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モデル企業

戦略×成長M&A

コスト削減による利益創出から、投資によって付加価値を高めるビジネスモデルへの転換が必要な今、 買収という手段で迅速な事業展開が可能となる M&A は、企業に不可欠な経営技術である。 しかし、戦略なき M&A はシナジーを生まない。 成長戦略と M&A の掛け算によるシナジーで、 自社の価値向上と持続的な成長を目指すメソッドを提言する。
モデル企業 2024.06.01

人をつくり、事業をつくる。戦略的M&Aで成長を加速させる

三和建設

人をつくり、事業をつくる。戦略的M&Aで成長を加速させる:三和建設

 

食品工場やオーダーメイド型倉庫の建設で業界をリードする中堅ゼネコンの三和建設は、ここ10年余りで7社のM&Aを実施。事業の専門化・高度化を進めると同時に、幹部人材のさらなる成長につなげている。

 

総花的な事業スタイルから脱却し重点分野に集中

 

三和建設は大阪府大阪市に本社を置く総合建設会社だ。創業は1947年。創業以来、企業の生産・物流施設、マンション、商業施設といった建設工事や官公庁の土木工事など幅広い分野の工事を手掛ける中堅ゼネコンとして成長を遂げてきた。

建設プロジェクトの元請けだけでなく、下請け工事や戸建住宅の建築も引き受ける全方向の経営スタイルで事業を広げてきた同社だが、ここ十数年は独自技術を用いた賃貸集合住宅設計・建築「エスアイ®200」、食品工場に対するトータルソリューション事業「FACTAS®(ファクタス)」、完全オーダーメイドの専用倉庫の設計施工を行う「RiSOKO®(リソウコ)」をブランド化するなど、他社と差別化を図るブランド戦略を積極的に展開。総花的な経営スタイルから脱却し、事業領域を絞って重点分野に集中する戦略へ大きくかじを切ったのが、2008年に代表取締役社長に就任した森本尚孝氏だ。

「顧客に選ばれ続けるには、どこの建設会社でもできる工事ではなく、自社にしかできない分野に重点を置くべきだと考えました。当社では、食品工場と集合住宅、特殊倉庫を3大強化分野と位置付けて競争力を高めていくブランド戦略を採っています」(森本氏)

 

「人を大事にする」「こだわりを持つ」企業を重視

個性を磨く。これはM&Aにも共通する考え方だ。同社は2014年の小川電設を皮切りに2017年にはソークエンジニアリング、2020年にコアー建築工房とAgec、2022年に潮設備コンサルタントと森塗装工業、2023年に三共空調を三和グループに迎え入れた。

7社とも株式を100%取得する形でグループに迎えている。いずれも本業である建設業に関連する事業内容であるが、それだけでなく、特定の分野で高い専門性を持っていたり、事業にこだわりが感じられたりする企業が並ぶ。

その意図について森本氏は、「三和建設の事業の何らかのプロセス強化になる企業であること。営業や仕入れ、技術も含め、本業である建設業に関連する企業との連携を前提にM&Aを進めてきました」と説明する。

例えば、2014年に提携した小川電設(兵庫県尼崎市)は創業から電気工事を生業としてきたが、事業所向けに電気・制御・計装工事に加えてプラント・通信の企画提案、設計、施工、メンテナンスまで一貫体制で提供するワンストップサービスを得意とする。こうした戦略は、顧客ニーズのヒアリングから提案、設計、施工までを担う三和建設の設計施工一貫方式に通じる。

あるいは、2020年にグループ入りしたコアー建築工房(大阪府堺市)は、自然素材を用いた注文住宅を手掛ける工務店として、地域の景観や環境に配慮した家づくりにこだわっている。これも、重点分野に事業を絞り込んだブランド戦略を採る三和建設と共通する。

「コアー建築工房はBtoCのビジネスモデルですが、顧客を絞って事業展開されているなど考え方が似ていて親和性があります。また、国は非住宅の木質・木造建築を推進しているところですから、この先、技術面でも三和建設に取り入れていく部分が多くあると考えています。事業にこだわりを持ち、それを戦略に掲げて実践している会社や、今後そのような形になっていく姿が想像できるような会社こそ、グループとして一緒にやっていきたい会社です」(森本氏)

M&Aにおいては、第一に買収先の事業が三和建設の事業領域と重なること。つまり、三和建設が買う意味のある会社であることが重要だが、同時に「買収される側の企業にとっても三和グループに入る意味があることが大事」だと森本氏は言う。そのためM&Aを検討するに当たっては、戦略もさることながら経営者の価値観や考え方を森本氏は重視する。中でも大切にしているのが、人に対する考え方だ。

「価値観で言えば、最も重視しているのが何らかの形で人を大事にしている会社であること。人を大事にすると言ってもさまざまな考え方がありますし、手法も違いますが、入り口の時点で人を大事にしていると感じられる会社であることは譲れない条件です」と森本氏は強調する。

 

【図表】三和建設グループ会社
【図表】三和建設グループ会社
出所 : 各社コーポレートサイトなどを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成