その他 2023.06.01

人的資本経営に取り組む企業:日立製作所|伊藤忠商事|ユニ・チャーム

 

イノベーションと成長の源泉は「人財」の多様性:日立製作所

 

 

日立製作所の人財戦略は、2010年5月に発表した経営戦略を実現するための要である。2008年度に7873億円という巨額の赤字を計上した同社は、経営戦略の抜本的な変革を決断。国内中心の製品・システム事業から脱却し、グローバルな社会イノベーション事業で勝負するために大きくかじを切った。

 

新戦略を策定するに当たって重視したのは、事業環境の変化だ。国際社会や地球環境の課題は、同社の製品・システムだけでは解決できないほど複雑化していた。また、2010年の時点で中国のGDP(国内総生産)は日本を上回り、世界第2位の経済大国に躍進。世界の勢力図は一変していた。IoTやAIなどの急速な発達に伴って、デジタル技術やビッグデータを駆使し、社会インフラそのものを革新するソリューションやサービスが求められていた。

 

そのような状況を踏まえて、同社は創業100周年の節目に当たる2010~2012年までの3カ年に総額1兆6000億円を新戦略に集中投資。プロダクトアウト型のビジネスモデルから、顧客や社会の潜在ニーズを掘り起こすマーケットイン型への移行を決めた。その方向性に沿って中長期の人財戦略を描いた結果、浮かび上がったテーマがDE&I(ダイバーシティー・エクイティー&インクルージョン)
である。

 

世界各地の多様な市場を理解するには、多様な人財が不可欠だ。ダイバーシティーの指標は、年齢・性別・セクシャリティー・家族構成・障がい・人種・国籍・民族・宗教など多岐にわたる。日立製作所は人財マネジメントのグローバル化が先決だと考え、2012年度に「グローバル人財データベース(HCDB)」を導入。2013年度には、国内外の課長以上5万ポジションのジョブの重さを同じ尺度で測定する「日立グローバルグレード(HGG)」を作成し、公平な評価と格付けを行うためのシステムを確立した。

 

その後、2016年に研修・評価・キャリア開発・育成計画など全世界のグループ社員データを一元管理する「人財マネジメント統合プラットフォーム」へHCDBを移管。一般社員もスマートフォンやPCから自身のデータを編集したり、他の社員のデータを一部閲覧したりできるようにした。

 

経営陣や人事部門だけではなく、グローバルに職務と人財を見える化したことで、企業は「これから必要になる仕事やスキル」を、社員は「挑戦してみたい仕事や保有スキル」を明示できるようにした。格付け・報酬・配属に対する納得感や、自分でキャリアを開発できる機会の提供が社員エンゲージメントの向上につながり、成長マインドも醸成された。2024年はエンゲージメント指数68.0をベンチマークに、約30万名の人財データの見える化を実現する計画だ。

 

取締役会におけるDE&Iも、明確なKPI(重要業績評価指標)に沿って進められた。人財戦略を開始した2012年度当時、役員層の構成割合は日本国籍の男性が100%で、外国籍も女性も0%だったが、グローバル人財マネジメントシステムを基盤に経営リーダーの選抜・育成を推進してきた結果、2021年には各10%を達成。同社初の外国籍女性執行役員も誕生した。今後は、2024年に各15%、2030年に各30%の割合を目指している。2020年にCDIO(Chief Diversity, Equity&Inclusion Officer)を任命して体制を強化したこと、「30%Club※1 Japan」や「The Valuable500※2」などDE&Iに取り組む国際コミュニティーに参加して成功事例に触れてきたことも、推進を後押しできた要因である。

 

社会イノベーション事業は、2016年に発表した「Lumada(ルマーダ)」をキーコンセプトに展開している。Lumadaとは、顧客データを活用して新たな知見や価値を引き出すDXソリューションの総称だ。同社の強みであるプロダクト・OT(制御運用技術)とITを掛け合わせ、業種・業態の枠を超えた協創であらゆるソリューションを導き出す。

 

例えば、2015年に現地企業を買収して設立した日立レール(イタリア)は、2022年に人口約60万名の都市・ジェノバでスマートモビリティー(交通や移動をより良くする新しい技術や概念)の導入を実現。統合ソリューション「Lumada Intelligent Mobility Management」を活用して、世界で初めて都市全体の交通網をデジタル接続した。

 

乗客はモバイルアプリを使うと混雑具合や運行状況をリアルタイムに把握でき、複数の交通機関を組み合わせた最適ルートでスムーズに移動できる。乗車切符やICカードなしのハンズフリー決済も可能で、1日の終わりに1番安い価格で利用料金が自動算出される。交通事業者はデジタルツイン※3に集約されたリアルタイムデータを、サービスの最適化や温暖化ガス削減といった環境課題の解決などにも応用できる。

 

Lumada事業の収益目標は、2024年度までに全体比27%(2兆7000億円)を掲げており、そのためのデジタル人財を9万8000名に強化する方針だ。2021年7月に完了した米国・GlobalLogic社の買収もその一環で、高度な専門スキルを持つ約2万1000名のデジタル人財を迎え入れた。グローバル展開を加速させるため、2024年までに海外従業員比率を60%まで高めるという。

 

日立製作所は、リアルとデジタルの両空間でヒト・モノ・技術をつなぐSociety5.0※4の時代には、スキルのみならず高い倫理観が求められるとして、多様なチームで取り組むことが重要だと考えている。

 

 

※1…経営陣に占める女性割合の向上を目的とした世界的キャンペーン
※2…ダス会議(2019年1月)で発足した、障害者雇用促進を目指す世界最大規模の経営者ネットワーク組織
※3…現実世界で収集したデータを基にコンピューター上で再現する技術
※4…内閣府が科学技術政策として提唱する日本における未来社会のコンセプト

 

 

 

PROFILE

  • (株)日立製作所
  • 所在地:東京都千代田区丸の内1-6-6
  • 創業:1910年
  • 代表者:代表執行役 執行役社長兼CEO 小島 啓二
  • 売上高:10兆2646億円(連結、2022年3月期)
  • 従業員数:36万8247名(連結、2022年3月期)