北海道内において、橋梁工事から道路・河川工事へと事業を拡大する草野作工。地域密着型のインフラ構築だけにとどまらず、地元の人々の暮らしを支えながら知名度を上げた背景には、働く社員が幸せになる「スタッフファースト」という考え方があった。
技術力と専門性を追求するユニークな企業
タナベ 島田 草野作工は1936年に創業され、当時は「橋梁の草野」と呼ばれていたそうですね。
草野 小町谷 創業者は、「橋造りの名人」と呼ばれた草野真治です。橋梁の下部工事を得意とする技術者で、「北海道三大名橋」のうち2つを手掛けました。石狩川に架かる「旭橋」は、今も現役で使われています。その後、上部工事も含めて橋梁工事一式を請け負い、現在は道路や堤防、上下水道などの道路河川工事が事業のメインです。
社名の「作工」は、コンクリート構造物を含めた土木基礎工事を意味していて、その技術力は北海道内一と自負しています。昔から専門的な技術にたけ、新技術もすぐさま導入するユニークな企業でした。
タナベ 島田 事業拡大など企業の成長につながった「ユニークさ」とは何でしょうか。
草野 小町谷 北海道内で初の試みを、創業期から数多くやってきたことです。その伝統は、5代目の現社長である草野貴友に受け継がれています。企業規模の拡大よりも、技術力や専門性を追求してきたのです。
私は2016年まで、当社にとって発注者側の立場になる北海道開発局に在籍し、そこから当社に入社しましたが、発注者側でも「草野作工は独特な建設会社」と評判でした。
タナベ 島田 2020年までは地元江別市の都市公園の指定管理者となり、人が集まるイベントも仕掛けていました。建設業の枠組みにとらわれないユニークな取り組みです。
草野 小町谷 JR野幌駅周辺は江別市の中心として再開発が進められており、「町の顔」となる駅前広場は、南口も北口も当社が施工しました。そして、当社が管理していた遊歩道「四季の道」に隣接する江別蔦屋書店のテラスでは、野外コンサート・映画祭・マルシェなども開催しました。
また、森林(河畔林)保全を目的とする公益財団法人草野河畔林トラスト財団を立ち上げ、所有する北海道内5カ所の広大な森林(170ha)を保全し、環境教育にも貢献しています。北海道内で公益法人を設立してまで環境に注力している建設会社は他にありません。
タナベ 島田 ビート(甜菜とも呼ばれる基幹作物)が原料の発酵ナノセルロース事業では特許を取得し、農業法人や太陽光発電なども事業展開しています。多面的に世の中と接点を持つのも独自性の表れですね。
タナベ 島田 2016年にブランディング活動を始め、2017年11月にホームページ(HP)をリニューアルされました。きっかけは、人材不足に対する危機感でしょうか。
草野 小町谷 社員の世代別分布表をつくると、逆ピラミッド構造になっていました。当時は30歳代以下が1名で、40~50歳代ばかり。建設業界全体が同じ状況ですが、当社は将来の担い手がいない危機的状況が目立っていました。2035年に創業100年を迎えるに当たり、最重要の経営課題が人材確保だったのです。社長も、「何とかしなければいけない」と。
当社は、業界で一定の認知度があっても、一般的には規模が小さく知名度もない。従来のHPは手作りで情報量も限られていたので、まずは採用活動を改善するためにリニューアルを行いました。
タナベ 島田 ブランディングに対する知見はどのように得たのですか。
草野 小町谷 私は前職で国営公園の運営にも携わり、来園者を増やすためのブランディング活動の経験がありました。その経験を当社でも生かそうと考えました。ただ、何よりもトップである社長の経営判断が大きかったですね。HPのリニューアルは、売り上げや利益が出るわけではないので、投資に踏み切れない企業が多い。でも、社長から「思うようにやってみたらいい。変えていこう!」と後押ししてもらいました。
タナベ 島田 リニューアルで特に力を入れたのはどういう点でしたか。
草野 小町谷 HPで、「橋に強いユニークな企業で、事業も多面的に展開している」と分かりやすく発信しました。また、創業者の功績やエピソードなど、会社の歴史も紹介しました。
ところが、訪問数は思ったほど増えず、若い人たちにもっとコンテンツを読んでもらおうと、創業者の漫画『橋づくり名人ものがたり 草野真治の生涯』を制作しました。20ページほどの一代記ですが、これが北海道内で影響力のある『北海道新聞』に取り上げられ、これをきっかけに訪問数が一気に増えました。
【図表】草野作工の哲学・経営理念・スローガン
タナベ 島田 「ニュー6K」の推進も新たにHPに加えた取り組みですね。
草野 小町谷 若い人たちに入社してもらうために、何を、どう発信すべきか。世の中で「働き方改革」が始まり、建設業界も「3K(きつい・危険・汚い)から新3K(給与・休暇・希望)への変化」を旗印に掲げています。
そこで、社長の先を見通した思い切った決断で、北海道内の建設業がどこもやっていない「完全週休2日制」を取り入れました。さらに、建設業界は景気の浮沈に影響されやすい業界ですが、当社は年棒制で、業績の良し悪しにかかわらず所定の給与を支給しており、良ければ臨時ボーナスもあります。そのような当社の働き方の特長の頭文字を取って「ニュー6K(給料が良い・休暇が多い・危険回避・絆・きれい・カッコいい)の会社です」と発信を始めました。その考え方の根底には、スタッフの幸せを1番に考える「スタッフファースト」という当社の基本的スタンスがあります。
タナベ 島田 今、多くの企業が従業員の体験価値(EX:エンプロイー・エクスペリエンス)を向上するための取り組みに注力しています。スタッフファーストは、まさにその先取りですね。
草野 小町谷 当社はこれまで、伝統的かつ先進的な取り組みとして、社員が体験してきたことを見つけ出し、若い人目線で当社の「働き方改革」の方向性を明文化してきました。完全週休2日制の実施は、北海道開発局の「働き方セミナー」において、先進事例として紹介いただき、「草野作工ができるなら」と業界全体の意識も高まっています。
タナベ 島田 EXだけでなく、顧客の体験価値(CX:カスタマー・エクスペリエンス)や業界・地域の体験価値(SX:ソーシャル・エクスペリエンス)も高める“社会共創のブランド”ですね。
草野 小町谷 災害時には当社の敷地を開放し、地下水や自家発電装置による電気も供給して、地域の皆さんを支援します。「地域に還元し、貢献する建設会社」として、採用活動にも資する良いイメージを定着できました。
現場の働き方を変え、お客さまや地域にとっての自社の価値をさらに高めていくために、次に取り組んだのが建設DXです。2021年5月に開設した建設DXルームでは、施工現場と本社をオンラインでつなぎ、担当者会議はリモート会議で行います。現場立ち会い検査もウェブカメラで映し、本社から「遠隔臨場」を実施しています。職員にはウエアラブルカメラやスマートウォッチを装着し、現場作業員の安全管理や業務進捗はもちろん、体温を測れるので熱中症対策などの健康管理も全て本社から支援できます。
タナベ 藤島 社員の安全と健康につながるEXを、DXで実現しているのですね。
草野 小町谷 また、学校のキャリア教育授業として、北海道内の高校・高等専門学校の学生たちにオンラインで工事現場の仕事を紹介しながら、社会基盤整備の意義や土木の魅力を伝えています。DXは地域貢献にもつながっています。