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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

未来へつなぐ事業承継

2025年に日本の6割以上の経営者が70歳を超え、127万社が後継者不在と言われる中、次期社長の社内登用や外部招聘によって「所有と経営を分離」する事業承継が増えている。単に今の事業を引き継ぐのではなく、100年先を見据えていかに成長させるか。 そのことを経営目線で考え、未来を描いて自社と事業を継承していく「MIRAI承継」のメソッドを提言する。
2024.03.01

代替わりでイノベーションを起こし 「一流の企業価値」を追求:サンワカンパニー


サンワカンパニー 代表取締役社長 山根 太郎氏

年商56億円、従業員数50名で事業承継した住宅設備機器・建築資材の販売会社を、10年間で155億円、250名の成長企業へと導いたのは、グローバル商社から転身を遂げた当時30歳の「アトツギ」だった。ビジネスモデルと経営理念を一新し、社名も変えて、持続的な企業価値向上に挑む経営とは。

 

 

強みに磨きをかけ業界初に挑んで急成長

 

「社長になった2014年、『売上高1000億円を達成し、在任中に1兆円企業になる』という未来を描きました。国内・海外・新規事業を3本柱に今、売上高は154億円を超え、営業利益100億円も数年先には実現します。

 

事業承継の成功事例として紹介されることが多く、いつも『何が良かったのか?』と聞かれます。自分なりに掘り下げて考えると、一流企業の当たり前が何かを知り、いち早くできるようにしたことですね」

 

そう力強く語るのは、サンワカンパニー代表取締役社長の山根太郎氏だ。山根氏は、大学卒業後に入社した伊藤忠商事で、ミッションやガバナンス、品質・人材、資本・売上高・利益など「一流の企業価値」の大切さを、身をもって学んだ。だが、東証マザーズ上場直後の家業は、自社の品質基準やチェック機能が甘く、ビジネス成長の原動力である人材を育てる文化も乏しかった。

 

「『課題を見つけて解決する』という、当たり前の発想と行動がない会社でした。まずはそういった当たり前ができるよう凡事徹底し、私自身が率先してスピードを上げてきました。ただ、それは反省点でもあります。今のように、熱量高く優秀な人材が集まって自走する組織をつくれていたら、もっと速く成長できたでしょう」(山根氏)

 

それでも就任2年目に過去最高益を記録し、急成長を遂げてきたのには、理由がある。世界中の住設機器メーカーと独占契約した輸入商品と自社開発商品をEC販売し、既存のビジネスモデルに磨きをかけたことだ。

 

自他ともに認める強みは、ミニマリズムをコンセプトとする独自デザインだが、さらに客観的に裏付けるため、明確な指標づくりに注力。14年連続で「グッドデザイン賞」(日本デザイン振興会)を受賞し、海外でも「ミラノサローネ国際家具見本市」(イタリア家具工業連盟)でアジア企業初のアワードを受賞した。

 

価格の透明性も差別化要因だ。中間業者が多く、流通プロセスや価格がブラックボックス化した業界の常識とは一線を画し、メーカー直接仕入れ、EC直販のSPA(製造小売)モデルを確立。流通を簡素化した「いつでも誰でも、適正なワンプライス」で顧客に高く評価され、「施主支給・指定」という新しい言葉を生み、市場に定着した。

 

ITを駆使した完全無人型・スマートショールームやインスタライブによる集客など、業界初の挑戦は現在進行形だ。2021年には新しく戸建て住宅事業も始動した。

 

山根氏は、「事業承継型経営者=アトツギ」のロールモデルとして、人口減少により縮小する国内市場でも、自社や業界を知り、アプローチを変えるだけで収益力を高め、周辺事業の拡大につなげられる、とエールを送る。

 

「経営者は、知らない選択肢は取れません。でも本当に斜陽産業で将来は駄目なのか、全ての策を尽くしているか。選択肢を突き詰めて考えてほしいですし、既存事業で業界1位になる可能性があるなら、残存者利益を目指すべきです。大抵の場合、まだまだ収益を得て成長するチャンスがあるはずです」(山根氏)

 

 

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