創業115年、貼付剤業界のパイオニアとして革新を続けてきた大石膏盛堂。ジュニアボード導入をはじめさまざまな改革を行い、新たなステージへとかじを切っている。
佐賀県鳥栖市で大石膏盛堂が産声を上げたのは1907年。朝日万金膏(あんま膏)の製造から始まり、「貼付剤に特化した世界一のOEMパートナーを目指す」というスローガンのもと、時代の流れに合わせ堅実に歩んできた。現在は国内トップクラスのOEMメーカーへと成長し、海外マーケットへの進出、貼付剤の技術を生かした医薬品開発など、新たな市場開拓へチャレンジを続けている。
2022年で創業115年となる同社に大きな変化が訪れたのは、2021年9月のトップ交代だ。長年にわたる現場の第一線での活躍を経て、伊藤健一氏が代表取締役社長に就任。製造現場や人材育成など数々の改革を実践してきた立役者は、専務時代にジュニアボードプログラム導入の必要性を唱え、実現させてきた。
「私が40歳代で役員に就任したとき、他の役員は60歳代。考え方の世代間ギャップを感じましたし、何より早い段階から経営者目線で自社のことを深く知り、役員と同じ目線を持つ必要性を実感しました」(伊藤氏)
人材育成を重んじる同社は、以前からタナベ経営の「幹部候補生スクール」「チームリーダースクール」「トップ会」などのセミナーに人材を派遣。階層別の社員教育を行うほか、業務改善やVM(ビジュアルマネジメント)活動などで現場力の向上にも努めてきた。しかし、そうした学びを会社全体へ波及させ、組織を活性化させることは容易ではなかった。
「自社のビジョンが打ち出せていなかったことや年功序列的な要素も影響し、『この先成長の機会があるのか』と不安に感じた中堅社員の離職もありました。そうした背景から、社員が生き生きと働き、いろんな意見が出る組織にしたい気持ちが強まっていました。
同時に、既存事業にとどまらずさまざまな事業を興し、そこでアイデアを出しながら、人も事業も成長していってほしいという思いもありました。さらに、当時は役員陣の定年を控えていたため、後継体制づくりも急務でした」(伊藤氏)
現状の打破と未来創造への思いからジュニアボードの導入を決意し、伊藤氏は当時社長だった野中良司氏(現会長)へ提言。2020年10月に第1期ジュニアボードがスタートした。
ジュニアボード第1期メンバーには、役員と同世代の課長クラス10名が選ばれた。次世代の幹部人材育成という観点に加え、「社員の意識を変えて組織を活性化するために、トップダウンとボトムアップの中間である『ミドルアップ型』の組織が必要」(伊藤氏)だったことも、第1期メンバー選考理由の1つだ。
ジュニアボードでは1年間のカリキュラムを通じて経営視点を身に付ける。内容は、前半の半年間は自社の現状を知るための座学(講義受講、グループディスカッションと発表)が中心。後半は実際に長期ビジョン・中期経営計画とアクションプランをつくり、最終的には方針発表会で全社員に向けてプレゼンテーションを行う。
メンバーにとっては、自社を取り巻く環境や競争力、経営システムなど多面的な観点で現状を分析したり、長期ビジョンや中期経営計画を策定したりすること自体が初めての経験だった。現役員陣はジュニアボードの初回、中間報告、最終報告で関わるものの、基本的にはメンバーとタナベ経営に運営を任せ、メンバーの主体性や積極性を重んじながらカリキュラムを進めていった。
ジュニアボードの成果は、徐々にではあるが確実に表れている。例えば、自社商品であるアイシングシートの高付加価値化に関するジュニアボードの素案をベースに、実際に新規事業計画が動き始めた。注射部位や乳腺炎患部を冷やすための新規販売方法として展開すべく、市場調査に取り組んでいるという。
「ジュニアボードでは自社の現状分析を通して課題を洗い出し、在りたい姿から逆算してやるべきことを抽出しました。第1期の場合、主力製品である貼付剤の利益率の低さを課題とし、改善策を検討。その結果として世の中の困り事を解決する新規事業を提案し、自社の現状に即した形へ軌道修正を加えつつ、新規事業を実行に移せたことは大きな収穫です」(伊藤氏)
他にも、開発メンバーからの新規領域開発案や、不動産投資などの新規事業、現ビジョンをはるかに上回る「売上1000億円」を掲げる長期ビジョンなど、これまでの経営陣にはない提案やアイデアもあったという。
「もちろん検討は必要ですが、そういった意見こそジュニアボードに求めていることです。意見が出て実行するとなれば、具現化するためにはどうすれば良いか、自分たちで逆算して考える。今まで私たちが考え付かなかった、斬新な意見とアイデアを出し合い、自由な発想で自社の未来を描いてくれています」と伊藤氏は語る。
意識面の変化も大きい。ジュニアボードは部門横断型組織で、さまざまな部署のメンバーが集まる。「他部署のことって、実はあまり深く理解できていないことが多いものです。
そんな中、ジュニアボードを通じて交流を深め、あらゆる角度から自社を分析し、実際にビジョンを策定したことで、他部署のことを考えながら動く『全社最適』の目線を持つ人材が増えてきたことは大きな成果です」(伊藤氏)
さらに、同社が実施する月1回のモチベーション調査、年1回のストレスチェックの結果数値が改善されているという。ジュニアボード受講メンバーをはじめ、社員の目線と行動が変化したことで、着実に組織の改善・活性化が進みつつある。