その他 2022.07.01

ナレッジと学びを全社に開放:JCOM

各部門で培ったナレッジを学び合える環境を提供する「J:COMユニバーシティ」。自社の目指すべき方向性を踏まえた学部編成とカリキュラムで未来志向の企業文化の醸成を目指す

 

 

社員1万7000名の学びを1つにするオープンプラットフォームを構築し、暮らしを支える多様なサービス提供で自社の未来を開くことを目指すJCOM。新ブランドメッセージ「あたらしいを、あたりまえに」を体現する社員が育つ企業内大学の仕組みに迫る。

 

 

未来志向へアップデートする「J:COMユニバーシティ」

 

「強制的な研修」から主体的な学びへ

 

2021年7月に社名を自社ブランドに統一したJCOM(以降、J:COM)。国内最大のケーブルテレビ事業者で多岐にわたる「メディア・エンタテインメント事業」も展開し、暮らしを支え豊かにする「ライフサービスプラットフォーマー」を目指している。約1万7000名の社員がたゆみなく進化するための教育体系が企業内大学「J:COMユニバーシティ」(以降、J:COM-U)だ。

 

2014年の経営統合を契機に定めた経営理念を浸透させるため、同社は人事部内に教育研修の専門部門を新設。OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)中心の人材育成から、全社的な学びの体系づくりへとかじを切った。2017年のJ:COM-U立ち上げから携わるのが、人事本部人財開発部人財開発グループ長の中野真理子氏である。

 

「階層別に必要なスキルを学ぶ研修を年間1000回近く実施していましたが、社員にとっては『受けなくてはいけない研修』だったのです。複数の研修を大きな会場で実施したら、どれに参加するか分からない人もいました。主体性を持って自律的に学ぶ場をつくろうとしたのが、J:COM-U創設のきっかけです。もう1つ、OJTに特化しており、部門ごとに閉ざされていたナレッジ(知識や経験)と学びの機会を、全社に共有する狙いもありました」(中野氏)

 

J:COM-Uは、キャリアステップ別研修、誰でも参加できる公開型研修、いつ・どこでも学べるeラーニングなど、年間300講座を開設。必修科目である総合学部と、自らの意思で参加する選択科目6学部で構成されており、2021年7月には、より時代の最新テーマに合うよう学部の名称や講座内容を大幅にアップデートした(【図表】)。大きな特長は、学部長を現任の部門長が務めることと、各学部の学びに「重点項目」を設定したことだ。

 

【図表】J:COMユニバーシティの講座領域と重点項目 

出所 : JCOM提供資料よりタナベ経営作成

 

「従来は、草創期を支えて定年を迎えた社員OBを各学部長として再雇用し、培った企業DNAや技能を伝えていただいていました。それも大切ですが、当社が目指すビジョンや新技術、イノベーションを共有するためには、いま部門の中枢にいる部門長が適任です。そこで、現状と連動して将来につながる業務スキル・ナレッジ・情報の習得を重要項目に定め、的確にインプットできる体制と講座内容に設計し直しました」(中野氏)

 

各学部の学部長は新年度の開講前に一堂に会し、キックオフミーティングを開催。重点項目など学びの内容を、学長(J:COMの会長・社長)にプレゼンテーションして承認を得る。また、各講座の社内講師を指名するだけでなく、自らも講師を務めるという。講師を務めることで自身の学びにもなるため、この仕組みが次代の経営を担う人材を育てる機会にもなっている。

 

さらに、学長が定期的に特別講座に登壇。各界のリーダーを招いた対談や、持続的に成長を遂げる老舗企業に戦略を学ぶ経営塾などを開催し、「外を見て、内を知る」学びの場を提供している。

 

「全社・部門のトップから直接学べる機会がなかなかない中、手を挙げれば誰でも受講できるので、社員に喜ばれています。講演後のグループディスカッションでは、メンターとして本部長クラスがファシリテーション役を務め、議論を活性化しながら、自分たちで考えるアウトプットを引き出しています。

 

会長・社長が質問へ丁寧に回答するのも『人材育成は(コストではなく)投資』との考えが根付いているからです。J:COM-Uになってから経営層の関わり方がさらに深まりました」(中野氏)

 

 

シンプルなUIと社内プロモーションで受講率40%→70%へ

 

アップデートでさらに充実したJ:COM-Uは学びやすい設計や社内プロモーションにも工夫を凝らす。社内のラーニングマネジメントシステム(LMS)に開講講座・スケジュール情報を公開し、ワンクリックで受講申し込みや視聴ができるシンプルなユーザーインターフェースを整備。アプリ化し、わずかな余白時間にもスマートフォンで学べるように利便性を高めている。

 

「学びを自己管理するLMSも、文字情報中心のものからブラッシュアップしました。受講への興味と意欲を喚起するものに変えようとサイト化し、講座も基礎編・専門領域など構成が一目で分かるようにしています。

 

楽しく学べるよう、いかに魅せるか、発信するか。社内プロモーションが大事です。どんなに良い講座をつくっても、知ってもらえないと学びが始まりませんから」(中野氏)

 

そのため人財開発グループは、毎週木曜日に全社員へお勧め講座などのメールマガジンを配信。また、各事業拠点に置く管理責任者と定期会議を開催し、拠点別に受講進捗状況を開示して、上長からの受講推奨を促すなど「草の根的なプロモーション」(中野氏)も欠かさない。実際に受講後のアンケート集計では、受講理由の3割をメルマガ、2割を上長からの推奨が占め、導線として成果を上げている。

 

毎年リニューアルする公開型研修は、前年度の講座動画を編集し、eラーニングのアーカイブコンテンツとして提供。2時間の講座を15分の短時間に区切って見やすくし、視聴数を伸ばしている。在宅リモートワークで不要になった出勤時間に、散歩しながら音声を聞く社員も少なくないそうだ。

 

親和性が高まり、距離感も近づいた「学びへのアクセス」は、数字にも表れている。「2017年の開講当初、年間1回以上の受講率は約40%でしたが、2021年度は72%です。1人当たりの平均受講数も2017年の1.8講座から5講座に大きく増えました。学びの意欲が高まり、主体的な学びができるようになっていると、手応えを感じています」と中野氏は語る。