社員1万7000名の学びを1つにするオープンプラットフォームを構築し、暮らしを支える多様なサービス提供で自社の未来を開くことを目指すJCOM。新ブランドメッセージ「あたらしいを、あたりまえに」を体現する社員が育つ企業内大学の仕組みに迫る。
未来志向へアップデートする「J:COMユニバーシティ」
2021年7月に社名を自社ブランドに統一したJCOM(以降、J:COM)。国内最大のケーブルテレビ事業者で多岐にわたる「メディア・エンタテインメント事業」も展開し、暮らしを支え豊かにする「ライフサービスプラットフォーマー」を目指している。約1万7000名の社員がたゆみなく進化するための教育体系が企業内大学「J:COMユニバーシティ」(以降、J:COM-U)だ。
2014年の経営統合を契機に定めた経営理念を浸透させるため、同社は人事部内に教育研修の専門部門を新設。OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)中心の人材育成から、全社的な学びの体系づくりへとかじを切った。2017年のJ:COM-U立ち上げから携わるのが、人事本部人財開発部人財開発グループ長の中野真理子氏である。
「階層別に必要なスキルを学ぶ研修を年間1000回近く実施していましたが、社員にとっては『受けなくてはいけない研修』だったのです。複数の研修を大きな会場で実施したら、どれに参加するか分からない人もいました。主体性を持って自律的に学ぶ場をつくろうとしたのが、J:COM-U創設のきっかけです。もう1つ、OJTに特化しており、部門ごとに閉ざされていたナレッジ(知識や経験)と学びの機会を、全社に共有する狙いもありました」(中野氏)
J:COM-Uは、キャリアステップ別研修、誰でも参加できる公開型研修、いつ・どこでも学べるeラーニングなど、年間300講座を開設。必修科目である総合学部と、自らの意思で参加する選択科目6学部で構成されており、2021年7月には、より時代の最新テーマに合うよう学部の名称や講座内容を大幅にアップデートした(【図表】)。大きな特長は、学部長を現任の部門長が務めることと、各学部の学びに「重点項目」を設定したことだ。
【図表】J:COMユニバーシティの講座領域と重点項目
「従来は、草創期を支えて定年を迎えた社員OBを各学部長として再雇用し、培った企業DNAや技能を伝えていただいていました。それも大切ですが、当社が目指すビジョンや新技術、イノベーションを共有するためには、いま部門の中枢にいる部門長が適任です。そこで、現状と連動して将来につながる業務スキル・ナレッジ・情報の習得を重要項目に定め、的確にインプットできる体制と講座内容に設計し直しました」(中野氏)
各学部の学部長は新年度の開講前に一堂に会し、キックオフミーティングを開催。重点項目など学びの内容を、学長(J:COMの会長・社長)にプレゼンテーションして承認を得る。また、各講座の社内講師を指名するだけでなく、自らも講師を務めるという。講師を務めることで自身の学びにもなるため、この仕組みが次代の経営を担う人材を育てる機会にもなっている。
さらに、学長が定期的に特別講座に登壇。各界のリーダーを招いた対談や、持続的に成長を遂げる老舗企業に戦略を学ぶ経営塾などを開催し、「外を見て、内を知る」学びの場を提供している。
「全社・部門のトップから直接学べる機会がなかなかない中、手を挙げれば誰でも受講できるので、社員に喜ばれています。講演後のグループディスカッションでは、メンターとして本部長クラスがファシリテーション役を務め、議論を活性化しながら、自分たちで考えるアウトプットを引き出しています。
会長・社長が質問へ丁寧に回答するのも『人材育成は(コストではなく)投資』との考えが根付いているからです。J:COM-Uになってから経営層の関わり方がさらに深まりました」(中野氏)
アップデートでさらに充実したJ:COM-Uは学びやすい設計や社内プロモーションにも工夫を凝らす。社内のラーニングマネジメントシステム(LMS)に開講講座・スケジュール情報を公開し、ワンクリックで受講申し込みや視聴ができるシンプルなユーザーインターフェースを整備。アプリ化し、わずかな余白時間にもスマートフォンで学べるように利便性を高めている。
「学びを自己管理するLMSも、文字情報中心のものからブラッシュアップしました。受講への興味と意欲を喚起するものに変えようとサイト化し、講座も基礎編・専門領域など構成が一目で分かるようにしています。
楽しく学べるよう、いかに魅せるか、発信するか。社内プロモーションが大事です。どんなに良い講座をつくっても、知ってもらえないと学びが始まりませんから」(中野氏)
そのため人財開発グループは、毎週木曜日に全社員へお勧め講座などのメールマガジンを配信。また、各事業拠点に置く管理責任者と定期会議を開催し、拠点別に受講進捗状況を開示して、上長からの受講推奨を促すなど「草の根的なプロモーション」(中野氏)も欠かさない。実際に受講後のアンケート集計では、受講理由の3割をメルマガ、2割を上長からの推奨が占め、導線として成果を上げている。
毎年リニューアルする公開型研修は、前年度の講座動画を編集し、eラーニングのアーカイブコンテンツとして提供。2時間の講座を15分の短時間に区切って見やすくし、視聴数を伸ばしている。在宅リモートワークで不要になった出勤時間に、散歩しながら音声を聞く社員も少なくないそうだ。
親和性が高まり、距離感も近づいた「学びへのアクセス」は、数字にも表れている。「2017年の開講当初、年間1回以上の受講率は約40%でしたが、2021年度は72%です。1人当たりの平均受講数も2017年の1.8講座から5講座に大きく増えました。学びの意欲が高まり、主体的な学びができるようになっていると、手応えを感じています」と中野氏は語る。