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【特集】

経営者人材育成

後継者不在率が過去最低の 53.9%、内部昇格による事業承継が初のトップ(35.5%)となった今、「経営者人材」の確保・育成に不安を抱える企業は多い。 戦略的な意思決定に基づいて時代に即した事業を展開できる、経営視点を持った人材の育成メソッドを提言する。
2024.04.01

未来とキャリアを自らつくる:ピジョン

経営者のスケール感で未来を語れる力を

 

2004年に開始した選抜研修は6年に1回、3年間かけて実施する。狙いは、持続的な成長と企業価値向上を担う人材を発掘・育成すること。45歳以下かつリーダー等級以上の社員が自薦・他薦でエントリーし、「発掘→育成→活用→登用プログラム」の4段階で選抜を重ねていく。最終の登用プログラムには0~5名が残り、2年以内に本部長・部長職や子会社社長などの要職が任される。

 

2022年に実施した4回目の選抜研修には、30~40歳代の社員約50名がエントリー。応募理由とプログラム終了後の自分の成長イメージとその実現のために何をしたいかといった課題をリポートで提出した。その中から20名を選抜し、最初の発掘プログラムが始まった。

 

「1年目の発掘プログラムと育成プログラムは、ビジネススクールのように、他社事例を題材に、専門家の外部講師による集合研修・映像講座でインプットやリポートの提出、オンラインディスカッションを重ねていきます。発掘プログラムは、社長のリーダーシップとは何かを学びながら、経営人材としての基礎や素地の保有度、意欲や覚悟をチェックします。

 

育成プログラムの受講者は、経営人材としての知力とマインドを整えることを目的に、ファイナンスやアカウンティング、マーケティング、組織人材、DX、経営哲学など、経営に必要な知識を総合的に身に付け、研修でのナレッジとリーダーとしての器や魅力を評価軸に定量化して、さらに10名に絞り込みます。

 

2年目の活用プログラムでは、自社の課題解決をテーマに、経営者目線でどこに着眼し、なぜ、何をどう変えていくのかを具体的に1名ずつ描き出します。経営層への最終プレゼンテーションを経て、今回は登用プログラムに4名が進んでいます。最年少のエントリーだった33歳の社員も活用プログラムまで残りました」(若山氏)

 

各プログラムは、人事部が事務局となって運営し、外部アセスメント機関とともにカリキュラムを作成する。選抜研修の最大のポイントは、経営層がほぼ関与せず、独立性を担保していることだ。現経営陣による後継者指名ではなく、客観的な評価軸で経営センスも含めてアセスメントしている。また、参加者の担当業務や専門性の基本情報以外、現在の業績やパフォーマンスを考慮しないのも、経営層の期待度などのバイアス要素を生じさせないためだ。

 

「選抜研修は、オーナー色の強い企業から実力主義のパブリックカンパニーに変えていこう、との思いから始まりました。ですから、経営層が口を出したら、結局何も変わらないままですし、その意味で客観性や透明性をとても大事にしています」(若山氏)

 

この選抜研修実施の判断は、オーナー経営者にとって大きな覚悟と決断が必要だったはずだ。だが、その先見の明は今、現取締役経営陣や、執行役員、部長職の多くが選抜研修のプロセスを経験したメンバーで、重責を担う経営人材に育ったという成果につながっている。自らも選抜研修を経験し、事務局でもある若山氏は、研修カリキュラムを通して「部長クラス人材」と「経営者人材」との視座・視野・視点の違いを実感した一人だ。他の受講者に向けた、今も心に残る講師の言葉がある。

 

『あなたは経営者ではなく部長になりたいのですか?』と研修時に聞かれていました。描く発想のスケールが小さ過ぎるという厳しい指摘です。今の立ち位置や視座で考えるのではなく、経営者になってビジョンや未来を語ることが大前提で、徹底的に経営者としてのリーダーシップとは何かを磨かれていました。

 

例えば、想像力も大切な要素の1つですね。知識はあっても、それらをどのように組み合わせて、中長期的に組織を動かし企業価値を高めていくか。そんなスケール感で物事を考えたことは、私自身もそれまでに経験した仕事の中ではありませんでした。プレゼンテーションも駄目出しの連続でしたが、繰り返すことで視座が上がるのを実感しました。

 

登用プログラムで昇格を約束していることも特徴です。運用基準で明確になっていて、自分が経営人材に近づくための第一歩を、確実に踏み出せるわけですから」(若山氏)

 

 

納得いく「ふるい落とし」が成長のトリガーに

 

未来の経営者が着実に育つ選抜研修だが、選抜プロセスで「ふるい落とされた人材」はその後どのような道を歩むのだろうか。過去4回の選抜研修受講生は延べ82名で、登用プログラムに残ったのは10名前後。エントリー数も含めれば100名超を数えることになる。

 

「ふるい落としがある研修が当たり前だと思っています。でも、他社の育成担当者には『それって、なかなかできないよね』とよく言われます。選ばれない人のマインドをどうケアするかで足踏みするみたいです。

 

当社が割り切っているのは、『どれだけ本人が納得できるか』を大切にしているからだと思っています。事務局の人事部が本人と面談し、経営者人材として足りないところをフィードバックして、何をどうすれば良いかを互いに確認し合います。本人が納得できることが、キャリア向上の1つのステップになり、自らの心に火をともし、課題を見つけて対応していくことが、成長のトリガーになります。

 

決して人格を否定するわけではありませんし、最後まで選抜されなかった社員が、後に執行役員になったロールモデルもあります。選抜研修に落ちたから全てが終わりという認識にはさせません」(若山氏)

 

2023年秋から新たに将来の管理職候補として自律・変革型リーダーの早期育成を目的とした「選抜! リーダー塾」を開講。それはまた、さらに次の世代の経営者人材の充実を意味している。

 

「中長期的に海外企業と渡り合うには、優秀な若手人材の獲得と登用、どんな人材が求められるのか、報酬などの待遇面も含め、変えていく必要があります。その解として、個性を生かしながら『Pigeon Way』を体現すること、卓越した手腕を発揮するプロフェッショナル人材が活躍することを基本理念に、人事制度をフルモデルチェンジしました。

 

リーダーになれる可能性を秘めた若くて優秀な社員が数多くいます。そのような人材の早期発掘・育成が、さらなる課題としてとても重要になっています」(若山氏)

 

自分を成長させる自己実現が、部門管理者や経営者になってより多くの人や社会に良い影響を与えることにつながる。そう考える若手社員がリーダー塾で育ち始めたという手応えを、若山氏は感じているという。

 

一人一人の人生と、会社の在るべき姿や目指すところをいかに重ねるか。それが、人が育つために大事であることを、ピジョンの取り組みは示唆している。

 


ピジョン 経営戦略本部 人事部 シニアマネージャー 若山 直樹氏

 

 

ピジョン(株)

  • 所在地 : 東京都中央区日本橋久松町4-4
  • 設立 : 1957年
  • 代表者 : 代表取締役社長 北澤 憲政
  • 売上高 : 949億2100万円(連結、2022年12月期)
  • 従業員数 : 3803名(グループ計、2022年12月現在)

 

 

経営者・人事部門のためのHR情報サイト タナベコンサルティング

 

 

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