2030年ビジョンを始動したとき、中澤氏には2つの道が見えていた。
「本業では、事業を拡大して業績にもつなげる『サステナビリティ商材』の開発。本業以外では、誰もが働きやすい職場にして社内の活性化を図る『ダイバーシティ推進』。社内と社外、両方のアプローチから始めようと考えました」(中澤氏)
本業のキーワードはビジョンに掲げる“市場を創造する新パッケージ”だ。
「例えば、コンビニエンスストアのおにぎりは、フィルムを手軽に外せる包装です。便利なだけでなく個別販売が可能になり、『パリッとしたのりでおいしく食べられる』とブームを巻き起こして、コンビニおにぎり市場を創出しました。当社もそんな新パッケージを創りたいのです」(中澤氏)
食文化や生活習慣をより良く変える新パッケージで環境負荷を低減し、「持続可能な開発」も実現する。そんなサステナビリティ商材の開発に向け、同社は社長直轄の「サステナビリティ推進室」を新設。開発・営業・購買・マーケティング・経営企画室など、各部門の責任者で構成し、独自に認定基準も制定した。
「『パッケージ=ごみ』のままでは、当社の事業は近いうちになくなります。包装は絶対に必要であることを前提に、プラスチック廃棄量を減らすこと――例えば、紙素材など海や土に返るバイオマス素材へ変えていくことや、リサイクルを始めとした循環型の仕組みの創出など、持続可能な社会の実現を目指したいと考えています」(中澤氏)
さらに、CSRの観点から、CRSF※など「人にやさしい」パッケージを開発。SDGsの17のゴールのうち、3「すべての人に健康と福祉を」、12「つくる責任つかう責任」、13「気候変動に具体的な対策を」を達成するサステナビリティ商材が、いくつも誕生している。
例えば、「紙識別マークパウチ」は紙素材を使ったパッケージ。「詰替えコスモ」はビンやボトルを再利用できる小容量リフィル包装。どちらもプラ使用量を削減できる。また、片手で半分に折って簡単に開封できる「しましまPTP台紙」は、ユニバーサルデザインの包装だ。
「女性化粧品は容器のデザインや見た目が重要なので、リフィルは当初、採用いただくのが難しかったです。美しくて目を引くパッケージに変え、大手化粧品メーカーとのこれまでの取引実績をベースに、受注につなげることができました」(中澤氏)
将来を見据えていま、最も注力するのが「モノマテリアル」(単一素材)である。複数の素材を組み合わせたパッケージは廃棄時の分別が困難だが、モノマテリアルならリサイクルも可能になる。カナエが開発したモノマテリアルパッケージは、包装のリサイクル適性に関する評価を行うドイツの独立試験研究所「Institute cyclos-HTP」の「リサイクル適性100%」認証を2022年1月に取得し、市場の注目を集めている。
同社の研究開発の拠点は、2019年に新築した開発包装技術開発センターだ。「KANAE GOOD ANSWER LAB」(KGAL)の名で、内容物とパッケージ素材の適合調査や、サステナビリティ商材・新素材の開発を担う。
「お客さまのニーズを満たすだけでは、目の前のビジネスにはつながっても、会社の未来に向けた成長にはつながりません。将来性も含めて真の市場をしっかりとつかみ、それに合わせたイノベーションを起こすことが大事です。
KGALはオープンイノベーションを目指しています。これまでも、お客さまやパッケージメーカーとの共同開発で、最適なマッチングを生み出してきました」(中澤氏)
本業以外のアプローチであるダイバーシティ推進としては、2020年に「カナリアプロジェクト」をキックオフ。「女性活躍」をテーマに、初年度は世の中で活躍する女性を社外から招いた講演会や、女性目線で新パッケージを考えるグループワークを全5回・各2部制で開催。全社公募に自ら手を挙げた女性社員18名が参加し、22件のアイデアが誕生した。
「2021年度も同テーマを継続し、男女混合のチームで推進しています。全社員がダイバーシティの発信役になれば、働きやすい企業風土に磨きをかけられると期待しています」と中澤氏は語る。こうした取り組みが認められ、同社は2021年1月に厚生労働省の「えるぼし」(女性活躍推進企業認定制度)の認定を受けた。
2030年ビジョンを実現する第1ステージとなった中計は、2022年秋で終了する。新しい中計策定のタイミングを迎える中、中澤氏は1つの決断を下した。
「新中計はあえてつくらず、単年度計画だけ策定します。目標を設定し、売り上げや利益を上げるのはビジネスとして当然ですが、コロナ禍で市場も影響を受け、数年先が見通せない状況です。2030年ビジョンで、やるべきことは分かっているので、後はSDGsを道しるべに、サステナビリティ商材の開発とダイバーシティをしっかりと実行していくことが大切。そこに時間と手間をかけようと考えました。中計は先がもう少し見えるようになったときに、またつくれば良いのです」
そう笑う中澤氏は、社員の会話や研修時に、SDGsのキーワードを見聞きするようになるなど、「やってきたことは間違っていない」という確かな手応えを感じている。また、CSRのさらなる推進が、CSとESの向上につながっていることも実感している。
「私の好きな言葉は、松下幸之助氏の『企業は社会の公器』です。朝礼などで繰り返し社員に伝えてきました。正しいことをして世の中に認められ、求められる企業でなければ、やはりダメなのですよ」(中澤氏)
ごみになるパッケージなんて、いらない――。そんな声が生まれないように、業界と連携し、顧客やメーカーも巻き込みながらサステナブル基準を確立するカナエ。パッケージの価値を高め、持続可能な社会を実現していく同社は、「包む」文化で貢献する自社の未来の姿を見据えている。
PROFILE
- (株)カナエ
- 所在地:大阪府大阪市中央区城見1-2-27 クリスタルタワー23F
- 設立:1956年
- 代表者:代表取締役社長 樋髙 成憲
- 売上高:241億2075万円(2021年10月期)
- 従業員数:468名(2022年1月現在)