2023年8月に東証グロース市場への上場を果たしたJRCは、屋外用ベルトコンベヤ部品で国内シェア52%を誇るニッチトップメーカーだ。自動化技術を外販するロボットSI(システムインテグレーター)事業とともに成長軌道を描き、直近5年でグループ売上高は1.5倍、営業利益も2.6倍に急伸し100億円企業の仲間入りは目前だ(2024年2月期見通し)。
持続的な成長発展を遂げ、さらに加速度を増すために注力するのがM&A戦略である。その胎動は、浜口稔氏が社長に就任した2014年から推進するソリューション営業にあった。
「当社の屋外用ベルトコンベヤ部品の国内シェアは、当時すでに40%を超えていました。ニッチな市場なので景気の影響を受けやすいリスクをはらみながら、大崩れしないものの、大化けの成長もない経営状態でした。日本経済がシュリンクしていく中、規模が限られたマーケットにおける長期的な成長を考えると、代理店営業を中心に壊れた部品の代替を供給する消耗品ビジネスの延長線上では、将来に大きな不安がありました。
そこで、コンベヤを使う現場へ直接出向き、お客さまの声を聞くことで何か解決策を見いだせないかと考えました。顧客訪問を始めると、コンベヤ部品のプロとしてさまざまな現場の課題に気付きました。コンベヤ搬送は、工程間をつないだり、原材料を運んだり、作業の工程で重要な役割を担っており、その働きが生産性に直結します。それなのに、『コンベヤはトラブルが起きるもの』という認識がお客さまに定着していました。それを改善しようと提案したのが、ソリューション営業の始まりです。
結果として、生産性が向上することでお客さまが喜んでくださり、当社も付加価値を付けた改良品や新製品を作り出すことができ、良い循環が生まれました。あれから10年がたちましたが、たゆみなく今でも進化し続けています」(浜口氏)
進化のプロセスには、新たな発見があった。「困り事の解決」ビジネスを、コンベヤ部品だけでなく工事やメンテナンスなどの周辺領域へも面的に広げることができれば、1万社以上あるコンベヤユーザへの提供価値が生まれ、さらなる成長が可能になることに気付いたのである。その手段として2016年に初のM&Aを実現。2023年までに4件が成立した。
「いずれも良い出会いをご紹介いただき、シナジーを生み出した成功事例です。2024年3月には、戦略的にM&Aを推進する戦略投資部を新設したところです」(浜口氏)
M&Aによる成長戦略の本格始動へ、戦略投資部を統括するのが執行役員CFO(最高財務責任者)兼CSO(最高戦略責任者)の常川陽介氏だ。
「全社のハブとなってJRCらしいM&Aを推進しようと考えています。過去4件の成功ノウハウをベースに、今後は上場企業としてのガバナンスやリスク評価、株主が安心できるようなデューデリジェンス、高値つかみにならない契約条件なども重要になります。
M&A戦略は大きく分けて3つのフェーズがあります。ソーシング(交渉相手の選定)、エクゼキュージョン(適切な手法の実行管理)、PMI(契約締結後の経営統合プロセス)で、最も大事なのがPMIによるバリューアップ。当社から幹部人材を送り込み『One JRC』の一体感とシナジーを生み出すことです」(常川氏)
未来の成長を現実にするM&Aの原体験は2016年、コンベヤ本体のメーカーで設計・メンテナンスを手掛ける商栄機材(現・JRC C&M)の完全子会社化だ。初めてのM&Aは仲介会社からの紹介で、全てが手探りだったと、浜口氏は振り返る。
「相手は当社部品の販売先で、71歳のオーナー社長は後継者がいないため承継先を探していました。他のコンベヤメーカーがお客さまですし『競合は難しい』とも考えましたが、部品から本体へと、将来のマーケットを広げる大きなチャンスでした。
決め手となったのはトップの人柄でした。ビジネスシナジーがあることは大前提ですが、M&Aはそこが最も大事だと思っています。人柄や社風が当社に合わないと感じたら、そこから先に進めません。5社の競合案件の中で、当社の条件が最高額ではなかったにもかかわらず選んでいただけたのは、シナジーの高さや社員の雇用継続の安心感、社風が似て近しいことを評価いただいたのだと聞いています」(浜口氏)
M&Aのシナジーは着実に生まれている。設計、製作から据付工事、定期点検、メンテナンスまでのワンストップ対応を強みに、グループ内のクロスセル営業の連携も深め、ベルトコンベヤの累計納入実績は全国で1000基を突破。JRC C&Mの単体売上高は、買収時には6億円だったのが約16億円(2024年2月期)となり、営業利益も1000万円から2.6億円(同)へと成長を続けている。
M&Aの契約はトップ同士で決めるが、シナジーを生むのは現場だ。経営統合後は、待遇改善や新工場建設などで働きやすさを実感する環境づくりを重視。One JRCとしてのグループ意識を浸透させ、ネガティブな摩擦を起こさないよう社員の信頼を培うことに心を砕いた。
「社名を商栄機材からJRC C&Mへと変更し、関係会社の方から『JRCさん』と呼ばれるようになって、さらに連帯感が高まったように感じています」(浜口氏)
2018年に、コンベヤ部品・プーリのゴムライニング加工の外注委託先メーカーを完全子会社化。自社一貫生産体制を確立し、メンテナンスも含めたトータルソリューションの事業展開を強化。2023年にはJRC C&Mが福島県の部品メーカーを買収し、手薄だった東日本エリアの営業拠点・製造体制を拡充した。
ロボットSI事業では2021年に外資系エンジニアリング企業から、食品・医薬品分野に特化した自動化パッケージングテクノロジーのロボットSI事業を譲り受けた。
「2017年に自社ブランド『ALFIS』を立ち上げ、お客さまを獲得していく段階でした。技術とノウハウを組み合わせることで、スピードアップとパワーアップのシナジーが生まれ、それまであまり取引がなかった食品や医薬品関連の会社への販売ルートを構築できました。
使いやすく、導入しやすく、人の作業に置き換わる高品質なロボットシステムの開発や自動化ソリューションを提供するのに加えて、日本が直面する人手不足の社会課題を解決し、ものづくり現場の強靭化にも貢献する。そんなロボットシステムインテグレーターとして、着実に業績を伸ばしています。事業展開の幅を広げながら、未来の経営の柱へと育てていきたいです」(常川氏)