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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

未来へつなぐ事業承継

2025年に日本の6割以上の経営者が70歳を超え、127万社が後継者不在と言われる中、次期社長の社内登用や外部招聘によって「所有と経営を分離」する事業承継が増えている。単に今の事業を引き継ぐのではなく、100年先を見据えていかに成長させるか。 そのことを経営目線で考え、未来を描いて自社と事業を継承していく「MIRAI承継」のメソッドを提言する。
2024.03.01

経営とは「雇用を守り、社員の成長を支援する」こと:日本レーザー


日本レーザー 代表取締役会長 近藤 宣之氏

四半世紀にわたり赤字を繰り返す苦境を、親会社からのMEBO※1による独立で脱却した日本レーザー。海外メーカーのレーザー製品を輸入販売するビジネスモデルで、30年連続の黒字を実現した。優良経営を未来にも持続する成功の鍵は、トップが変わり、社員が活性化する「人を大切にする」経営にあった。

 

 

モチベーション向上とMEBO、2つの転機

 

倒産寸前の赤字企業から、長期安定の黒字経営へ。レーザー発明の草創期からの専門商社・日本レーザーが、変貌を遂げる転機は2度あった。最初は1994年、現代表取締役会長の近藤宣之氏が50歳で社長に就任した時だ。

 

「1億8000万円の債務超過で金融機関に見放され、清算も見越した再建へ、電子顕微鏡のトップメーカーで当時の親会社だった日本電子で最年少役員の私に出向の命が下りました」(近藤氏)

 

労働組合執行委員長や10年近い米国勤務で現地社員の解雇を経験した近藤氏は、赤字が続く原因を「モチベーションの欠如」と見抜いた。歴代社長は全員出向で、人事評価や制度も親会社のスキームのままだった。社員に発した第一声で「誰一人、クビにはしない」と雇用を守ることを宣言。モチベーションを大切にする社内管理体制へと一新していった。

 

「プロパー社員は経営に携わるチャンスがありませんでした。英語での交渉など個々のコミュニケーションスキルが大きく問われる輸入商社に、メーカーの制度や評価が合わないのは当然です。モチベーションが高まる要素は皆無でした。そこで、住宅・家族手当を廃止して共通の基礎手当にし、インセンティブを導入。年齢や家庭環境に関係なく、能力と努力の成果を『貢献主義』で評価し、賃金水準を一致させて可視化し、透明・納得性の高いものに変えました」(近藤氏)

 

モチベーション向上の改革は、すぐに成果として表れた。社長就任初年度から2000万円の黒字化を達成し、自らも親会社の役員を退任して退路を断つ覚悟を示した。

 

だが、社員旅行にさえ親会社の承認が必要など、経営の自由度は低いまま。また、近藤氏が定年を迎えて社長を退任すると、再び親会社から社長が出向し、元通りの姿に戻ってしまう懸念も残っていた。

 

時計の針を戻さないためには「親会社から独立する自主経営の確立しかない」。そう考えた近藤氏は、IPO(株式上場)やM&A、MBOなどの選択肢を検討。最終的に決断したのは、日本初のMEBOだった。未来にも成長し続ける経営の実現と継承へ、存亡を懸けた第2の転機である。

 

2007年に受け皿となる新会社JLCホールディングスを設立。親会社から株式額面の6倍、個人株主から3倍の価格で株式を取得。役員が約40%、社員株主は32%の持ち株比率で新たなスタートを切った。

 

「役員だけが出資するMBOではなく、社員との共同出資で株式を買い取り全社一丸で独立を果たしました。前例のない挑戦でしたが、出資を募ると全社員が承諾してくれて、合計額は予定の4倍になりました。私も銀行から1億5000万円の借入金を個人保証しました。失敗すれば自己破産する崖っぷちでしたが、社員一人一人が『自分の会社だ』と当事者意識を強く持つようになりました。モチベーションがさらに高まって最大限の力を発揮し、成長が一気に加速しました」(近藤氏)

 

社員を変えようとする経営者は多いが、まずトップ自身が変わることの大切さを、歴史が物語っている。

 

 

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