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モデル企業

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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2024.08.01

顧客と「物語」を共創する空間づくり

パワープレイス


「安全への思い」を未来へと継承する東京建設PMOのオフィス:JR東日本撮影協力

 

 

 

「安全」を意識付けるオフィス設計

 

2021年、パワープレイスは、JR東日本グループで駅や鉄道施設の保守・新設・改良を担っている東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(以降、東京建設PMO)に、新オフィス設計を提案。先人の思いを感じ、企業ビジョンを未来に伝えるデザインとして、同グループの鉄道林の木をふんだんに活用し、オフィスのどこにいても、鉄道事業の根幹にある「安全」への強い思いを感じられる空間を実現した。また、社内や地域とのでコミュニケーションが活性化する仕掛けや、生産性を向上させる工夫を随所に散りばめ、「働き方改革」にも役立てている。

 

このオフィスの設計を手掛けた、パワープレイスの教育公共ソーシャルデザイン部担当部長で一級建築士の小林健一氏は、次のように語る。

 

「未来に向けて新しい価値を生み出したいという要望を踏まえ、『変わらぬ価値と変わる価値』をデザインのコンセプトに据えました。鉄道にとって変わらぬ価値とは『究極の安全』です。そう考えた時、以前、JR九州のプロジェクトを担当していた頃に大分支社の支社長から聞いた『鉄道林』のことを思い出しました。

 

鉄道林は、豪雪地域の安全運行を守るため、JR東日本が維持・管理しています。しかし、寿命を迎えて伐採された木は、バイオマス燃料やチップとして活用されるのみで、主に首都圏で働く東京建設PMOの皆さまにとっては身近な存在ではありませんでした。そこで、ぜひ光を当てたいと思ったのです」

 

鉄道林は本来、風雪を防ぐ「壁」として植樹された木々のため、節が多く、サイズも不ぞろいだ。建材として活用するには何重にも工夫が必要で、施主や製材所・加工業者からも理解と協力を得なければならない。

 

そこで、林学の知見と現場経験が豊富で、全国に林業関係者とのネットワークを持つ谷知氏がプロジェクトに参加。木の特性を踏まえながら、部位ごとの需給量を小林氏ときめ細かく検討し、適材適所に使い切れるよう、工期と材料の調整を重ねた。

 

また、鉄道林の木材を活用するだけでなく、新しいオフィス空間をどのように活用すれば、東京建設PMOの社員・鉄道利用者・鉄道林の維持管理者とのつながりが深まり、「安全への思い」を広く共有していけるかという視点で検討を重ねていった。

 

そうして2022年に完成した新オフィスは、日常的に目に触れ、手で触れるテーブルやベンチに鉄道林の木が使われた温もりある空間となった。また、パワープレイス社内で展示コンテンツ制作を得意とするチームや、グラフィック・ICT構築を手掛けるチームとも連携し、事故から学ぶ展示室や歴史展示コーナー、最新の情報を発信できるデジタル展示「Energy Wall(エナジーウォール)」などを設置。オフィスのどこに居ても安全への思いが感じられ、オフィスそのものが同社のビジョンを象徴する空間へと生まれ変わった。

 


鉄道林を使用した社員食堂(左):JR東日本撮影協力。オリジナルの焼き印を作り、鉄道林の木材を使用した家具に刻印(右)

 

 

 

 

オフィスは経営を表現する場

 

「変わる価値」という観点では、働き方改革に焦点を当て、各フロアを回遊できる動線をつくり、フリーアドレス制とした。役職や部署の壁を越えて声を掛けやすくなった上に、働き方の自由度が上がり、生産性が向上したとの声が上がっているという。

 

さらには、使用した木材が鉄道林であることを示すオリジナルの焼き印を作製し、東京建設PMOの社員に刻印してもらうイベントも実施。この焼き印は、鉄道林の端材でコースターを作るワークショップなど、地域市民と交流を深めるイベントでも活用されている。

 

「国産材を使って終わりではなく、多様なつながりを創出し、社会への視野が広がるようなソーシャルデザインを実現することが、当社の使命です。本プロジェクトを通じて、鉄道林を維持管理する方々のモチベーションが向上したり、鉄道好きの子どもたちが森林の循環活用について関心を持ったりするきっかけになれば、本当にうれしいです」(小林氏)

 

オフィスとは、単に社員が集まって業務を行う場所ではない。自社の経営を表現する場であり、そこに集う人々が新たな価値を生み出す場でもある。自社を「在るべき姿」に変えていくオフィスはどんな形か、ぜひ考えていただきたい。

 

※ 本来の能力を開花させ、自分が置かれた環境や状況を主体的・自律的に改革する行動を引き出す支援

 

 


左から、パワープレイス 教育公共ソーシャルデザイン部 ウッドデザイナー 谷知 大輔氏、代表取締役社長 前田 昌利氏、教育公共ソーシャルデザイン部 担当部長 一級建築士 小林 健一氏

 

 

パワープレイス(株)

  • 所在地 : 東京都中央区新川2-4-7
  • 設立 : 2003年
  • 代表者 : 代表取締役社長 前田 昌利
  • 売上高 : 13億2000万円(2023年7月期)
  • 従業員数 : 83名(2023年7月現在)