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【特集】

人事KPI

人材の成長やパフォーマンスを測定する重要業績評価指標「人事KPI」。人的資本経営の成果を可視化し、定量的に評価するのに必須の指標として注目されている。パーパス(存在価値)に基づいて構築された経営戦略に人事戦略を連動させ、個人の成長を企業の持続的成長につなげる人事KPIの設計について提言する。
2023.06.01

カルチャーを土壌にパーパス実現のパフォーマンスを最大化:シスコシステムズ

I&Cを推進する社内イベント「Women of Impact」の様子

 

 

パフォーマンスに基づく評価軸で対話を重視

 

パーパス実現の土壌となるカルチャーの醸成と働きがいが生まれる組織制度は、新たなステージへと歩みを進める。

 

世界的なデジタル化や市場変革のスピード化、日本では少子高齢化による労働人口の減少や終身雇用の崩壊。変転する時流のニーズに、新しくより大きな価値を生み出すためにI&Cが経営戦略の中核に位置付けられている。推進プロセスに3つの基本理念を定め、日常の業務や行動に落とし込んだ。

 

1つ目はトップダウンとボトムアップ双方向のアプローチ、2つ目はジョブ型での一人一人の役割と期待値の明確化、3つ目はアジャイル型で最初から完璧を目指さないこと。

 

「日本は世界で最もエンゲージメントが低い国であるといわれますが、それは何を提言しても会社が変わらないという“負の経験学習”を重ねた結果です。自分が声を上げれば経営に反映されることを実感したり、全員参加型の『共創のオペレーション』を大切にしたりするのが1つ目のアプローチです。

 

2つ目は自由と自律、つまり信頼と責任の関係性です。在宅勤務で『社員が目の前にいないと仕事をしているのか把握できない』という不安を他社から耳にしますが、いつまでに何をどんなクオリティーでやるのかを明確に言語化すれば解決します。また、上司と部下が互いの目線を合わせる1on1ミーティングなど、密なコミュケーションも大事にしています。

 

3つ目は日本人が最も苦手なこと。『石橋をたたいても渡らない』と言われるほど慎重な国民性ですが、できない理由を探すのではなく、アジャイル型で小さなことからまずやってみる。そして、失敗しても学びになるという発想がカルチャーになることで、社員も会社もポジティブに動き出します」(宮川氏)

 

I&Cをカルチャーとして根付かせる6つのコミュニティー活動も推進し、社員がアンバサダーとしてボランティアで参加する。日本法人で独自に取り組むコミュニティー「革新的で多様なワークスタイルの実践」は、社員の帰属意識や業務外のつながりを高めるために、Webexの機能を使って共通の趣味を持つ仲間が集うオンラインミーティングなどを実施。アンバサダーにとっても、自らの思いを実現する成功体験学習の場になっているという。

 

働きがいのある会社のロールモデルとして、KPI(重要業績評価指標)の設定や評価の仕組みも気になるが、実はKPIを設定しているのは営業職のみ。パフォーマンスに基づく評価軸もシンプルで、期待された成果を出せたか、ビジョンやカルチャーに沿う行動ができたか、チームや組織にインパクトある貢献ができたかの3つだ。そして昇給・昇格も、成果だけに偏らず3つの評価を総合的に判断している。

 

「前提として、完璧なKPIや評価はありません。数値化した目標の達成も、市場・顧客の違いや環境の変化を踏まえて、クオリティーを正しく見極めることが大事ですし、納得感を生むためには対話の機会を増やすことが必要です。

 

当社は1on1ミーティングの頻度を高くし、さらに対話を補完する『Check in』というツールを活用しています。①前週の振り返り、②今週の優先すべき業務、③どのようなサポートが必要か、を週報として自己申告することで、社員は自分の強みなど自己認識力が常に高められます。また上司も、部下の成長や変化を知る機会になり、一歩踏み込んで向き合うサポート力を強化できます。過去の振り返りを、未来の行動変容につなげる仕組みになっているのです」(宮川氏)

 

 

自ら考える力を奪う「ルールの管理」

 

エンゲージメントを高める共創のオペレーションは、毎年実施して社員の生の声を定点観測するサーベイが起点になった。結果はオープンに共有してデータを分析後、注力テーマの選定や施策プランの作成・実践をする。部門・世代を問わない社員自主参画型の共創タスクフォースが、人事部門と一緒にOODAループを回しているという。

 

2022年度には新たに3カ年成長戦略「Project Moonshot」がスタート。サーベイで社員からフィードバックの声が多かった「未来の働き方」「組織間相互理解の促進」「互いの成長を支えるためのフィードバックとレコグニション」の3つを重点テーマに、約100名の社員が参画し、9つのプロジェクトを稼働させている。

 

「思いを実現でき、自分らしく働ける土壌を裏付けるデータです。ただ、もっとスコアは高くできますし、働きがいのある会社づくりに終わりはありません。アフターコロナの未来の働き方、組織間のセクショナリズムを超えて共創する市場の競争力、そして全員で支え合い成長し続けるカルチャー。どれも、これからの時代に欠かせないものです。

 

当社が目指しているのは、一人一人が最高のパフォーマンスを発揮できる環境で働いてもらうこと。ハイブリッドワークの選択肢はあくまでもその手段であって、週に何回出社するといった方針も定めていません。ルールで管理するオペレーションは、変革を続ける世の中で重要な『自ら考える力』を奪ってしまいます。大事なのは、一人一人がプロフェッショナルとしてマインドセットを共有し、信頼と成長を育んでいくことですから」(宮川氏)

 

仕事を通した目に見える行動や成果だけでなく、信念や価値観、家庭の事情など、水面下で見えにくい部分がパフォーマンスに影響すると重要視するシスコシステムズ。社員一人一人の強みを育み、生き生きと能力を発揮するウェルビーイングな姿を探求し続ける同社は、ワークライフバランスが声高に叫ばれる中、さらにワークライフインテグレーションへと一歩先を行く。

 

 

※Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(行動)のサイクル。計画から始まるPDCAと異なり、現状把握からスタートする

 

 

 

失敗しても学びになるというカルチャーで社員も会社もポジティブに動き出します

シスコシステムズ 執行役員 人事本部長 宮川 愛氏

 

 

PROFILE

  • シスコシステムズ合同会社
  • 所在地:東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー
  • 設立:1992年
  • 代表者:代表執行役員社長 中川 いち朗
  • 従業員数:1300名(2022年8月現在)

 

 

 

 

 

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