「仕事=作業+意味」で目指す「SMART COUNTRY」:小田島組
小田島組 代表取締役 小田島 直樹 氏
建設現場の残業削減や業務効率化を支援している
地域と業界を変えるファーストペンギン
始業時間に自宅を出て、終業時間に帰宅する。そんな光景を現実にする「通勤革命制度」を導入したのが、岩手県で公共事業・IT関連事業を展開する小田島組である。
社用車の乗り合いや公共交通機関での移動時間を就業中とみなすのは、まさに革命だ。社員は通勤中にタブレット端末で業務を行い、子育て中であれば朝と夕方に余裕を持って保育園への送迎ができる。
「当社の社員は自家用車や遠距離の通勤が多いので、その時間を有効活用して生産性を高めるには、時間管理ではなく業務タスクをベースに管理した方が良いと考えました。いつまでに何をするのか、自律的なタスク管理ができる役職者から制度利用を認めています。自動車の自動運転時代の未来を先取りする狙いもありました」
そう語るのは、同社代表取締役の小田島直樹氏だ。創業家の2代目社長として就任した2003年以来、いち早くICTで業務改善を進め、2006年に経済産業省「IT経営百選 最優秀賞」を受賞。公共工事の談合をやめるなど建設業界の常識を打破しながら、売上高30億円企業に成長を遂げ、「働き方改革」の先進企業としても注目を集めている。
その根底には、地域への思いがある。建設事業のうち公共事業の比率が高いからこそ、地域や地元の人々への恩返しを使命に定めた。
「岩手県は20歳代女性の首都圏流出が多いです。理由は、今と未来に希望が持てず、ワクワクもドキドキもしないから。特に建設業界は、談合の密室政治など若者が嫌う古い習慣や既得権益が色濃く残っています。
見捨てられた地域に希望を持ってもらえるように、『BE A SMART COUNTRY(かっこいい田舎になる)』を目指し、『自分が先頭に立って変えていくファーストペンギン(リスクを恐れず新しい物事に挑戦する個人・企業)になる』と決めました」(小田島氏)
「田舎は賃金が安い」という常識を覆し、スキルも生産性も高めて首都圏に負けない稼ぐ力を持つ社員に。多様性を認め合い、伸びしろをつくり出すイノベーター組織の会社に。そして、無限の夢が大きく膨らむ社会に。人も会社も地域も成長し続ける「SMART COUNTRY」の実現に向けた働き方改革は、着実に進化を続けている。
「セカンド、サードと後に続くペンギンが増えて、地域全体に新しいことに挑戦する姿勢や風土が浸透していくために、まず当社が挑戦を続けています」(小田島氏)
2019年から、毎年20名超の新卒社員が入社する人気企業となり、従業員数は約200名に増加。そのうち100名は10~20歳代で、女性社員は70名を超える。若い世代の社員一人一人が、未来に希望を持ちながら日々働いている証しである。
Whyを伝えHowを求めるコミュニケーション
ガラス張りのオフィスに、毎朝くじ引きで座席を決めるフリーアドレス制。2020年に新設した社屋は、新しい働き方に挑むファーストペンギンにふさわしい、オープンで風通しの良い職場環境が整っている。
さらに、希望者へタブレット端末を配布し、現場から出退勤や日報システムが入力可能な仕組みを構築するなど、ICT導入による業務改善で生産性と安全性、業務スピードを向上。社員がスキルアップしやすい教育カリキュラムを構築し、一部の学習カリキュラムは地域にも開放した。
また、同社が働きやすさを醸成するために大事にするのがコミュニケーションだ。小田島氏が講師となって開催する「社長勉強会」は年間200回、オンラインも含め毎朝、始業時間前の7時から45分間行っている。終業時間後も、グループ懇親会を年間120回実施している。
「同じことでも、『誰が』伝えるかが重要です。『何を』だけでは人は動きません。社長勉強会と懇親会はどちらも就業時間外なので残業代を払っています。そこまで地道にコミュニケーションを取る努力を重ねて、しかも10年以上やり続けないと会社は変わりません」(小田島氏)
「何を」もおろそかにはしていない。経営計画書は全社員に配布し、社長勉強会用のテキストとして活用。経営方針や数字目標など目指す姿や価値観を共有する。一方で「これをやれ!」と命令や指示は出さず、代わりに「Why(なぜ、その仕事をするのか)」の意味を丁寧に説明している。
「私が考えて伝えるのはWhy。社員に求めるのは『How(どのように仕事を行うのか)』です。『仕事=作業+意味』と考えていて、全ての仕事に意味があることを知らないから、『やりがいがない、つまらない』となってしまう。
でも、意味を理解するとやる気が生まれ、『どうすればできるか、より良くなるか』を社員が自分で考え始めます。そして、いろいろと試して行動を起こし、働き方を変える独自の取り組みが増え、働きやすい環境になっていきます」(小田島氏)
コミュニケーションを深めるプロセスでは、個々で解消する「問題」、部署で共有し話し合って打開する「課題」、社員への影響が大きく全社的な課題である「議題」の3つに切り分け、それぞれの段階で主体的に答えを見つける挑戦が認められている。
「現実を見ると、山ほど問題、課題、議題があります。Howを考えると言っても、社員にとっては変わらないのが一番楽ですから」と笑う小田島氏。それでも、「新しい今日」に挑む意識と姿勢は根付き始めている。
働き方改革は新サービスの創出にもつながった。写真整理サービス「カエレル」である。ベテラン社員は、現場仕事を終えても帰社後に施工現場の進捗を撮影した写真や実測データの整理業務で残業を余儀なくされていた。その業務を定型化し、若手社員に任せるワークシフトにより、月平均10~20時間の業務負荷軽減と残業削減を実現。さらに、「同じ課題を抱える建設他社の業務改善と働き方改革につながれば」と、サービス化に踏み切った。
「カエレルを利用する建設会社は大手ゼネコンなど全国に広がり、今も増え続けています。将来的には、業務改善から生まれる新サービスをもっと増やして、建設業界の働きやすい環境づくりを支援する役割も担っていきたいですね。自社で建設現場を持ち、業務を知り尽くし、自ら解決した経験がある、という強みを生かしていきたいです」(小田島氏)