TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

パーパスから描く未来戦略

企業活動の持続可能性が重視され、企業に「パーパス」を求める機運が高まる中、自社の存在意義やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を再定義する企業が増えている。パーパスの実現に向けた中長期ビジョンを構築し、事業計画に落とし込んで、自社の成長を加速させるメソッドを提言する。
2023.08.08

共感を生むパーパス経営:巻野 隆宏

 

パーパス経営につながるESG・SDGs

 

企業の価値を測る物差しとして、非財務情報の重要性が日に日に高まっていると実感する人は多いのではないだろうか。売り上げや利益が企業にとって重要であるという事実は間違いない。その上で、売り上げや利益を将来にわたって持続的に生み出すための「非財務の要因」を明確に示すことが求められている。

 

要は、結果としての売り上げ・利益ではなく、どのように売り上げ・利益を上げていくのかというプロセスが重要ということである。

 

非財務情報としてESGの文字をよく目にする。EはEnvironment(環境)、SはSocial(社会)、GはGovernance(ガバナンス)の頭文字を取ったもので、環境・社会・ガバナンスへの取り組みが企業のサステナビリティ(持続可能性)にとって重要なキーワードとなっている。

 

企業がESGへ配慮した経営を行う傾向が強くなっている背景には、企業経営のサステナビリティを評価するという概念が広く普及したことがある。気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、ESGは注目されているのである。

 

そして、ESGへ取り組む自社らしい意義を明文化したものがパーパスである。TCG(タナベコンサルティンググループ)は、パーパスを「貢献価値」と捉えている。ESGにつながる社会課題や環境課題への貢献価値が見えないようなパーパスでは、ステークホルダーの共感は生まれないだろう。

 

パーパスは社会へのコミットメントである。まだパーパスを明確に定義されていない企業は、ぜひ策定していただきたい。自社の貢献価値をESGの視点でアップデートすることをお勧めする。

 

 

社員や顧客の共感を生む一連のストーリー

 

企業のESGへの取り組みは、世界的な課題であるSDGsの達成につながっている。2015年9月、ニューヨーク国連本部において開催された「国連持続可能な開発サミット」にて、150を超える加盟国首脳の参加の下で採択された世界共通の未来ビジョンがSDGsである。その成果文章としての「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には、次のような文言が記載されている。

 

「この偉大な共同の旅に乗り出すにあたり、我々は誰も取り残されないことを誓う。」

 

「このような広範でユニバーサルな政策目標について、世界の指導者が共通の行動と努力を表明したことは未だかつてなかった。」

 

「民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である。」

 

「民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める。」

 

人類史上類を見ない規模の世界ビジョンであるSDGsに企業として取り組む意義は非常に大きく、SDGsの達成には民間企業の取り組みが不可欠である。こうしたSDGsの視点も自社のパーパスに取り入れることで、貢献価値のインパクトを高めることができる。

 

「パーパス→ESG・SDGs→サステナビリティ」という一連のストーリーが社員や顧客の共感を生むポイントであり、パーパスから始まる共感経営を「パーパス経営」と呼ぶ。

 

パーパス経営の目指す姿

 

社員や顧客の共感を生むパーパスを掲げ、企業としての貢献価値をアップデートし、サステナブルなパーパス経営に取り組むための考え方を整理する。

 

先述したが、パーパスは社会へのコミットメントである。全社員が自社のパーパスに共感して社会にコミットし、実行するものでなければならない。よってパーパス策定には全社員が関わる必要がある。全社員の意見を集めて対話を繰り返し、自社の貢献価値の本質を掘り下げる作業を通じて策定するパーパスであるからこそ、社員や顧客に共感を生む。

 

また、大事なことは、社員とともに策定したパーパスに自社らしさがあるかという点である。

 

繰り返しになるが、パーパスは自社が社会にコミットする貢献価値である。どのような形で社会や環境に貢献するのかは、各社それぞれだ。そこに自社らしさが表れてこそ、共感を生むパーパスとなる。これからパーパスを策定する企業は今一度、「パーパスに自社らしさがあるか」を念頭に置いていただきたい。

 

企業の最上位概念は理念である。理念は不変のもので、企業活動を通じて追い求めていく概念でもある。その理念に基づき、どのような貢献価値を発揮するかを定めたものがパーパスだ。

 

貢献価値というパーパスは不変ではなく、長期の視点で見ると変化する。そしてパーパスの考え方の下、ある一定の時期における在るべき姿、なりたい姿がビジョンとなる。この理念、パーパス、ビジョンを整理することが重要となる。

 

理念:企業活動を通じて追い求めていく不変の概念

 

パーパス:社員の共感の下、社会にコミットメントする貢献価値

 

ビジョン:パーパス経営により実現したい在るべき姿、なりたい姿

 

不変の理念の下、自社らしさをもって社員や顧客の共感を得るパーパスを掲げ、ビジョンに向けて全社員が貢献価値を発揮する。これがパーパス経営の本質であり、目指す姿である。

 

アフターコロナに向けて、世の中はまた大きく変化しようとしている。短期の視点で見ると変化が激しく先が見通せないと感じられることも多いが、長期の視点で貢献価値を考えるとブレずに前進できる。

 

短期視点で右往左往することなく、長期視点で貢献価値の意思を定め、全社員共感の下で、ESG・SDGsの先にあるサステナビリティに向けてパーパス経営に取り組んでいただきたい。

 

 

 

 

 

 

Profile
巻野 隆宏Takahiro Makino
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン エグゼクティブパートナー
専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。企業の持続的な変化と成長のサポートに取り組み、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に中・長期ビジョン構築において事業の選択と集中で高収益ビジネスモデルへの変革を数多く手掛けている。
パーパスから描く未来戦略一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo