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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

事業承継 EXIT PLAN

親族内承継のほか、ホールディング経営、IPO(株式上場)、MBO(役員陣による株式買取)、M&A(株式売却/事業譲渡)といったスタイルで第三者へ承継し、自社の企業価値を次代につなぐ企業が増えている。持続的に成長する「出口戦略」としての事業承継メソッドを提言する。
2022.01.05

100の事業、100の経営者を育てる:ヤマチユナイテッド

「全員経営」が社員と会社を成長させる

 

多角化経営への転換によって成長路線に乗ったヤマチユナイテッドだが、新規事業を成功させるのは決して容易ではない。「これまでに立ち上げた事業は120以上あります。今も続いているのは50事業ですから、半分以上は失敗しています」と山地氏は笑う。「新規事業に失敗は付きもの」(山地氏)と割り切って、良い企画であればとにかく挑戦してみるという。

 

そうした積極的な姿勢が成功を導く要因であることは間違いないが、もう1つ、同社が成功を収める要素として外せないのが、幹部と全社員を経営に参画させる「全員経営」の手法だ。

 

実際、「ここ10年は幹部や社員が主体となって新規事業を立ち上げ運営している」と山地氏。思い切って幹部や社員に任せることで、より多くの新規事業を立ち上げられるほか、社員のマネジメント能力や自律性が高まるなど、人材育成面の利点も多い。何より、事業運営から手が離れることで、事業承継や長期ビジョンの構想といった、社長が本来すべき重要な業務に時間とエネルギーを使えるようになった。

 

全員参加型の経営で成果を上げるには、いくつか押さえておくべき点がある。まず重要なのが、目的やゴールを確認した上で任せること。次に、安心して任せるための徹底した情報の公開と共有。さらに、判断基準や価値観の共有と指導だ。

 

同社ではそれらを仕組み化した独自の「システム経営」を構築。社員の裁量権限が広がることで仕事に自主的に取り組むようになり、やりがいを感じて人材が育つ組織へと変貌を遂げていった。また、幹部のマネジメント力や経営スキルが磨かれるため、「自然と経営者人材が育っていく」と山地氏は説明する。「明日、私の身に何かが起こったとしても、問題なく会社が回っていく自信があります」(山地氏)

 

 

 

事業承継を支える新たな選択肢

 

同社のユニークな経営手法への評価が高まる中、2014年に山地氏は企業経営を支援する新事業をスタート。企業の連邦多角化経営とシステム経営を支援する「連邦・多角化経営実践塾」を定期的に開催しており、全国各地から集まった受講メンバーが新規事業開発や仕組み化に意欲的に取り組んでいる(コロナ禍では一部をオンラインで開催)。

 

 

全社員に経営を分担してもらうための「委員会制度」(左)、新人育成プログラム「フレッシャーズキャンプ」(右下)など、人を育て、経営を任せるための仕組みが整う。「連邦・多角化経営実践塾」は、札幌での開講にもかかわらず、全国各地から経営者・幹部が参加する人気塾となっている(右上)

 

 

同塾は、経営者と経営幹部(8名まで)が一緒に参加することが条件となっており、事業承継を見据えて参加する企業も少なくない。例えば、後継経営者と幹部が一緒に参加して新規事業開発に取り組むケースや、現社長と幹部に加えて、将来の後継者と幹部候補が一緒に参加して事業承継に取り組む事例もあるという。

 

「後継者を支える幹部が育てば安心して事業承継できます。また、中には既存事業に魅力を感じられない後継者もいると思いますが、新規事業開発の仕組みと人材が育てば、会社のリソースを使って興味のある分野に参入することも可能です」(山地氏)

 

東京商工リサーチの調査によれば、2020年に「休廃業・解散」した企業は4万9698件。前年比で6000件以上増加し、調査を開始した2000年以降で最多となった。一因として指摘されるのが後継者不在だ。そうした企業にとって厳しい状況が続く中、同社の新規事業開発や多角化経営は、事業承継を支援する新たなモデルになる可能性を秘めている。

 

 

※2020年「休廃業・解散企業」動向調査

 

 

新規事業と多角化経営

クロスメディア・パブリッシング

新規事業開発や多角化はハードルが高いと思われがちだが、決してそんなことはない。同書では、山地氏の経験談も交えながら、新規事業のつくり方や多角化経営を成功させる経営の仕組み、事業を支える人材育成について詳しく解説されている。50以上の新規事業を成功させたノウハウが詰まった同書。加えて、会社の現状を確認できる「200項目のリスト」などの特典も入手できるため、客観的に現状認識する一助となるだろう。

 

 

幹部と全社員を経営に参画させる
「全員経営」で、自然と経営者人材が育っていく

ヤマチユナイテッド 代表 山地 章夫氏

 

 

山地氏のFacebook、Instagramはこちら

 

 

PROFILE

  • ヤマチユナイテッド
  • 所在地:北海道札幌市中央区北1条西10-1-17 北1条山地ビルディング
  • 設立:1958年
  • 代表者:代表 山地 章夫
  • 売上高:200億円(グループ計、2021年2月期)
  • 従業員数:720名(2021年2月現在)

 

 

 

 

 

 

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