川島 岩本先生が考える「人的資本経営」の定義は、どのようなものでしょうか。
岩本 広く言えば「企業は人なり」の実行です。「企業は人なり」というフレーズは、「従業員の雇用を守る」とか「福利厚生が手厚い」というニュアンスで解釈されがちですが、人的資本経営においては「一人一人を活躍させる」という意味です。
それ自体は新しい話ではなく、深刻な人手不足だった戦後復興期にも語られてきたことなのですが、昔と今で決定的に違うのは「データ技術」の有無です。一人一人を活躍させるには、個々の特性をよく見なければなりません。全てのマネジャーにそのスキルがあれば良いのですが、従業員が何千人、何万人といる大企業にとっては現実的ではない。人的資本を経営戦略の中核に据えるにはデータ化が必須なのです。
川島 感覚的な人事ではなく、測定可能な指標を用いて定量化するのですね。バイアスをかけずフラットに見ることができれば、若手も含めて活躍の場が広がりそうです。取り組むべき施策としては、HRデータの集約やHRDXの仕組みづくり、タレントマネジメントといったところでしょうか。
岩本 それらも重要な施策ですが、そうした仕組みをうまく機能させるために、まずは人事制度を根本から見直す必要があります。例えば、年功序列と定年退職は、人的資本経営の国際基準に照らすと「差別」と見なされます。日本では、この2制度が足かせとなり、労働組合との折衝に何年もかかっている企業が多い印象です。
川島 これからの人事制度は、やはり「ジョブ型」が主流になると思われますか。
岩本 給料や職位を右肩上がりに上げていくだけが人事ではないということです。中には実際に「上司が自分より年下でもいっこうに構わない。自分はずっとプレーヤーでいたい」という価値観の方々もいます。
川島 選択の自由を保証するプラットフォームは大切ですね。ひいては、社員一人一人にも自律したキャリア観が求められることになります。