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【特集】

シン・バリューチェーン

顧客の創造を目的として従来のバリューチェーンを再設計し、数多くの顧客に、数多くの価値を届けていく「シン・バリューチェーン戦略」。タナベコンサルティングが提言するこの戦略を深掘りする「トップマネジメントカンファレンス2023」の第1~3回講話より、変化する経営環境の中で競争力を維持するための「自己変革能力」を学ぶ。
2023.11.01

データドリブン経営でバリューチェーン全体に価値を生み出す:グッデイ

データドリブン経営でバリューチェーン全体に価値を生み出す:グッデイ

嘉穂無線ホールディングス 代表取締役社長 柳瀬 隆志 氏

「日本で最もデータを使いこなせる経営」を目指し、データドリブン経営で成功を収めた九州のホームセンターチェーン「グッデイ」。そのノウハウをバリューチェーン全体に拡大させる挑戦が始まった。

 

データドブリン経営と現場の経験値を融合させる

 

嘉穂無線ホールディングスの子会社であるグッデイは、北部九州と山口県に64店舗を展開するホームセンターチェーンだ。同社はデジタル庁などが後援する日本DX大賞実行委員会主催「日本DX大賞2022 大規模法人部門大賞」受賞により、全国から注目を集めるようになった。旧来の商習慣で意思決定をしていた業務の在り方を180度転換し、データドリブン経営へ鮮やかにシフトしたことが評価された。その取り組みは単に業務を効率良くして売り上げアップしただけでなく、社員の意識変化を起こし、さらには「数字を見る企業文化」にまで発展させた点が高い評価を受けた。

 

この大転換の指揮を執ったのが嘉穂無線ホールディングスの代表取締役社長である柳瀬隆志氏だ。三井物産に勤務していた柳瀬氏が、家業であるグッデイに入社したのは2008年のことだった。

 

「入社した当時は、メールもインターネットも使っていないIT環境でした。システム部の主な役割といえば、POSシステムの維持・管理。データは日々蓄積されたのですが、まったくデータを生かしていない状態でした」(柳瀬氏)

 

また、企業文化としても「経験と勘」が重視されるなど、当時は既存の仕組みを変える気風はまったくなかった。そんな同社に転機が訪れたのは2015年のことである。新しく入社したシステム部長が、クラウド上にデータウエアハウスを作ったことをきっかけに、柳瀬氏は大量のデータを蓄積して分析に利用できるデータウエアハウスで、何ができるかを自ら学んでいった。

 

当時のグッデイでは、データ収集や分析にエクセルを使っていたものの、データ分析に煩雑な作業と膨大な時間を要するため、経験と勘の文化から抜け出せないでいた。ところが、データウエアハウスを使っていくうちに、今まで大変だったことが簡単にできることを柳瀬氏は知った。

 

「データを活用して意思決定するデータドリブン経営への移行を、すぐに決断しました。まずは、データを基に考えていく経営方針を立てて、次にデータが駆使できる環境をつくり上げる。そして同時にデータを集計・分析できる人材も育てていく経営に切り替えたのです」(柳瀬氏)

 

これまでは、店舗ごとに実演販売を行っても、その結果を検証することはなかった。しかし、データドリブン経営へ切り替えてからは実演販売を行う際に、各店舗の実演販売の売り上げを全てデータ化した。そして、実演販売の仕方や宣伝にどのような言葉が使われたのかも記録。よく売れた方法やキャッチコピーなどのデータを共有し、他店舗へ水平展開したことが売り上げアップにつながった。

 

経費削減の施策にもデータを活用した。電気代の高騰により節電対策の提案が経理部から上がった際には、全店舗の30分ごとの電力消費量を分析した。すると、営業時間外の夜間に多く電力消費をしているという予想外の結果が出たため、現場にそのデータを共有。理由を聞いた結果、自動販売機や冷蔵ショーケースが電気を消費していたことが判明し、夜間の使用をやめることで、電気代を削減できた。

 

「こうしたデータ分析と現場の経験を融合させることで、売り上げアップや経費削減などあらゆる場面で大きな効果を上げています。『旧来の方法にこだわる社員からの抵抗に合わなかったのか?』と良く聞かれますが、それがまったくありませんでした。データは現実を如実に反映しているので、数字を見せることで皆が納得できるわけです。新しい概念だけだと反発は起こりやすいのでしょうが、数字を基に話をしたことでシンプルに伝わったと言えるでしょう」(柳瀬氏)

 

 

データを生かした店舗の運営

 

データドリブン経営をするためには、データ分析環境を構築しなければならない。この環境整備に膨大な手間とコストがかかるのではないかと危惧する企業は少なくないだろう。

 

グッデイの場合、データウエアハウスやデータ分析ができるソフトウエアを導入し、廉価なコストで利用できる仕組みを構築した。

 

まず、既存の人事や会計などの基幹システムや店舗のPOSシステムのデータに加え、気象データ、市場データなどを収集し、それをデータウエアハウスで一元管理する。次にソフトウエアが大量のデータを分析した結果をグラフや表などで可視化。ダッシュボード上に表示する(【図表】)。

 

【図表】データ分析基盤の構築
データを生かした店舗の運営
出所 : グッデイ提供資料よりタナベコンサルティング作成

 

「例えば、社外のデータの活用であれば、Googleマップのクチコミ情報を活用して顧客満足度の向上を図っています。『Googleマイビジネス』というGoogleマップ上に店舗を掲載できる無料ツールを利用すれば、いつ、どの店で、どんなことがあったのかが把握できます。

 

クレームに関するクチコミの大半は、品ぞろえと接客に対するものです。各店舗の店長はこうした情報をすぐに見ることができるので、課題解決に向けた手を迅速に打てます」(柳瀬氏)

 

同様に、自社の過去のデータを分析するとトレンドの変化も簡単に把握できる。ホームセンターでは、日用品やペット用品、園芸、建材、道工具など多岐にわたる商品を取り扱う。そのため、同社ではジャンルや製品別の売れ行きの変化を月次や年次でグラフへ落とし込み、把握している。グラフを見ることで、売れ筋商品の仕入れや品出しはもちろん、効果的なキャンペーンも打ちやすくなった。

 

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