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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2023.11.01

ROICを根拠にブレのないM&Aで企業価値を向上 オムロン

ポテンシャルを最大限に引き出すM&A

 

2018年に公表し、2019年に実行した、国内での産業向け電子機器の受託生産を専業としていたオムロン直方の台湾アドバンテックへの譲渡も、事業成長のための前向きな一手だ。

 

「オムロン直方では以前から自社製品の製造・販売を目指していました。その中で、IoT技術やエッジAI技術を持つアドバンテックと組めば、その夢がかなうという道筋が見えたのです」(川上氏)

 

株式譲渡時に、株式を段階的に譲渡することで、社員や顧客の不安を和らげるストラクチャーを取ったことに加え、譲渡先のアドバンテックが、社員や顧客にM&A後の方針やシナジーを丁寧に伝えながらPMI(M&Aのシナジーを生むための経営統合プロセス)を進めてきた結果、M&Aによる離職・顧客離れをゼロに抑えることができたという。

 

「譲渡から4年後の2023年4月、久々にかつてのオムロン直方を訪問したところ、当時は日本語しか使っていなかった社長や社員がごく普通に英語で仕事をしていて大変驚きました。M&Aによって潜在的な可能性が引き出されることを改めて実感した瞬間です」(川上氏)

 

「ストラクチャーの在り方は多種多様です。2017年にはモバイル型心電計を開発した米国のベンチャー企業との協業を検討しましたが、100%買収ではベンチャーならではのスピード感が失われてしまう可能性があると判断し、33%の出資にとどめました。その後、心電と血圧を同時測定するデバイスの開発・販売につながっています」と川上氏。2023年9月に公表したJMDCの連結子会社化でも、株式の公開買付け後のJMDCの上場維持の方針を公表している。人材のポテンシャルを最大限に活かすPMIで、リテンションをいかに維持できるかどうかが勝負だと繰り返し強調する。

 

事業ポートフォリオマネジメントにおけるM&Aは、目的ではなく手段である。「各事業部にどのようなリソースがあり、何が欠けているのか」「獲得したい要素(顧客・商品・技術人材など)は何か」、現場を熟知している事業部側のPMI人材や買収後の経営人材をできるだけ早い段階で決定し、それらの人材が主体的に買収に関与・推進していくことが大切だ。

 

「限定的な重要メンバーで構成される投資委員会などを設置し、月1回の取締役会を待たなくても、法的拘束力のない意見表明書や基本合意書をスピーディーに締結できる体制を常日頃から整えておくことも重要なポイントだ」と、川上氏は指摘する。

 

事業環境の未来を的確に予測し、迅速かつ丁寧に事業ポートフォリオを最適化していくには、事業部と本社それぞれにM&Aの経験豊富な人材の配置・育成が求められる。

 

 

 

PROFILE

  • オムロン(株)
  • 所在地 : 京都府京都市下京区塩小路通堀川東入
  • 創業 : 1933年
  • 代表者 : 代表取締役社長 CEO 辻永 順太
  • 売上高 : 8760億8200万円(連結、2023年3月期)
  • 従業員数 : 2万8034名(連結、2023年3月現在)