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モデル企業

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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2024.08.01

顧客と「物語」を共創する空間づくり

パワープレイス


山形県・高畠町の屋内遊戯場「もっくる」。遊戯場の88%に町産材の杉を使用している

 

 

「働く」「学ぶ」「集う」に関わる空間と人に活力を提供し、働き方・学び方の変革や街づくりによって、人・社会・企業・学び・地域のサステナビリティ活動に貢献するパワープレイス。伝えたい「物語」が五感で感じ取れるような空間を、クライアントと共創している。

 

2003年に内田洋行のグループ会社として分社独立したパワープレイスは、オフィスや学校、公共施設などをエンパワーする空間デザインと、サステナブルな運用を得意とするデザイナー集団である。

 

中でも特筆すべきソリューションは、地域の木材をフルに活用した「ソーシャルデザイン」だ。これまで企業や自治体にとってハードルの高かった地域産材の調達・製材・加工・施工を一気通貫でコーディネートし、施工後の末永い運用まで見据えて、施主のビジョンを未来へ継承する空間デザインを行っている。

 

 

木材流通を再設計する「タニチシステム」

 

日本では、戦後復興期から高度経済成長期にかけて木材需要が増加し続けてきたが、その大半を満たしてきたのは輸入材である。1964年に木材輸入が全面自由化されると、木材自給率はさらに激減。林業の採算性は著しく悪化し、林業従事者数は40年間、減少の一途をたどっている。「地域を元気に」という思いでデザイン活動を行うパワープレイスでは、創業当初から地域産材の有効活用の仕組みを模索してきた。

 

地域産材が十分に活用されていない背景について、同社のウッドデザイナー・谷知大輔氏は次のように語る。

 

「従来の木材流通はツリー型の重層下請構造で成り立っており、上から下への一方通行で『伐採して、製材・加工して、納品したら終わり』でした。そこには『次の森をいかに作るか』という視点が抜け落ちています。木は一朝一夕に育つものではありません。生産者は50年先、100年先を見据えて育てています。そこで私は、できる限り地域で育てた木を地域で加工し、地域で使えるよう、案件ごとに人と人をつなぎ、木材流通を個別にデザインしているのです」

 

これは、森林の現場と施工の現場を共通言語でつなげられる谷知氏だからこそなせる技と言っても過言ではない。「タニチシステム」と名付けられたこの木材流通マネジメントは、2019年に、山形県・高畠町の図書館屋内遊戯場の設計プロジェクトから本格スタートした。

 

地元の生産者や製材・加工業者に少しでも多くの利益が還元されるように、谷知氏は施主である高畠町と工期や材料を細かく調整。図書館の99%、屋内遊戯場の88%に町産材の杉を使用することに成功した。図書館と屋内遊戯場は、高畠町が目指す「持続可能な『しあわせ』な未来」というビジョンを象徴する空間となり、作り手と使い手の双方に喜びが広がっているという。

 

こうした新しい木材流通の在り方は、日本全国に存在する社有林や公有林のサステナブルな活用、林業の再興につながる仕組み(【図表】)として、産官学民のあらゆる方面から注目を集めている。

 

 

【図表】循環型社会の再生に向けたパワープレイスの国産材活用

出所 : パワープレイス提供図表よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

 

「林業は50年先、100年先の未来のために行われている尊い営みだと思います。世界に誇る日本の豊かな森林を守っていくには、その価値をきちんと伝えて、次の森をつくるアクションまでデザインしていくことが大切です。木の利用者を『消費者』ではなく『共創者』と捉え、長期的なまなざしで『循環型社会』を提案していけたら」(谷知氏)

 

パワープレイスの代表取締役社長・前田昌利氏は、次のように話す。

 

「ソーシャルなつながりの創出は、創業以来、多様性と共創を大切にしてきた当社が最も得意とするところです。民間・教育・文教・社会・自治体・地域という幅広いマーケットで、1つずつの案件を『唯一無二の物語』として紡ぎ、お客さまとともに共感価値を生み出したいと考えています」