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【特集】

グローバルビジョン

人口減少による日本の内需縮小が「確実にやってくる未来」である今、海外進出は全ての日本企業に とって必須の成長戦略となった。自社のグローバルビジョンをアップデートし、それに基づく長期視点の 海外戦略をデザインするメソッドを提言する。
2024.01.05

グローバルビジョンをデザインし、世界経済の変化に挑む:村上 幸一

世界経済のパラダイムシフト

 

世界情勢の変化が激しい。世の中は常に変化していくものであり、環境変化への対応・適合が企業の経営戦略の鍵であることは周知の通りである。しかしながら、アフターコロナの世界情勢の変化は、その大きさよりも構造が特徴であり、私たちにパラダイムシフトを強いるものである。

 

例えば、米中対立の深刻化、ロシアによるウクライナ戦争の長期化、中国の一帯一路政策、そして全世界共通の課題となるインフレーションやスタグフレーション。その対策としての各国の金融引き締め政策および金利の上昇。何よりも、これらに起因する形での円安。名目為替レートで1米ドル150円(2023年10月時点)という値も十分すぎるインパクトがあるが、物価を考慮した実質実効為替レートが、実に固定為替制度当時と同等あるいはそれ以下の価値に下落しているという事実は、私たちが向き合わなければならない厳しい現実である。

 

為替の変動はさまざまな要因に起因するため、未来は予見できないが、日本経済の構造変化によってこの円安の定着化を指摘するアナリストが多いのも事実である。円高・円安の良しあしは、各企業がどの産業で、どのようなビジネスモデルを築いているのかによって異なるため、一概に判断できない。しかし、これが世界における日本のポジションの変化であり、その変化が構造的なものであればなおさら、自社の戦略をアップデートしなければならない。

 

また、日本企業が直面している国内の重要な課題として、少子高齢化に伴う人口減少がある。これはかなり以前から認識されている事実であるが、年々深刻さを増す国内市場の縮小と労働力の不足がそれを非情なまでに体感させる。円安も人口減少も構造的変化であるため、既存の戦略や短期的な経営計画では対応できず、後手に回らざるを得ない。

 

内需縮小の中、海外未進出企業にとって海外進出は持続的成長のための必要不可欠な戦略であり、すでに海外に進出している企業にとっては戦略のアップデートが求められている。

 

グローバルビジョンと2つのポートフォリオ

 

グローバル戦略の策定において重要なのは、長期的視点に立ったビジョンのデザインである。グローバルビジョンは主にグローバルポートフォリオによって形作られる。

 

グローバルポートフォリオは2つに大別される。1つは、自社の製品をどのエリアに販売し、どの国のマーケットシェアを伸ばすのかというマーケットポートフォリオ。もう1つは、どこで開発・製造し、どこに販売するのかというバリューチェーンポートフォリオだ。

 

さらに最終ステージとしては、この2つのポートフォリオが重なり合い、シナジーを発揮していくことを目指す。いわゆるグローバル先進企業は、全てこのステージでビジネスを行っている。日本も含めたこのポートフォリオの組み合わせが、目指すべきグローバルビジョンであり、長期の経営目標となる。当然ながら世界を視野に入れた目標であるため、達成には相応の時間を要する。

 

しかし、このデザインがしっかりしていなければ、多大な投資が必要となるグローバル戦略が場当たり的となり、シナジー(相乗効果)発揮どころか逆に非効率を生じさせてしまう。グローバル戦略とは、中長期でグローバルポートフォリオを構築するための経営計画であり、一貫性が何よりも重要となる。

 

グローバル戦略の第1ステージは、自社商品の商社を通じた海外への輸出(アウトバウンドアプローチ)、あるいは海外の提携工場で生産したものの日本への輸入販売(インバウンドアプローチ)に大別される。

 

第2ステージは、ポートフォリオという観点において第1ステージの複数国展開となる。グローバルビジネスに必ず付いてくる為替変動や国際政治などのカントリーリスクをヘッジする戦略だ。第3ステージは、アウトバウンドであれば、販売拠点としての現地法人の設立、インバウンドであれば、生産拠点としての自社工場の建設になる。いわゆる海外への直接投資のステージとなり、その意思決定と実行のハードルが高くなる。

 

第4ステージは、インバウンド・アウトバウンドともに、海外拠点を中核とした周辺国への拡販である。第5ステージは、開発から製造、販売、アフターサービスまでのバリューチェーンを各国あるいは各域内で完結させ、現地適合化を実現するグローカル最適化モデルだ。

 

そして第6ステージは、原材料の獲得、研究開発環境、生産コスト、市場アクセスなど各国の強みや特徴を最大限に活用する完全国際分業バリューチェーンモデルである。ただし、第5ステージと第6ステージのどちらを理想のデザインとするかは、業界や製品、消費財か生産財か、あるいは同じ消費財でも非耐久消費財か耐久消費財かで異なるため、必ずしも第6ステージが全ての企業にとっての最終形態になるわけではない。

 

自社の現状と各国の社会経済情勢を客観的に分析し、正しい現状認識の下で、自社がどのようなグローバルポートフォリオでどのステージまで目指すのかを定め、ビジョンとしてデザインすることがグローバル戦略の要諦となる。

 

【図表】グローバルビジョンとポートフォリオステージ
グローバルvisionとポートフォリオステージ
出所 : タナベコンサルティング作成

 

 

TCGグローバル戦略コンサルティングの特徴と傾向

 

タナベコンサルティンググループではグローバルビジョン、グローバル戦略、クロスボーダーM&A、グローバルマーケティング・PR、グローバル連結会計、現地法人マネジメント、海外拠点再編支援など、グローバルビジネスの上流から下流までをカバーする一貫したコンサルティングを実施している。

 

今までも数多くの企業の長期ビジョンや中期経営計画の策定をコンサルティングで支援してきたが、アフターコロナの中、その戦略にグローバルポートフォリオ設計を重点として組み入れるケースが急増している。冒頭の通り、加速する人口減少や急激な円安、不穏な世界情勢を目の当たりにし、多くの企業が今まで以上にグローバル戦略の重要性を再認識し、その在り方を模索していることが背景にある。

 

その対象もASEANを中心に米国、欧州、インド、中東と多様化している。このような日本企業のグローバル志向の隆盛こそが、将来、全世界でその存在感を増す布石となる。

 

 

グローバルビジョンをデザインし、世界経済の変化に挑む:村上 幸一

 

Profile
村上 幸一Kouichi Murakami
タナベコンサルティング 取締役
VCにおいて投資先ベンチャー企業の戦略立案、マーケティング、フィジビリティスタディ(事業性評価)など多様な業務に従事。豪州での現地工場の設立と運営、米国の大学とのTLO(技術・特許移転)を通じた大学発ベンチャー企業の日本市場開拓支援など、国境を越えた産学連携の実績を有する。タナベコンサルティング入社後は、事業戦略策定を軸に、ビジネスモデルの立案、新規事業開拓支援、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスなど多岐にわたるコンサルティングに従事。
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