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【特集】

企業価値向上

人的資本など、非財務関連の情報を投資の指標に使う動きが広がっている。しかし、それだけで企業を評価することは難しく、強い財務基盤が必要であることに変わりはない。最適な意思決定と実行の仕組みを構築し、財務・非財務の両面で自社の企業価値を高めるメソッドを提言する。
2023.05.01

「ワクワク&ワンチーム」でExcitingなグループ経営を推進:セトラスホールディングス

2024年に完成予定のイノベーションセンターは研究開発組織「SETOLAS Lab」の拠点として稼働させる(上)。「日本の農業を元気にすること」を目的に立ち上げたアグリバイオ事業において栽培された「夏イチゴ」(下)

 

グループ経営の中経「SEBONE」プラン

 

グループ経営の始動から浸透、定着へ、2025年までの5カ年中期経営計画が現在進行形で進んでいる。その名も「SEBONEプラン」だ。

 

「初めての中期経営計画で、グループ経営の中核を成す背骨です。世界へ飛び出すベースをホールディングスがつくり、事業会社が具体的に細分化して、オリジナリティーの追求と多角化、経営の筋肉質化を目指しています」(木下氏)

 

オリジナリティーの追求のためには、各事業会社がバリュー・プロポジションを拡充し続けることを重視すると言う木下氏。バリュー・プロポジションのない事業は持続できず、賞味期限も必ず訪れるからだ。また多角化は、オープンコラボレーションやM&Aなど、これまでにない選択肢で新事業創出に挑む。

 

どちらも簡単ではない。だからこそ、限られた経営原資を何に重点投資し、どう進めて成果を実らせるかを明確に示す必要がある。具体案として、化学品原薬事業は、香川県坂出市にて坂出工場および屋島工場の統合・合理化や研究開発の拠点となる最新鋭のイノベーションセンターの新設、医療用医薬品事業は製薬会社としての販売体制の拡充などを計画に描き、全社員が共有した。

 

組織的にも、研究開発部門や知的財産部門をホールディングスに置き、事業会社別ではなく「グループ全体の新たな成長エンジン」を創り出す体制を確立。2024年完成予定のイノベーションセンターは、研究開発のシンボルであり、世界への発信拠点となる。バーチャルな研究開発組織・SETOLAS Lab(セトラスラボ)も立ち上げ、グループ内の5つの研究開発拠点が連携しシナジーを発揮。新事業の探索、創出へと導くイノベーション力を高めている。

 

「グループ全体でオリジナリティーを生み出す蝶番の役割を、イノベーションセンターが果たしてくれると期待しています。SETOLAS Labも総勢70名体制から100名規模に増強します。HDの定期的な幹部会で情報を共有し、グループ経営の最大のキーである研究開発についてしっかりとグリップを利かしています。

 

知的財産部門に優秀な外部人材を採用し、IP(知的財産権)を守りの知財から攻めの知財へ、マーケティングの知財へと変え始めています。当社ぐらいの企業規模でここまで力を入れている企業は少ないでしょう。オリジナリティーの道を前進するには研究開発とIPの両輪が必要ですから」(木下氏)

 

新規事業ではアグリバイオ事業が注目を集める。農地離れや過疎化が進む日本の農業の活性化や、食のライフスタイルの変化に対応する事業化にフォーカス。地元・香川県の三木町奥山地区の廃校跡にアグリバイオ研究所を開設し、温暖な地域でも栽培可能な「夏イチゴ」を品種開発。栽培する技術・人を含めた収益モデルを構築しようとしている。

 

定性評価を重視する人事評価制度

 

SEBONEプランに続く次期中期経営計画では、グループ売上高を1桁伸ばし1000億円企業の仲間入りを視野に入れる木下氏。グループ経営に手応えを感じ始めているという。

 

「決算や戦略が事業単位でしっかり見える化され、現場の動きも肌感覚感でつかめるので、以前よりはるかにマネジメントしやすいと感じています。事業会社の経営会議や営業会議も、経営的な視点や内容に変わってきました。

 

どんな企業も、人や組織が増えるほど情報の共有化が最大の課題になりますが、それができる企業ほど成長し、そうでないと停滞します。私たちは着実に成長する姿へ変わろうとしています」(木下氏)

 

今後は米国・EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)・アジア・極東(日本、中国)の世界4極体制をホールディングスが統括する、グローバルプラットフォームの形成を目指す。化学品原薬事業の売上高海外比率は6割を超えるが、グローバル市場のポテンシャルにはさらなる成長のチャンスがある。また「技術大国の神話が崩壊しつつある日本だけに目を向けていると、何もできなくなる」と危機感もにじませる。

 

「ホールディングス化とともに、協和化学工業と海外子会社を縦から横並びの関係にしたのも、グローバル展開が重要というメッセージです。海外の社員には新生セトラスへの『reborn(再生)』と伝えており、彼・彼女らのモチベーションがものすごく上がっています」(木下氏)

 

rebornをより確かなものにするために、定性評価を重視する人事評価制度への刷新も進めている。長所を引っ張って伸ばし、縁の下の力持ちとしてバックオフィスで働く社員もしっかり評価することで、自ら考え行動する社員に成長し、Exciting(ワクワク)が持続するワンチームになれると信じるからだ。

 

「利益を増やせば良く、減らしたら悪い。そんな数字だけの定量評価は手抜きです。最も大事なのは、どのような環境でどんな仕事ができたか。事業環境が厳しさを増す中で、利益の減少を最小限に抑えることもクオリティーの高い仕事ですし、それは定性評価だから分かること。

 

一人一人が自律して会社のエンジンになり、ワクワクと仕事をすれば活気が生まれ、上げた利益はナンバーワンステークホルダーの社員に分配する。そこだけは見失わないことが、ホールディングスと私の仕事です」(木下氏)

 

コーポレートサイトにあるトップメッセージも、セトラスホールディングスはひと味違う。メッセージの締めくくりには「取締役一同」の署名が、笑顔の集合写真とともに掲載されている。「経営は取締役会が最高決定機関ですし、社長が1人で引っ張るようなイメージの会社にはしたくないんですよ」と笑顔の木下氏。「神は細部に宿る」と言われるが、ワンチームでオリジナリティーに挑む姿勢にブレはない。

 

コーポレートサイトにあるトップメッセージの締めくくりには「取締役一同」の署名が、笑顔の集合写真とともに掲載されている

 

セトラスホールディングス 代表取締役社長 木下 幸治氏

 

PROFILE

  • セトラスホールディングス(株)
  • 所在地:香川県高松市磨屋町8-1 あなぶき磨屋町ビル1-2F
  • 創業:2022年
  • 代表者:代表取締役社長 木下 幸治
  • 売上高:211億 2100万円(グループ3社連結、2021年3月期)
  • 従業員数:141名(2022年12月現在)

 

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