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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2023.11.01

社内・社外、両方の視点から見たM&A成功ポイント 三谷康生氏(神姫バス社外取締役)

DVDレンタルからリユース事業へ業態転換

 

次の事例は、ゲオホールディングス(以降ゲオHD)のM&Aである。三谷氏は2013年から約3年間、ゲオHDのM&A責任者として案件に関わった。当時のゲオHDは、祖業であるゲオショップでDVDレンタルと中古・新品ゲーム販売を中心に事業展開を行っていた。しかし、Netflixなど動画コンテンツ配信サービスの台頭が予想され、将来展望が厳しいことから、持続可能な事業ポートフォリオの確立が大きな命題だった。

 

この状況下で、同社が早くから将来の成長領域と着目したのがリユース事業である。業界が拡大基調にある中、白羽の矢を立てたのがリユースショップを展開するフォー・ユーだった。ゲオHDは同社を2008年に子会社化し、2010年には社名をセカンドストリートに変更して完全子会社化。2013年にゲオHDを存続会社とする吸収合併により事業部化した。

 

「この吸収合併で本格的なPMI(M&A後の経営統合)を開始し、人的交流やブランド統合などを行いました。また、全国に広がるゲオショップの業態転換を図る戦略を展開しました。当時、DVDレンタル市場はゲオHDとTSUTAYAが激しいトップシェア争いをしていました。北関東でDVDレンタルを展開する会社の売却案件が持ち込まれた際には、『衰退分野でM&Aをするのか』という議論もありましたが、TSUTAYAのフランチャイズを主事業にしている上場企業2社に挟まれた地域で、ここをTSUTAYAに完全ドミナント化されるリスクを踏まえ、果断に買収を行いました。

 

現在、ゲオHDのDVDレンタルの全国シェアは6割に迫り、残存者利益を享受しています。成熟事業における“持久戦”という観点では、正解であったと言えましょう。もう一つ重要なことは、この買収で取得した物件を、注力分野であるリユース事業(セカンドストリート)へ業態転換できたことです」(三谷氏)

 

リユース業界はこの10年間成長を続けてきたこともあり、ほとんど水平統合型のM&Aは行われていない。ゲオHDは自前で出店攻勢を続け、セカンドストリートの店舗数は、2014年3月期の366店舗から2017年3月期には555店舗と3年間で約1.5倍に増え、2023年3月期現在は803店舗へと拡大を続けている。結果、成長するリユース業界のトップカンパニーとして好業績を上げ、株価もPBR(株価純資産倍率)1倍を大きく超える水準で推移している。

 

最後の事例が、社外取締役という視点からのM&Aである。三谷氏は2023年10月現在、兵庫県姫路市に本社を置く神姫バスの社外取締役として活躍している。

 

同社グループの売上高は448億円(連結、2023年3月期)。その半分近くが「自動車運送(主に乗合バス事業)」での売り上げだが、旅行業や車両物販・整備、不動産、レジャーサービスなどの事業も手掛けている。過去には旅行会社を買収するなどM&Aの実績を持つほか、2022年に策定した中期経営計画では、不動産投資100億円、成長投資100億円の合計200億円の戦略投資を掲げている。

 

不動産投資は、不動産物件への投資や自社保有地の有効活用を含めた開発事業を行う資金。成長投資は、M&Aによる成長事業の事業拡大やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)投資、DX投資などである。

 

「私は社外取締役として、神姫バスが有益なM&Aを行えるよう提言する役割です。大切なのは、未熟な議論で何となくM&Aを実行してしまうことや、逆に慎重になりすぎてチャンスをつぶさないようにすることです。

 

また、M&Aにはリスクが伴いますが、単にリスクを列挙するのではなく、リスクの本質が何かを探る重要性を伝えるなど、M&Aを実践するための風土が醸成されるように心掛けています」(三谷氏)

 

そのため、社内M&A検討チームの情報収集源の拡張に対する支援や、情報収集先から上がってくるM&A案件の妥当性チェック、社内チームによるM&A案件の取締役会への上申におけるスムーズな意思疎通への助言といった役割も担うという。

 

社内外の異なる立場からM&Aに接してきた三谷氏は、次のように締めくくった。

 

「より良いM&Aにするにはさまざまな要素がありますが、最も大切なのは、売り手も買い手も『良い相手』を明確にすることです。売り手としてなら、相手に『価格』『品格(企業文化)』『スピード感』のどれを求めるのか。買い手としてなら、自社が他の買い手よりシナジーを生み出せる相手であるのか。シナジーの前提となる自社の強み・優位性は何か。これらを整理しておくことが重要です。

 

そして、最終的に『良い相手』とのM&Aを成就させるには、経営者同士・事業内容・企業文化の親和性が必要です。それらを確認するプロセスにおいて、真摯に適切なアドバイスを提供する外部アドバイザー­の存在が不可欠なのです」

 


兵庫県を中心に路線バスや高速バスなどを運行する神姫バス