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【特集】

DXビジョンを策定・推進しよう

企業が価値を提供し続けるため必須となったDX。デジタル領域で価値発揮するビジネスモデルの再構築だけでなく、外部環境変化に対応できるシステムや組織への全社変革が求められる。「自社が何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を策定し、実現に向けた改革テーマへ落とし込むメソッドを提言する。
2022.11.01

【HRDX】目指すのは「日本で一番、データに強い人事」:サイバーエージェント

 

 

 

進化を続けるインターネット産業に軸足を置き、成長を続けるサイバーエージェント。全社員向けアンケート「GEPPO(ゲッポウ)」と人事業務のシステム化で人材を適材適所に配置することを目指す同社のHRDXに迫る。

 

 

事業領域拡大に伴い5年間で社員数が1.5倍に

 

「人材力」「技術力」「創出力」を強みに成長を続けるサイバーエージェントは「21世紀を代表する企業を創る」をビジョンに掲げ、インターネット広告事業からゲーム事業、メディア事業へと事業領域を広げている。それに伴い、人材については「能力の高さよりも一緒に働きたい人を集める」という方針の下採用を行い、2017~2022年からの5年間で社員数は1.5倍近く増加した。社員数はグループ全体で約6000名。有期雇用社員も含めると1万人を超えるなど急拡大を続けている。

 

多様なスキルとバックグラウンドを持つ人材の活躍が成長の鍵を握る中、同社は2020年から全社人事部門のビジョンを「日本で一番、データに強い人事を創る」とし、人事におけるDX戦略を推進している。

 

コロナ禍以降、多くの企業がDX推進に力を注いでおり、HR(ヒューマンリソース)領域においてもDXを導入する動きが広がっている。同社が人事のデータ化に着手したのは2013年のこと。全社員を対象とするパルスサーベイ※1ツール「GEPPO」を開発し、運用を続けている。さらに、2016年からは本格的に人事業務のシステム化を推進。GEPPOを使って社員のコンディションを定期的に把握する一方、人事に関わるあらゆるデータを人事データ統括部に集約する環境を構築し、社員一人一人が挑戦できる働きがいある組織づくりを進めている。

 

なぜ、早い段階から人事分野でデータ化を進めてきたのか。その理由を人事データ統括部の部長である堤雄一郎氏は次のように説明する。

 

「2013年は、ちょうど社員数が2000名を超えたころです。それぐらいの規模になると役員もさすがに全社員の顔と名前が一致しなくなり、社員の状況が把握できないなどの弊害が出始めていました。そうした中、役員と社員がチームになって新規事業案や課題解決案の提案を行う『あした会議』において、社員のコンディションを定期的にチェックできるアンケートシステムが必要ではないかという提案が決議されました」

 

あした会議で決議されたことは直ちに実行するのが同社の掟だ。GEPPOはこうして誕生した。

 

 

GEPPOで社員のコンディションを測定

 

社員のモチベーションやエンゲージメントを測るサーベイツールを導入している企業は多い。ただ、回を重ねるごとに回収率が低下することも少なくないだろう。その点、GEPPOは毎月実施されているにもかかわらず、導入以降の回収率はほぼ100%と非常に高い値をキープしている。なぜ、10年間も続けられるのか――。その秘密は、GEPPOの設計と運用にある。

 

社員のコンディションを定期的に把握する。それを実現するために同社がこだわったのが、「簡単さ」と「タイムリー」なアンケートであることだった。毎月、全社員が答えるGEPPOの設問は「自分のコンディション」「チームのコンディション」「時流や社流に合わせた設問」の3つだけ。社員はそれぞれの問いに、「快晴」「晴れ」「曇り」「雨」「大雨」という5つの天気から今の状況に最も近い1つを選ぶ。意見や要望がある社員は任意のフリーコメントを入力して送信することもできるが、設問に答えるだけなら数回のクリックで完了する。このシンプルさが高い回答率を維持する最大の理由である。

 

もう1つ、高い回答率を支えているのがキャリアエージェント※2によるタイムリーなレスポンスだ。データは「GEPPOの運用チームであるキャリアエージェントが目を通し、全てのコメントに返信している」と堤氏は言う。

 

「フリーコメント欄には本当にさまざまな要望が寄せられます。キャリアに関する悩みから、例えば『エアコンの設定温度が低くて寒い』といったような要望まで。キャリアエージェントは毎回数百件に上るコメント全てに返信するのはもちろん、必要に応じて社員と面談をしたり、関連部署に相談したりするなど何らかの対策を講じるよう徹底しています」(堤氏)

 

また、社員の立場からすると「ネガティブな回答をすると、自分の評価が下がるのではないか」との心配が付きまとう。だが同社では、GEPPOの回答を見るのはキャリアエージェントと役員に限定されており、人事評価をする上司には公開しないから安心だ。さらに、必要に応じてGEPPOの声が役員会に提出される際、回答は基本的に加工をしない。仮に役員に不利な内容が含まれていたとしても手を加えない公正さが徹底されている。役員と社員の距離が近い、同社の特色に合った取り組みである。

 

 

※1…簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する手法。従業員の満足度や健康状態調査に用いられる意識調査の1つ

※2…「社員の能力と事業を伸ばすための適材適所」を目的に、サイバーエージェント内での抜擢・異動、役員への人事提案などを行う部署

 

 

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