出所 : キッコーマンホームページを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
グローバル&エリアの「No.1戦略」を展開
新興国市場の展開を本格化
江戸時代に始まった伝統あるしょう油作りを守りながら技術革新に挑み、食品製造販売から卸売り、バイオなど多様な事業体へと進化を遂げるキッコーマン。世界各地の顧客に、食と健康の商品・サービスを届けることで持続的成長と企業価値向上を目指し、2024年3月現在でグループ57社を海外に展開している。
「キッコーマングループ コーポレートレポート2024」によると、海外比率については、売上収益(2023年度)が約77%(約5090億円)、事業利益は約89%(約654億円)を占めている。
1950年代にいち早く北米市場に進出し、欧州やアジアへと拡大する海外事業の2014~2024年度までの年平均成長率は、全売上高の65%を稼ぐしょう油事業が7.5%、食料品卸売事業も9.1%と右肩上がりを続ける。
同社は2022~2024年度の中期経営計画において、人口が減少する国内市場では高付加価値商品と生産性向上を基軸に展開し、経営の柱に育った海外事業についてはさらなる成長を重点戦略と位置付けている。
そのマイルストーンが、2018年4月に発表された「グローバルビジョン2030」である。「新しい価値創造への挑戦」を旗印に、3つの「目指す姿」と、その実現に向けた2つの「重点戦略(2030年への挑戦)」を掲げている。(【図表1】)
【図表1】キッコーマンの「グローバルビジョン2030」
出所 : キッコーマンホームページを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
新興国の経済成長や中間所得層の増大、IT進展による消費行動や流通構造の変化、地球環境や地域社会が抱える課題解決など、社会構造や事業環境の変化を先取りし、社会的責任を果たしながらビジネスチャンスに変えていくグローバルなグループ長期ビジョンである。
2030年に向け
2つの重点戦略で新しい価値創造に挑戦
重点戦略(2030年への挑戦)の1つ目は、「No.1バリューの提供」である。その中核戦略が、しょう油事業と食料品卸売事業を両輪に、それぞれのビジネスモデルを発展させる「グローバルNo.1戦略」だ。
100カ国以上で愛用され、世界各地に8つの生産拠点を持つしょう油事業は、欧米など先進国市場で築いたナンバーワンポジションをより強固にしながら、新興国市場の展開も本格化。食料品卸売事業は、世界中の顧客に日本食の高品質な商品・サービス・提案のソリューションを提供し、拠点整備や調達網の拡充、マーケティングの強化によって「必要とされるナンバーワンのキッコーマンならではの価値づくり」を目指している。
No.1バリューの提供に向けた2つ目のアプローチが、「エリアNo.1戦略」である。しょう油事業のグローバル展開を、エリア別に4つのステージに分類。「多様化」ステージの日本、「成熟」ステージの北米・豪州、「成長」ステージの欧州・ASEAN(東南アジア諸国連合)・中国、未熟市場で「導入」ステージの南米・インド・アフリカと、各ステージに合わせた市場創造・開拓・展開強化を進め、サステナブルな成長を可能にしている。
また、アジアのトマト調味料ナンバーワンを見据える「デルモンテ」ブランド事業、健康ニーズが高まる国内ナンバーワンブランドの豆乳事業、さらにワイン・バイオ事業など、発酵・醸造・食品加工技術と蓄積ノウハウを活用して特定エリア・領域の価値づくりを実現する、新たなナンバーワンカテゴリの創出にも力を入れている。
グローバルビジョン2030は、日本と世界各地の食文化を融合させて新しい価値を届ける、キッコーマンならではのグローバル戦略である。
3つ目のアプローチが、新たな事業や製品・サービスの創出によってナンバーワンバリューの提供に挑戦し、グローバル&エリアナンバーワンをより強固にする「新たな事業の創出」だ。そのために不可欠なのが、2つ目の重点戦略である内部資源・外部資源などの「経営資源の活用」である。(【図表2】)
【図表2】「グローバルビジョン2030」で掲げる新たな事業の創出
出所 : キッコーマンホームページを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
発酵・醸造技術と人材・情報・キャッシュフローという内部資源、M&A・業務提携・オープンイノベーションの外部資源を生かしながら、どのように創り出すのか。
人材については、グローバル経営を支え、新たな価値を生み出す能力を十分に発揮できる制度・組織・働き方をつくること。情報については、社内外の情報とIT技術を組み合わせた新しい事業機会の発見と生産性の向上。キャッシュフローについては、成長投資による既存事業の成長と新事業の獲得などに取り組んでいる。
在りたい姿を掲げて
社員のエンゲージメント向上に注力
さらに、社員一人一人の羅針盤となり、グローバルにグループ全体の事業姿勢や提供価値、目指す方向性を定めたのが、キッコーマンの約束「こころをこめたおいしさで、地球を食のよろこびで満たします。」と、コーポレートスローガン「おいしい記憶をつくりたい。」である。在りたい姿を掲げて終わりにしないために、日本語と英語のブランドブックを作成、グループ全社員に配布し、グローバルコミュニケーションには「seasoning your life」(キッコーマンのコーポレートスローガン「おいしい記憶をつくりたい。」の英文)を採用した。
「組織は人が全て」「社員一人一人が思いを持ち能力を高め、活躍できる職場をつくる」と語る同社の代表取締役社長CEOの中野祥三郎氏(『TCG REVIEW』2022年9月号)は、経営幹部とともに中間管理職とディスカッションする機会を定期的に開催。ビジョンの実現や顧客への貢献を、日々の業務と将来像の両方に結び付けることを重視している。
また、エンゲージメント調査に基づき、心理的安全性やエンゲージメントを最重要テーマに、各職場で改善アクションプランを作成。社員一人一人がそれぞれの職場や立場で自社の価値やブランド、目指す方向性、強みとは何かを考えて「自分のもの」にすることでやる気を引き出し、自ら行動を起こす「ワーク・エンゲージメント」の向上に取り組んでいる。
国内市場の前例主義や商習慣に縛られない海外市場に挑み、未知の先行きを見通していくためには、ビジョンに共感してエンゲージメントを高め、成長意欲を持って主体的・自律的に新たな価値をつくり出す「プロ人財」が求められる。
キッコーマンは、「多様な人財の一人一人の活躍」と「社員が能力を発揮できる組織」を育む人的資本経営を推進。グローバル人財戦略は、サクセッションプランや人財プール構築などの人財マネジメントと、仕事に高度な能力を発揮して国内外のニーズを満たし、市場に価値を与えるプロ人財の育成方針を実践し、グローバル視点の適所適材配置もグループ横断的に進めている。
「キッコーマン」ブランドは、「Sushi(寿司)」や「Matcha(抹茶)」と並ぶ「Japanese Soy Sauce(しょう油)」の代名詞となり、しょう油は万能調味料のグローバルスタンダードとして定着している。キッコーマンは「地球社会において存在意義のある企業」を目指し、挑戦を続けている。
キッコーマン(株)
- 所在地 : 千葉県野田市野田250(野田本社)、東京都港区西新橋2-1-1 興和西新橋ビル(東京本社)
- 設立 : 1917年
- 代表者 : 代表取締役社長 CEO 中野 祥三郎
- 売上高 : 6608億3500万円(連結、2024年3月期)
- 従業員数 : 7521名(連結、2024年3月現在)