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【特集】

SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
2022.05.02

企業価値を高めファンをつくるサラヤ流SDGs:サラヤ

 

 

創業の精神を受け継ぎ、社会問題の解決に挑み続けるサラヤは、ビジネスと社会貢献を両立させながら、世界の衛生・環境・健康の向上に努めている。長年の取り組みは消費者にも認知が進み、ブランド価値向上にも寄与している。

 

 

社会問題の解決を目指すSDGsの先進企業

 

人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」で有名なサラヤは、SDGsの先進企業としても広く知られる存在だ。同社は「世界の衛生・環境・健康の向上に貢献する」をミッションに掲げ、長年にわたってビジネスと社会貢献の2つのアプローチから国内外の社会問題の解決に貢献している。

 

例えば、アフリカ・ウガンダで展開する「サラヤ100万人の手洗いプロジェクト」は、手洗いを通した衛生向上によって感染症などの予防を目指す取り組みだ。2010年から、対象となる衛生商品の売り上げの1%を、ユニセフの手洗い促進活動に寄付する形でサポートを続けている。

 

一方、2011年には現地法人を設立。2014年には手指消毒剤の現地生産を開始し、医療従事者の手指衛生の徹底を目指すソーシャルビジネスをスタートさせている。

 

社会貢献に加えてビジネスの側面からもウガンダの衛生向上に取り組んでいるが、そもそも手洗いや手指消毒の習慣がない地域へ参入するということは、ゼロからマーケットをつくっていく決断だ。苦戦が予想される中、あえて現地にビジネス拠点を構えた理由を代表取締役社長の更家悠介氏は次のように説明する。

 

「寄付で支援するのも良い方法ですが、社会的な普及を目指すならば、ビジネスで対処した方が良いと考えました。おかげさまで工場の稼働から7年が過ぎて累積赤字は解消。現在、工場の拡張プランを作成しているところです」

 

新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、ウガンダにおける家庭での石けんを用いた手洗いの普及率は2006~2007年の14%から2019~2020年には38%に向上。学校でのトイレ使用後の手洗い(石けん使用)は58%まで向上するなど、目に見える成果が上がっている。こうした流れを止めることなく、同社はウガンダを起点にケニアやタンザニアなど東アフリカの国々に衛生事業を広げる予定である。

 

ウガンダの事例からも分かる通り、2015年にSDGsが国連で採択される以前から、サラヤは社会問題の解決へ積極的に取り組んできた。そうした姿勢の原点は創業の精神である。

 

同社の創業は1952年。創業者の更家章太氏は、敗戦後の混乱で衛生環境が悪化し赤痢が大流行する中、ヤシ油を原料に殺菌成分を配合した手洗い石けん「パールパーム石けん液」を開発。さらに、石けん液を衛生的に使用できる押上・押出式の石けん容器と一緒に提案することで、感染症の予防に大きく貢献した。

 

「社会的なニーズや問題意識があり、そこにビジネスが生まれて広がっていきました」と更家氏が語る通り、その後も経済成長に伴う大気汚染の広がりを受け、うがい薬とうがい器を開発。さらに、石油系合成洗剤による河川の汚染が社会問題になる中、1971年には業界に先駆けて環境負荷の少ない植物系の食器用洗剤「ヤシノミ洗剤」を発売した。同商品は50年以上愛されるロングセラーとなっている。

 

しかし、2004年には危機も経験した。きっかけは、パーム油の大量採取が東アジアの熱帯雨林や生態系を破壊している実態を伝えたテレビ番組だった。実はパーム油の8割以上が食品用で、洗剤への使用はわずかだが、更家氏がインタビューに応じたことで同社に批判が集中する結果に。それでも、この経験によって「気付きがありました」と更家氏は振り返る。

 

「インタビューを受けるまで、パーム油のことをあまり知りませんでした。当時は、消費者に向けた環境負荷の少なさや安全性ばかりに目が向いていた。フロントばかり見ていて、後ろのことを意識できていなかったと気付きました。そこで、まずは事実をきちんと知るために現地調査を行いました」(更家氏)

 

 

1952年に創業し、日本で初めて薬用手洗い石けん液と石けん液容器を開発・事業化したサラヤ。戦後間もない日本で赤痢などの伝染病が流行する中、サラヤの液体石けんは感染予防に貢献し、それ以来、日本の衛生環境の向上をけん引してきた

 

 

 

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