「日本社会から『女性活躍』という言葉がなくなる日を目指して」。Surpassが掲げる理念は、実は女性活躍が課題であり続けることを物語ってもいる。
「日本はものすごい速度で、世界から後れ始めています。先進国から“社会課題先進国”になり、中でもジェンダー格差が大きい。女性の新規就職者のうち大学卒業者は72%※2もいますが、女性の平均年収は30歳手前をピークに314万円※3です。
この現実を、男性の政治家や経営者の大多数は知らないのに、政策や事業の未来をミスリードせずにつくっていけるでしょうか。女性活躍が当たり前になり、良い意味で言葉がなくなる日を実現できれば、と」
そう語るのは、同社の代表取締役社長・石原亮子氏である。女性営業チームによるBtoB企業の営業代行やSPO※4サービスをビジネスとして展開し、女性活躍やダイバーシティーを支援する「女性活躍推進総研」も立ち上げた。
女性活躍は、フェミニズムでも女性優位を目指すものでもない。男性中心に形づくられた日本社会の構造を、多様な視点・接点を併せ持つDE&Iの姿に変える象徴である。性別や国籍、障害の有無など属性の違いを問わず、誰もがそれぞれ得意なことを共有し合い、互いの価値を生かし合う世界、と言えるだろう。
石原氏が繰り返し口にして大切にするのがファクトフルネス(思い込みを乗り越えるデータ)。数字を具体的に示して行動を起こすのが、Surpassの流儀だ。
「働く女性のPMS(月経前症候群)や更年期による経済損失は、年間3.4兆円※5に達します。更年期を迎えた67%※6が昇進を断ったり、諦めようと考えたりした経験があります。でもその多くは、子育てや介護など家庭の事情を理由にしています。ファクトフルネスではない対話の延長線上には、誰もハッピーになれない世界しかありません。
『男の子は泣くな』『女の子は優しく』と耳にして育った“らしさ”が無言の縛りとなって、家庭や会社でその役割を守ろうとしています。生物学的に男女で異なるのは、子どもを生めるか生めないか。変えられない役割を知り、そこから逆算すれば、男性主導だった従来とは全く異なる人事制度やカルチャーが生まれ、働き方も変わるでしょう」(石原氏)
女性活躍がDE&I実現の第一歩になることも、石原氏は分かりやすく説明する。男性のリーダーは、企業人として立派な「一面体」であることが多い。一方で女性は、企業人と妻、母親、家事、PTAなど学校関連の活動、地域活動など多様な顔を持ち、常に「多面体」で生きている。そのためコミュニケーション力が高く、社会との接点も多く、多様なつながりの架け橋になれる。
「多様な視点と接点を併せ持つ多面体だからこそ選択肢が増え、硬直した制度や考え方を柔らかくほぐすことができます。『女性活躍はブーム』と言う経営者もいますが、真剣に経営を考えれば気付くはずです。マジョリティーだった戦後世代の男性リーダーの価値観は間もなくマイノリティーになり、女性やZ世代に選ばれなくなることを。属性のギャップをなくすために互いが歩み寄り、時代に合わせて全てをアップデートしなければ、人材不足に悩んだまま、会社は潰れてしまいます。カルチャーは1日にしてならず、ですから」(石原氏)
※1 ダイバーシティー、エクイティー&インクルージョン。多様性(Diversity)・公平性(Equity)・包摂性(Inclusion)を併せ持つ考え方。組織で多様な人材が働き、一人一人が必要な支援を受けながら、特性や強みを生かし最大限のパフォーマンスを発揮し経営成果を生み出す姿が、企業・組織文化の変革やイノベーションの創出、優秀な人材の確保・定着にもつながる
※2 厚生労働省「令和4年版働く女性の実情」(2023年9月)
※3 国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」(2023年9月)
※4 セールス・プロセス・アウトソーシング。主に営業プロセスの業務代行、分析・改善提案・実行などを分業・協業で受託する専門的な外注ビジネス。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の1つ
※5 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(2024年2月)
※6 経済産業省「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本に与える効果と課題に関する調査報告書」(2021年3月)
代表取締役社長
短大卒業後、大手生命保険会社でトップセールスとして活躍。一部上場企業からベンチャー企業まで100業種以上の営業経験の後、2008年に女性営業アウトソーシングのパイオニア、株式会社Surpassを創業。2021年、徳島市とジェンダー格差改善を目指した連携協定を締結。Forbes JAPAN WOMEN AWARDなど、女性活躍企業として多数受賞。