カンロは、顧客とのコミュニケーションや販売方法のデジタル化への転換を打ち出した2020年末にデジタルマーケティングの3年後のビジョンを策定した。このビジョンは、SNSやLINE、YouTubeなどを含めたさまざまなデジタルメディアやツールを活用した顧客との双方向コミュニケーションを通じて、コンビニやスーパー、ヒトツブカンロ、ECショップなど複数の販売チャネルで商品を購入してもらう仕組みの確立を目指すものである。2021年8月には、Kanro POCKeTの立ち上げと前述のECショップ版ヒトツブカンロの充実を図るだけでなく、コンタクトセンター機能も持たせた。
「Kanro POCKeTでは、カスタマーセンターに届くお客さまの不満だけでなく、意見や感想もリスト化して整理し、それをKanro POCKeT内のFAQ(よくある質問と回答)に反映させました。また、AIによるチャットボットサービスを導入し、電話するまでには至らないお客さまの小さな疑問の解決につなげています。今後はさらなるFAQの充実を図り、商品改善・開発、サービス向上に努めていきたいと考えています」(内山氏)
顧客の声をサービス向上に生かした事例として、食物アレルギーを持つ顧客のために表示を見やすくしたり、カリウムやリンの摂取制限を行っている顧客の要望を基に、栄養成分表示にカリウムとリンの項目を新しく加えたりといった改善を行っている。こうしたリアルとデジタルの融合によるサービス品質の向上も、同社のマーケティングや顧客エンゲージメント施策の特長である。
カンロが掲げるデジタルマーケティングの3年後ビジョンにおいて、2022年は3カ年計画の2年目に当たる。同社では、2021年1月、新たにデジタルコマース事業本部を立ち上げ、ECショップと直営店をシームレスにつないで、顧客が販売チャネルを意識せずとも商品を購入できる環境の構築を目指す。
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、わずか2年でデジタルマーケティングに軸足を移し、顧客とのコミュニケーションや商品販売の方法を大きく変えた同社だが、その過程では多くの発見があった。
「当社の場合、コロナ禍で商品をお客さまに届けられないという危機感からデジタル化が加速しました。短期間でここまで大きくシフトできたのは、やはりデジタルならではのフットワークの軽さと、スピード感があったからだと思います。デジタルは広告を打つにしても、効果が表れなければすぐに方向転換すれば良い。状況に合わせた施策ができるところも、デジタルの優れた点だと感じています。
ECショップ版ヒトツブカンロは当初、外部委託ではなく自社内で急きょ立ち上げました。実店舗の休業を受けての対応でしたが、当社はECを行っておらず、過去ECに携わった経験のある社員を集結し、手探り状態での立ち上げだったので、とても大変でした。
しかし、ECショップ版ヒトツブカンロを開設したことで、新しい顧客層の発見やデジタル化によるさまざまな恩恵といった、チャレンジしなければ分からなかったことを知ることができました。つまり、世界が広がったのです。デジタルマーケティングには、業界のゲームチェンジャーになれるチャンスがあると感じています」(内山氏)
デジタル化へと一歩踏み出し、これまでのビジネスモデルを変えようとしているカンロ。コロナ禍によるリアルなコミュニケーションが難しくなった環境において、デジタルマーケティングは起死回生の一手になる。
ECショップ版ヒトツブカンロを開設したことで、
チャレンジしなければ分からなかったことを知ることができました
PROFILE
- カンロ(株)
- 所在地:東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティビル37F
- 創業:1912年
- 代表者:代表取締役社長 三須 和泰
- 売上高:233億2140万円(2020年12月期)
- 従業員数:613名(2021年6月現在)