自動車修理工場に補修用塗料・工具・副資材のコンサル営業を実施(左)
神戸市に地域密着し、「サンカラーズリフォーム」のブランドで展開(中央)
中古マンション×リノベーションの独自ブランド「リノベっ家」の事業を開始(右)
2つの使命から始まるサンエース物語の原本は、全26ページの手書きのバインダーファイルだ。社員が手にする冊子も、体裁は手書きのままで、会社や幸せ、職場とは何か、と問いかけが続く。
会社とは、幸せを実現するための共通の場。幸せとは、自分と自分の周りの人々を幸せにすること。人間的成長として目指す姿は、人、お客さま、仲間に喜んでもらう仕事の能力と人間力を持つことで、その対価が給料。職場は、自己の成長に取り組む道場。さらに、誇りを持てる会社になって、好ましい企業風土をどう創り出すかまで、分かりやすくつづられている。
中山氏が特に肝要と感じているのは、「会社の発展を手段として、自己の成長を目的として」という一文だ。
「同じ価値観を共有する個性豊かな集団として、サンエースというチームで自己実現を果たし、社員は自分をより良い人間に育て上げるために働く。手段と目的が逆の企業が多い中で、『自己成長して幸せになるのが仕事の目的だ』と言い切っています」
入社後は、オートサプライヤー事業の営業担当者としてスタートを切った中山氏。低迷していたリフォーム事業へ異動を志願し、業績回復を実現したが、同僚と事業再生ミーティングを立ち上げたときも、たどり着いたのは「物語」への回帰だった。
「お客様第一」という経営理念を勘違いし、採算度外視の値引きを続けていた状況を改善。また、事業部採算制を採用し、適正な利益を出さなければ永続できないとの意識を共有した。社員はもともと顧客には真摯に向き合っていたため、サンエース物語に立ち返って考え直すだけで、すぐに成果につながった。
「日々、『物語』につづられた言葉を口にする社員の姿がある」と語る中山氏は、こう続ける。
「コロナ禍で何が正しいのか、答えがない中では、自らの価値観を明確にすることが大事です。普遍的な理念を共有し、日々の業務を通して行動を起こす社員がそろっているので、経営者として私は恵まれています。
渋沢栄一氏は『右手に論語、左手に算盤』と言いましたが、当社は『右手にサンエース物語、左手に業績』。これからも当たり前のことを当たり前に。また、正しいことを正しくやって、理念を成果へとつなげていきます」
事業承継には多様なスタイルがあるが、ファミリー企業特有のジレンマもある。中山氏は、好業績であるほど株価が上昇し、株式譲渡が厳しくなる難しさを経験した。また、経営のかじ取りをどれだけ後継者に委ねられるかも、微妙な問題だ。
「先代は会長になってから、経営の全てを任せてくれています。大事に育てた会社ですから、普通は口出ししたくなるもの。退き際の潔さは、簡単にまねができないことだと感じています」(中山氏)
サンエース物語に根差す経営は「不変」を貫く一方で、あえて変えたのが「時代の流れに合うやり方」(中山氏)。新事業を興す挑戦も、その1つだ。リフォーム事業はM&Aを含めた成長戦略へとかじを切り、パナソニック「リファイン」ブランドから自社ブランド「サンカラーズリフォーム」へと移行。兵庫県下最大級のショールームも開設し、地域密着の拠点戦略を再構築した。
また、新たな事業の柱を育てようと2020年に不動産事業を立ち上げ、増える中古マンションの仲介とリノベーションを開始。独自の「リノベっ家」ブランドで、コロナ禍においても初年度から黒字計上した。将来はリフォーム事業と連携し、顧客の生涯にわたる持続的なサービス提供など、さらなる展開を目指している。
「世の中がどう変わるか、将来を先読みし、時流を先取りして対応する。それはトップの仕事ですし、そのやり方は、会長と私で違って良いと思っています。社訓は『革新と創造』。失敗を恐れず、諦めずに挑戦し続けることが大事です」(中山氏)
揺るぎないサンエース物語の基盤と、時流に適応して変化を起こす挑戦力を併せ持つ盤石の経営だが、課題もあるという。
「黒字経営が当たり前になっていることに対する危機感があります。当たり前じゃないこともしっかりと共有する必要がある。逆に言えば、そこがブレない限り、業績は揺るがないと確信しています」(中山氏)
社員が一堂に会する年4回の全社ミーティングや宿泊集合研修の開催、朝礼での理念・社訓・信条の唱和、毎年の社員旅行。揺るぎない姿であり続ける社内制度や取り組みは、コロナ禍の影響で中止や縮小を余儀なくされたが、収束後は再開の予定だ。また、全社員が登場する動画を作成しYouTubeで社内共有するなど、「チーム・サンエース」の一体感を盛り上げる新たな取り組みも、若い世代から生まれている。
「いま、全社で100年企業を目指しています。永続するために、何が大事か。それは、将来を創り出す若手が活躍できる会社になること。新事業の不動産事業も営業は若手社員だけですし、そうした挑戦の機会をもっと創り出していくつもりです」(中山氏)
100年企業を迎えるまでには、中山氏から次代への事業承継が必要になる。
「事業承継は、駅伝に似ていませんか。たすきをいかに次へつなぐか。それがうまくいかなかったら会社は潰れます。後継者不在を理由に、M&Aによる譲渡を選択する経営者が増えていることは理解できます。ただ、それで本当に、思いを共有する社員が将来も幸せになれるか、生活を守れるのか。オーナー経営の事業承継で一番大事なのは、その責任を担保する覚悟ではないでしょうか」
社員を代表するランナーは中山氏、たすきはサンエース物語だ。経営者は受け継いだ区間を走り切るだけでなく、次の区間を託す後継者を選んで育てる重責もあるが、たすきの価値を知る後継候補者が身近にいるファミリー企業ならきっと、「物語」の続きを紡いでいくことができるだろう。
オーナー経営の事業承継で一番大事なのは、
創業以来の思いをつなぐ覚悟ではないでしょうか
PROFILE
- (株)サンエース
- 所在地:兵庫県神戸市東灘区御影中町2-1-4
- 創業:1949年
- 代表者:代表取締役 中山 勇人
- 売上高:38億5555万円(2021年1月期)
- 従業員数:135名(2021年8月現在)