TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

ブランドビジョン

変容した社会の価値観に対し、自社の存在価値(パーパス)を再定義する企業が増えている。ブランドにおいても、そのビジョンを明確化し、戦略から実践まで落とし込んで成果を上げている事例から、非価格競争を実現し、ブランド力を研ぎ澄ます要諦を学ぶ。
2023.07.10

裏方として消費者と業界に感動と利便性を:ドルビーラボラトリーズ

 

 

映画館のスクリーン上や家庭用オーディオ製品のパッケージでドルビーラボラトリーズのロゴマークを目にする機会は少なくない。優れた独自の音響技術を提供することでライセンスビジネスを確立し、BtoB企業でありながら、一般消費者にも信頼できるブランドとして認知された同社の取り組みに迫る。

 

 

半歩引いて、仕事をする

 

ドルビーラボラトリーズの創業は1965年。音響技術の研究者レイ・ドルビー氏がロンドンに設立した研究所に端を発する。

 

ビートルズやローリング・ストーンズが新風を巻き起こし、音楽業界全体が大きな変革期を迎えていた当時、肝心の録音機は性能が追い付いておらず、関係者は「雑音」という致命的な課題に悩まされていた。

 

その状況を知ったドルビー氏は、「究極のパフォーマンスを真摯に追い求めるアーティストたちが奏でた音を、ありのまま人々に届けたい」と、1966年にノイズリダクションシステムを発明。音声データから不要な環境騒音などの雑音を取り除いて音声を聞き取りやすくするドルビーの革新的技術は、レコードやテープ、ビデオなどあらゆるタイプの録音機に採用され、やがて音楽のみならず映画の業界でも歓迎されるようになった。

 

1977年には映画館用に開発したサラウンド音響処理技術「ドルビーステレオ」を初採用した『スター・ウォーズ』(ジョージ・ルーカス監督)が公開され、臨場感あふれるサウンドが観客を魅了した。

 

「ドルビーの努力によってサウンドは映画製作における重要な芸術要素となり、表現の可能性が大きく開かれた」と製作者からも絶賛され、映画作品に続々と採用されるようになった。それらを上映する映画館では技術の導入が必然的に進められ、ドルビーのサラウンド技術は瞬く間にデファクト・スタンダードの地位を確立した。

 

「創業以来約60年間、当社が一貫して大切にしてきたのは『Creator’s Intent』。つまり、アーティストの意図を尊重することです。良い音とは何か、良い映像とは何かを私たちが決め付けるのではなく、半歩引いて、どのような作品にしたいのかというアーティストや製作者の思いに寄り添うことに徹してきました。当社は有名IT企業の本社が多くある米サンフランシスコのベイエリアに拠点を構え、米国市場に上場もしています。しかし、ビジネスモデルは短期的な利益至上主義とは一線を画していると思います」

 

そう語るのは、同社の日本法人の代表取締役社長である大沢幸弘氏だ。目先の損得に走らず、脚光を浴びることにも執着せず、縁の下の力持ちとして黙々と良い技術を開発することに専念してきた同社のスタンスは、100年以上の長きにわたり時代の荒波を乗り越えてきた日本の老舗企業と通じるものがある。

【図表】ドルビーラボラトリーズの沿革

出所 : ドルビージャパン提供資料よりタナベコンサルティング作成

1 2
ブランドビジョン一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo