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【特集】

経営者人材育成

後継者不在率が過去最低の 53.9%、内部昇格による事業承継が初のトップ(35.5%)となった今、「経営者人材」の確保・育成に不安を抱える企業は多い。 戦略的な意思決定に基づいて時代に即した事業を展開できる、経営視点を持った人材の育成メソッドを提言する。
2024.04.01

公民連携の未来を描く経営者人材を育成:福田道路

「たゆまず学ぶ」を全階層に浸透させる

しかし、同プログラムには、通常の業務で接することのない異業種の人とつながる機会や、経営者視点で具体的な成長戦略を描く機会までは設けられていなかった。そこで、2023年春から経営幹部研修の一環として新たに導入したのが、全社的な視野で経営課題に向き合い、新たな戦略を構築する技術を学ぶ、タナベコンサルティングの「戦略リーダースクール」である。

戦略リーダースクールでは、異業種企業の参加者とチームを組み、ディスカッションを重ねながら自社の成長戦略を策定し、中期経営計画の骨子を描く。福田道路は、執行役員を含む50歳から61歳までの部門幹部10名を海野氏が選抜。2023年と2024年に各5名が参加している。

「戦略リーダースクールは『自分が会社を経営する』という意識を全社的に醸成する機会と位置付けました。スクール参加者は皆、50歳を超えたベテラン社員であり、社内で新しいことを学ぶ機会がほとんどなくなっていたため、異業種の経営幹部候補の方々との“他流試合”で切磋琢磨し、大きな刺激を受けているようです。

課題として掲げられている財務分析や中期経営計画の骨子策定については戸惑うことも多々あるようですが、それがきっかけで若い世代に対する日々の働き掛けが活性化すれば良いと期待しています」(海野氏)

同社社員の年齢構成は、60歳代が15%、50歳代が40%、40歳代が15%、30歳代と20歳代が30%。「会社を存続・成長させるには、過半数を占める50歳代以上の社員を筆頭に、全世代が謙虚な心を見失うことなく学び続け、これから先も社会から必要とされる会社であり続けなければならない」と海野氏は語る。

経営者に求められる「傾聴力」

全国の地方自治体では、道路の管理業務を担う職員が慢性的に不足している。その中で、高収益構造をどうデザインすべきか。同社の戦略リーダースクール参加者は、ビジネスモデルの刷新についても議論を深めているという。

「当社は顧客の課題に寄り添い、点検・補修の省人化やインフラの長寿命化に向けてAIを活用した新技術の開発に取り組んでいます。これからは、請負会社として与えられた仕事をこなすだけではなく、PFI(民間の資金・ノウハウを活用した民間主導による公共サービスの提供)をはじめ、さまざまな公民連携のスキームを駆使しながら、インフラを維持管理するためのトータル・ソリューションを提案していく必要があります。

社内で例年開催している『技術発表会』でも、ICTの活用など創意工夫の事例を数多く共有しています。戦略リーダースクール参加メンバーがアウトプットしたアイデアとともに、現場で働く社員の声を次の中期経営計画に生かしたいと思います」(海野氏)

海野氏自身、社長就任前から先代に意見を求められたり、相談したりする機会が多かったことが、スムーズにバトンを承継できた一番の要因だと考えている。就任以来、週1回の定例ミーティングなどで取締役や部門長と情報や意見の交換を重ねる海野氏だが、戦略リーダースクール参加者とも現状認識を共有し、事業戦略のアクションプランなど、さまざまな提言を行う機会を設けている。

「社長就任はゴールではなくスタート。具体的なビジョンは、実際に就任してから示すことになるでしょう。研修の段階でしっかりと伝えておきたい経営者としての姿勢は、『聴く姿勢』です。今は現場周辺に暮らす地域の人々への配慮や貢献度も問われる時代ですから、社員・顧客・地域の人々の声に耳を傾けられるリーダーでなければならないと、自分自身に日々言い聞かせています」(海野氏)

傾聴の重要性を強調する背景には、働き方改革を進める中、業務が効率化される一方でOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)に充てる時間が確保しにくくなるというジレンマに直面しているからだ。

フクダグループ全体で大切に受け継いできた「100年先も誠実」というスピリットは、机上だけで簡単に学べるものではないと海野氏は語る。

「当社のような事業においては、一足飛びにいきなり経営者になることは難しいでしょう。最初は小さなチームからスタートし、少しずつ大きな組織を束ねて運営していく。その中で自然と経営者としての素養が身に付き、考え方も成長していくのだと思います」(海野氏)

 

多様な人財を輝かせ道路インフラを守り続ける

「新たな歴史を共に築こう! 〜一歩先行く視点で持続可能な未来を拓く〜」をコンセプトに推進している中期経営方針「VISION2024」では、多様な「人財」の活用も柱の一つに掲げる。

「建設業界はまだまだ『男社会』と見られているかもしれませんが、私自身は『女性にできないことはない』と思っています。多様化する顧客ニーズに応えるためにも、性別や国籍、障害の有無にかかわらず、多様な方々を仲間として迎えていきたい。そのための環境整備には、さらに力を入れていく方針です」と海野氏は語る。

2024年の年頭に発生した「令和6年能登半島地震」も含め、同社の社員は災害時には即座に現場へ駆け付け、また冬季には昼夜問わず除雪作業に当たっている。

「社員は皆、会社のためというより社会に対する使命感から迅速に動いてくれています。当たり前すぎて注目されることは少ない道路ですが、皆さんの毎日の生活を支える仕事をしているという誇りを胸に、今後も努力していく所存です」(海野氏)

 


福田道路 代表取締役会長 海野 正美氏

 

 

福田道路(株)

  • 所在地 : 新潟県新潟市中央区川岸町1-53-1
  • 創業  : 1949年
  • 代表者 : 代表取締役会長 海野 正美 代表取締役社長 坂上 浩則
  • 売上高 : 284億円(2023年12月期)
  • 従業員数 : 726名(2023年12月現在)

 

 

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