コロナ禍による生活様式の変容が起こる中、経営方針に「デジタルマーケティングの推進」を掲げたカンロ。オウンドメディアとEC、SNSを活用した顧客コミュニケーションにより、顧客層を広げることに成功した。
1955年に発売した「カンロ飴」のヒットにより一躍有名になったカンロは、数多くのキャンディー、のど飴、グミなど多彩な商品を顧客に届けてきた老舗菓子メーカーである。
飴を中心とした菓子製造を手掛ける同社が、顧客とのコミュニケーションや販売方法のデジタル化に大きくかじを切った最大の要因は、2020年にパンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルスの感染拡大だった。
コロナ禍前、同社の中心的な販売チャネルは、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、東京駅グランスタにある直営店「ヒトツブカンロ」など、商品を直接顧客に提供するリアル店舗が中心だった。ところが、コロナ禍により店舗への客足が遠のいてしまった。
「コロナ禍の影響でお客さまに直接商品を届けにくくなり、特に直営店は休業を余儀なくされたため、2020年5月にオンラインショップを急きょ立ち上げました。その後、経営方針としても『デジタルマーケティングの推進』を掲げ、『Kanro POCKeT(カンロポケット)』という当社のオウンドメディアも新設しました。
それまでは、デジタルマーケティングやオンライン販売に対して懐疑的な見方をしていましたが、このECショップ版ヒトツブカンロは予想をはるかに超える売り上げに結び付きました。この成功を機に、デジタルを活用したマーケティングやブランディングにシフトしていきました」
デジタルマーケティングへの転換をそう説明するのは、カンロの執行役員でデジタルコマース事業本部長兼コーポーレートコミュニケーション本部長の内山妙子氏である。同社では、2017年にCI(Corporate Identity:企業の特色や独自性を分かりやすく表現し、企業ブランドの浸透を図る経営戦略)を全面的に見直し、それに伴って公式ホームページも刷新。Kanro POCKeTには、「カンロの商品を知る」「カンロの企業を知る」というコンテンツを拡充し、顧客への情報発信を行っている。
Kanro POCKeTは、マーケティング部門、カスタマーセンターなど部門横断で運営している。例えば、ブランド部では、商品を知るためのコンテンツとして、「カンロ飴食堂」と題して同社の商品を使った料理レシピを紹介。「グミパ」では、同社のグミを使った「ちょい足しアレンジ」で見た目やおいしさをアップさせるアイデアを紹介している。
そこに、ECショップ版ヒトツブカンロが加わったことで、顧客がカンロのビジョンや商品を知り、購入まで行える「ECオウンドメディア」になった。
こうしてデジタルマーケティングへシフトした同社は、Twitter、Facebook、Instagramなど複数のSNSも活用している。中でも、Twitterの公式アカウントフォロワー数は30万人を超えるなど大きな影響力がある。これらのSNSでは、新商品情報や商品を使ったレシピ、商品の開発裏話などさまざまな情報を発信し、顧客との双方向コミュニケーションを図っている。顧客の声を直接聞けるようになったことにより、見えづらかったコア顧客層の変化にも気付いたという。
例えば、ヒトツブカンロの顧客層について、デジタルマーケティングを始める前、同社はコア顧客層を40歳代以上のミドルエイジと考えていた。だが、Twitterのアカウントフォロワーの特性を分析し、20~30歳代の若い世代からも支持されていることが判明したという。
「SNSによる双方向コミュニケーションに力を入れたことで、若い世代の方からの支持が増えたことも要因の1つだと思いますし、リアル店舗であるヒトツブカンロへ来店される方を見ても一目瞭然です。また、子どものお土産として購入するビジネスパーソンの姿も多く見受けられるようになりました」(内山氏)
こうした顧客層の変化の背景には、同社の緻密かつ真摯なSNSコミュニケーション戦略がある。
Twitterでは、フォロワーからの反応には迅速な「リツイート」(他人の発信内容を自分のフォロワーに向けて拡散する機能)を心掛ける。また、Instagramでは、カラフルな商品を並べた「インスタ映え」する画像を投稿することで、「カンロはセンスが良い」という企業イメージの定着にもつながっている。このように、それぞれのSNSの特徴を生かした対応が功を奏している。