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モデル企業

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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2024.09.02

「支援と貢献」が循環する企業コミュニケーション

LIFULL




「FRIENDLY DOOR」は国籍、年齢、性別などさまざまなバックグラウンドを持つ人と、フレンドリーに対応してくれる不動産会社をつなぐサービスだ(上)
あらゆる人が自分らしく生きられる未来を目指して、「しなきゃ」という既成概念から生じる世の中のさまざまな社会課題について、一緒に考え・学ぶことができる展示イベント『一緒に学ぼう!LIFULL「しなきゃ、なんてない。」ライブラリー』(下)

 

 

創業者が初の社長交代で「社是と経営理念だけは変えるな。それ以外は全て変えて良い」と思いを託したビジョナリーカンパニー、LIFULL。住宅弱者問題を解決するLIFULL HOME’S(ライフルホームズ)「FRIENDLY DOOR(フレンドリードア)」プロジェクトも、事業・PR部門が両輪となって企業価値向上につなげている。

 

 

住まいを選べない住宅弱者問題の解消へ

 

「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとして掲げるLIFULLは、基幹事業で国内最大級の不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」や業界最大級の老人ホーム・介護施設検索サイト「LIFULL 介護」、空き家の再生を軸とした「LIFUL 地方創生」などのサービスを展開。共通点は安心や喜びを妨げる社会課題を、事業を通じて解決することだ。

 

「当社はソーシャルエンタープライズです。日本語だと、社会課題解決型企業と訳せます」。そう語るのはクリエイティブ本部ブランドコミュニケーション部 PRグループの小田裕美氏だ。ブランディングに不可欠なパブリックコミュニケーションの最前線で注力しているものの1つが、FRIENDLY DOORのPRである。

 

国籍や人種、性別、ハンディキャップに関係なく、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出合える世界の実現を目指す「ACTION FOR ALL」プロジェクトが2019年に始まり、その1つがFRIENDLY DOORだ。外国籍や生活保護利用者、LGBTQ、高齢者、障がい者など、バックグラウンドを理由に望む住まい探しに困る「住宅弱者」と呼ばれるユーザーと、相談に応じるフレンドリーな不動産会社をつなぎ、課題解決を支援している。

 

住宅弱者が生まれる背景には、一度入居した借主を正当な理由なく追い出せないよう守る日本の法律制度がある。加えて、「シングルマザーは家賃の支払い能力がないのではないか」「外国人は入居トラブルを起こすのではないか」など固定観念や偏見が根深く、貸し渋りや入居者の厳選につながっている。

 

一方、理不尽な差別を受ける住宅弱者も、その苦労を対外的に発信する機会は少ない。結果として「住まい探しで嫌な思いをし、傷つく人」の存在とその解消は見過ごされてきた。

 

「実は、住宅弱者の総数は人口の3割強もいます。困っている声が聞こえないからといって、社会課題がないわけではありません。また、社会課題を認識しつつも解決行動は起こさない『知識ある無関心層』が、日本には多いのが現状です。

 

FRIENDLY DOORを広めるには、声なき声を形にして、知らしめること。今は違っても、いつか自分も住宅弱者になり得ると『自分事化』してもらうことが、重要でした」(小田氏)

 

始動から5年経過した2024年6月現在、FRIENDLY DOORに参画する不動産会社は5800店舗に増加。また、これまでのPR活動が評価され、「PRアワードグランプリ2022」※1のゴールドを受賞した。

 

「外部アワードに応募したのは、FRIENDLY DOORに事業価値があると第三者的な評価を得るためです。住宅弱者という社会課題を知ってもらう狙いもありました。FRIENDLY DOORを知る人と知らない人の間では、LIFULLの企業姿勢の理解度に大きな差があることが自社調査から分かっており、ブランディングにも大きく貢献しています」(小田氏)

 

 

「コアからマスへ」リーチするPR戦略

 

FRIENDLY DOORの事業責任者は、自らも外国籍で「選べない」「傷付く」住まい探しの原体験を持つ龔軼群きょういぐん氏である。発案者が陣頭指揮に立つ事業チームが、不動産会社・オーナー向けセミナーを開催し、メディアへのプロモートを担う小田氏のPRチームと情報共有することによって、事業とPRの両輪で活動を続ける。

 

「事業の価値は龔が誰よりも知っていますが、PRは私たちに任せた方がうまくいくと信頼してくれます。ローンチキャンペーンはOOH※2やインフルエンサーとのタイアップなど広告中心で反響を呼びましたが、その後は、コアからマスへリーチするPR戦略にかじを切りました」と小田氏は話す。コアとは、住宅弱者問題に関心の高い不動産会社や一般の人々を巻き込み、仲間と支援者をつくること。マスは、幅広い層へFRIENDLY DOORの取り組みを訴求し、認知度を高め裾野を広げる仕掛けだ。

 

不動産会社やオーナーにとっても住宅弱者の受け入れは、上昇が続く空室率を解消するチャンスになる。コアはまず、先駆者である高齢者・LGBTQ専門の不動産会社などに協力を依頼し、住宅弱者のニーズや受け入れる際の注意点などをインタビューしたPRコンテンツを発信。接客チェックリストも協業で作成し、公開した。

 

「龔がよく言うのは、全国にコンビニエンスストアとほぼ同数ある不動産会社は少子化時代の今、住宅弱者を受け入れられないところから淘汰されるということです。不動産会社の未来という視点で何が課題かを見える化し、仲間になって一緒に解決していきましょう、と。

 

PRチームで発信を強化したのは、住まい探しに苦労する住宅弱者は入居後にとても長く住み続けること。デメリットばかり見ず、メリットにも気付いてもらうためです。独自に住宅弱者の実態調査も行って公表しました。ただ、当事者の『声なき声を形に』するのが一番難しかったですね。外部から傷付けられる可能性がある中、自ら発信する人は少ないですから。それでも『住宅弱者って、本当にいるの?』という疑問に答える必要がありました」(小田氏)

 

コアはもう1つ、支援者づくりだ。偏見や差別への問題意識が高い記者やライターをPRチームが探し出し取材を要請。龔氏を前面に押し出し、原体験から事業を立ち上げた思いを伝え、パブリシティーコンテンツとして世の中に発信した。

 

「『あなたに取材してほしい』と、ラブレターのような依頼メールを送りました。コンテンツの数の多さよりも質の高さを優先し、龔のパッションと記者の思いがあふれる、熱量の高い記事になりました」(小田氏)

 

広く知らしめるマスメディアへの訴求は、「タッチポイント」を設定した。例えばオウンドメディアでは、外国籍の落語家・三遊亭好青年(ヨハン・ニルソン・ビョルク)氏のインタビュー記事を掲載。また、設立25周年のタイミングでは、作家・石田衣良氏に依頼し、住宅弱者をテーマに執筆した短編小説を公開した。「しなきゃ」という既成概念から生まれる社会課題を知り、学ぶためのイベントも開催したという。

 

「当社では、多様性を認め、常に社会課題に向き合う企業姿勢を『しなきゃ、なんてない。』というキャッチコピーにして発信し続けています。

 

コーポレートPRは必ず事業サービスと密着させて支援し、同時にFRIENDLY DOORをはじめとしたサービスの認知度向上がコーポレートブランディングに貢献しています。『支援と貢献』が循環するコーポレートコミュニケーションの仕組みから、リアルな共感や行動が生まれています」(小田氏)
※1 日本パブリックリレーションズ協会主催。企業・団体の広報部門やPR会社の優秀なコミュニケーション(広報・PR活動)を表彰する
※2 Out Of Homeの略。大型ビルボード、バスや電車の広告、街頭の看板やポスターなど、消費者が家の外で接する広告手法