てる方の口コミでの依頼が継続。地元住民との細やかなコミュニケーションで信頼関係が深まり、見込み客との接点が自然と拡大していく。“半径2km”という地理的な近さがあるからこそ、現場の声をすぐに聞き取り、SNSで発信できるメリットがある。これらの取り組みを重ねることで、企業と地域住民との距離を縮め、結果的に自然発生的な口コミが広がっている。今後、住宅関連企業が地元での存在感を高めていく上で、マイクロSNSを活用した超ローカル戦略は大きな武器となるだろう。
ミナモト建築工房本社の屋上庭園
地域密着企業としての取り組み
代表取締役社長である青江氏は、外部環境の変化へ敏感に反応し、それに適応した事業運営の重要性を説いている。近年、異常気象の増加や地球温暖化の影響が顕在化している。
同社では、こうした課題に向き合い、自然エネルギーの利用や気候変動に対応する設計手法を導入している。例えば、夏の厳しい暑さを軽減するために、建物全体で自然通風を最大限に活用するデザインを採用。冷暖房の負荷を抑えつつ快適な住環境を提供し、単なる住宅建築に留まらない、快適性を考慮した家づくりに注力する。また、「住民が気軽に集える、憩いと交流の場があるといいね」「いろんな経験ができる、遊びや学びの場があるといいね」という地域と人の声を叶える事業として『くらしのたね』を展開。「水あそび」や「おいしい避難訓練」などのイベントを通じて地域住民との関係を構築している。これらの取り組みは、地域社会と共に成長する企業としての地位を確立するための重要な要素となっている。
『くらしのたね』イベントのお知らせ

代表取締役社長