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【特集】

企業価値向上

人的資本など、非財務関連の情報を投資の指標に使う動きが広がっている。しかし、それだけで企業を評価することは難しく、強い財務基盤が必要であることに変わりはない。最適な意思決定と実行の仕組みを構築し、財務・非財務の両面で自社の企業価値を高めるメソッドを提言する。
2023.05.01

「おのずから成長する」グループ経営で在りたい未来の実現を目指す:東海光学ホールディングス

 

 

必要とされる企業で在り続けるために――。企業DNAを継承しながら、グループ経営という新たなプラットフォームで、未来志向の不易流行を実践する「光を自由に操る企業」の挑戦が始まった。

 

世界中の「QOL」向上を目指す

 

「古人の跡を求めず、古人の求めたる所を求めよ」。弘法大師や松尾芭蕉ゆかりの箴言が、東海光学ホールディングス(以降、東海光学HD)の社長室に掲げられている。

 

「社長就任時に先代(代表取締役会長の古澤武雄氏)から贈られたメッセージです。しっかりと受け取って、『不易流行』の経営哲学とともに、大切にしています」

 

そう話すのは、国内の眼鏡レンズ市場シェア16%を占めるレンズメーカー・東海光学の4代目社長として、2009年に経営のバトンを受け継いだ古澤宏和氏である。メッセージに託されたのは、先人が挑み続けた神髄を追求する姿勢だ。

 

それを体現すべく、中国やインドなど市場が拡大する海外へ進出し、眼鏡事業を拡充。また、培った高度な光学技術を発展させた光学薄膜(ドライコーティング)の加工・製造で、カメラや医療分野の光学機器、半導体・住宅設備製品など、独自の高精度光学部品を開発する光機能事業も育成し、100億円企業へと着実に成長させてきた。

 

メーカー・卸・小売の企業再編や寡占化が進む中、競争が激化する眼鏡業界の未来を見通して、古澤氏は1つの決断を下した。HD化によるグループ経営の推進である。

 

東海光学はコロナ禍前の2019年、HD化に向けキックオフした。吸収分割で東海光学の一部の機能や不動産を移転し、事業会社3社体制で、2022年10月からグループ経営をスタートさせた。

 

「『国内眼鏡事業を収益の柱に、今後の成長エンジンは海外眼鏡事業と光機能事業』と言い続けてきました。ただ、従来通りのスピード感やプラットフォームでは事業環境の変化についていけず、追い求める未来は実現できないという危機感がありました。

 

事業で新たな価値を創り出し、企業価値も向上する、新たな経営プラットフォームを構築したいと考え、タナベコンサルティングの支援を得て、グループ経営の全体像を描くことから着手しました」(古澤氏)

 

レンズ面のカーブで光を曲げ焦点に合わせ、一人一人に最適なオンリーワンレンズに仕上げる眼鏡事業。ドライコーティングのテクノロジーで、無色透明な光から多様な付加価値を創り出す光機能事業。どちらも、光を操ることで世の中の役に立ち、生活の質を向上し、結果として環境保全や地域社会にも貢献しながら事業成長を両立できる。

 

グループ経営で目指す姿や価値判断の基軸を整理し、グループビジョンに掲げたのは「光を自由に操る企業」。新たにミッション「QOL(Quality of Life, Light, Lens)」も定めた。

 

「眼鏡レンズ製造は素晴らしい仕事です。見えないものが見えるようになり、コミュニケーションが可能になって笑顔が生まれ、食事もおいしく味わえ、スポーツも安全に楽しめます。

 

光を操り、価値あるレンズや光学部品を使って、世界中の人のQOLを向上し、笑顔と驚きをお届けするチャンスが、私たちにはあるのです」と古澤氏は胸を張る。

 

遠近両用の眼鏡レンズ「ニューロセレクト」。最新の脳科学による「見え心地」の評価とモニタリング評価を繰り返し、レンズ設計にフィードバックすることで、レンズの「見え心地」を向上させている

 

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