「ボロボロでも買い取ります」。安心感を与えるキャッチコピーで買い取った古物をBtoB(古物業者間取引)やBtoC(個人間取引)の自社ネットオークションで販売しているエコリング。リユースビジネスが、日本から世界へと進出を遂げている。
国内で約180店舗超の買取専門店を展開し、毎月7万点超の古物を自社運営ネットオークション「EcoRing the Auction」でリユース販売するエコリング。創業から20年余で年商200億円企業となり、さらなる成長曲線を描き続ける原動力の1つが海外戦略だ。香港、タイ、シンガポール、マレーシアなどに現地法人を設立し、買い取り・小売り15店舗とウェブ販売を手掛ける。国内・海外比率は9:1だが、その1に「古物の商社」を目指すエコリングの真価と、未来への可能性が詰まっている。
2010年に香港で現地法人を設立し海外進出の第一歩を踏み出したものの、すぐに困難に直面したと代表取締役社長の桑田一成氏は振り返る。
「ずっと日本国内のBtoBやウェブ販売を中心に、国内需要で拡大成長を遂げていました。そこへリーマン・ショックが起き、海外市場から相場が軒並み3~5割ほど下落し、大変な目に遭いました。
その時に気付いたのです。ブランド品も貴金属も国内需要で賄っていたつもりでしたが、実際の相場は海外で動いて決まる。それなら海外へ出ていこうと思ったのです」
高齢化と人口減少で国内マーケットの縮小に直面する日本企業にとって、人口が急増し成長するアジアは非常に魅力的な市場だ。ただ、エコリングの進出プロセスには違いがあった。1つには、アジア全域を「成長する内需の波」と捉えたこと。もう1つは、ネガティブ要因に思える人口減少を、ポジティブな追い風に変えることである。
「厚生労働省の調査によると、日本の自然増減(出生数と死亡数の差)は毎年約50万人マイナスで、2021年は62万人でした。減少する人口の分だけ、その人たちの暮らしを支えた身の回りの品々が古物となって増えています。ゴミになると膨大な量で環境負荷を高め、処分に多くの税金を費やしますが、リユースすることで社会問題を解決できます。ブランド品や貴金属中心の買い取りから、身の回りの不用品まで『何でも買い取ります』という方針を打ち出したのはそれからです」(桑田氏)
日本で買い取る不用品の古物が増えても、コンテナで運び「アジアの内需」で売り切る。その決断が国内店舗の戦略に好影響をもたらした。
リーマン・ショック後、「何でも買い取る」ことで利用者を呼び込み、赤字店舗が次々と黒字化していった。
海外市場の成長の波に乗る前に、まず国内でしっかりと追い風を受けるチャンスを導き出す。そんなアプローチのイメージが、海外戦略には大事だと桑田氏は語る。
「『マーケットが小さくなるから、大きなところへ』と考える経営者は多い。でも、人口減少を生かす戦略を考える人は意外と少ないのではないでしょうか」
最も相場の感度が高く、反応が早かった香港に構えた初の海外拠点は、中国やASEAN諸国へ進出する足掛かりとなった。各国への進出は基本的に「その国に合わせた戦略と工夫」(桑田氏)で現地の責任者に任せているが、その進出プロセスは実にユニークだ。
「日本から、現地へ行くことを希望する社員が赴任するのです。手を挙げた部長職以上のマネジメント経験者に、5000万円の資金を預けて送り出します。古物でビジネスをするのは決まっていますが、それ以外は自由。1年間、現地で過ごして100人の“友達”をつくることがミッションで、可能性があると判断したら1年以内に立ち上げる感じです。デッドラインは3年連続の赤字か、資金が尽きたときですが、撤退の判断も基本的には本人に任せます」(桑田氏)
現地の友達が100人できれば、各界の専門家ともつながりができ、協力を得やすい。また、現地で活動し始めた当初はその国の言葉が話せなくても、友達が100人できるころには自分の思いを伝える語学力が身に付いている。「ニーズを学んでゼロベースからビジネスを立ち上げていくには十分です」と桑田氏。市場調査をしながら現地を知るプロフェッショナルが育つことで「任せる経営」が可能になる。
国ごとに戦略が違えば、成長発展のプロセスも多様だ。香港では、日本で買い取った古物を店舗販売するビジネスモデルでスタート。3年後に小売店をなくし、現在は買取専門店と現地ECプラットフォームのウェブ販売を展開している。
タイでは小売店の多店舗展開によりバンコクで1番のリユースショップに成長。コロナ禍以降は買取専門店へ移行し、ウェブ販売を開始した。
シンガポールでは、これまでにない新たな挑戦として委託販売のビジネスをスタート。さらに、現地法人のない国や地域では、貿易ラインを築いて古物を物流させるビジネスに特化している。
「世界中に宅配便の荷物が届くと思っている人は少なくないと思いますが、決してそんなことはありません。アフリカではコンテナごと消えることが珍しくない。出荷先と受取人が誰か。シッパー(荷送人)はどの国のどんな会社か。役者をそろえて物を届ける貿易ラインを通すことがビジネスになります」(桑田氏)
海外のビジネスに日本の常識は通用しない。BtoCだけでなくBtoBもSNSの取引成立が当たり前。ウェブ販売なのに商品を直接受け取りに来たり、事業が成功したら契約更改時に数倍の家賃を求められたりといった具合だ。
「しゃくし定規の対応では信頼ある関係性を築けない」と語る桑田氏。かつて、バックパックに「used in Japan(日本人が使った物)」を詰め込んで、世界各国を売り歩いたときに学んだのは、使い方を教えてはいけないということだった。
「品物だけ見せて、使い方は現地の人に自由に考えてもらえば良いのです。相手が見いだす価値を受け入れられる発想の柔軟さが大事です」(桑田氏)
それは、自分の価値観や先入観を押し付けないことを意味する。想像すらしなかった発想や価値観は「異文化」という表現でひとくくりにされがちだが、むしろ各現地に「当然あるもの」という大前提に立つ。
日本からアジアへ、さらに世界へと、成長市場を掘り起こすチャンスが広がっている。