直富商事株式会社 代表取締役 木下 繁夫氏(中央右)
専務取締役 木下 賀隆氏(右)
タナベコンサルティング 常務取締役 村上 幸一(中央左)
ストラテジー&ドメイン チーフコンサルタント 井関 由子(左)
1948年創業の直富商事は、長野県長野市に本社を置き、資源リサイクルや廃棄物の回収・処分、貿易などの幅広い環境ビジネスを展開している。「全ての廃棄物を再資源化」をモットーとした研究開発に意欲的に取り組むと同時に、さまざまな社会貢献活動にも力を注ぎ、経済産業省「地域未来牽引企業」にも選定された。環境ビジネスにおける地域経済の中心的担い手であるが、今後はグローバル市場も視野に入れながら、廃棄物の高度選別処理と化石燃料に替わる新燃料の製造を通して脱炭素社会の実現を目指す。
社員と地域に寄り添い、
持続的な成長を次世代へ
村上 「地域に愛され、必要とされる会社とする。社員が物心共に幸福と思える会社とする。」という経営理念に込められた思いをお聞かせください。
木下社長(以降、木下) 「一番大事なのは社員」という考えに基づいた経営理念なので、「社員が物心共に幸福と思える会社とする。」が第一義になります。私に代わって顧客の創出や生産性の向上などを実現してくれるのは社員ですから、何が何でも幸福になってもらいたいのです。先代社長も社員を大事にしてきたので、それを引き継いでいます。
また、当社は毎日の生活の中から出る廃棄物を扱っているので、地域の人々から理解され、愛されないと事業は成り立ちません。その思いが「地域に愛され、必要とされる会社とする。」に込められています。
この経営理念は、3代目経営者の私が、先代や先々代が話していた言葉を言語化して経営理念とし、社員へ確実に伝わるようにしました。これが当社の共通言語になってほしいと思います。
村上 繁夫社長、賀隆専務は兄弟で会社を経営されています。役割分担はどのようにされているのですか。
木下 兄弟経営は、先代の希望です。専務は私が気づかないところに対して忖度のない意見を言ってくれるので非常に助かっています。
私は鉄や銅合金、アルミなどを扱う金属系の事業と海外事業、専務は金属以外の資源、古紙やプラスチックに燃料、廃棄物処理全般などを扱う非金属系の事業を担当しています。
村上 組織経営と事業の両面で二人三脚の体制ができているのですね。次に創業から現在に至る成長過程、経営の転機と貴社の強みについて教えてください。
木下 以前は金属系の利益が大きな割合を占めており、利益構造に偏りがありました。私の事業承継以降、その改善に努めてきたこともあり、現在は金属系と非金属系の利益がほぼ同じになりました。
村上 相場動向で利益が増減する金属系の流動分を、非金属系の安定した利益でフォローし、収益バランスが取れるように経営のかじを切ったのですね。
初代が第1世代、先代が第2世代、木下社長が第3世代とすると、いかに第3世代の経営方針を次世代に定着させるかが生き残るポイントかもしれません。
木下 私の目はすでに第4世代に向いており、専務や若い社員の熱い思いを引き出し、経営や事業に取り入れたいと考えています。
村上 第1世代のままの古い経営スタイルの企業は廃業、第2世代のまま経営をアップデートできていない企業はM&Aの対象。第3世代から第4世代への移行に取り組んでいる企業だけが、第2世代の企業を吸収しながら業界を再編していく。そんな過渡期にあるのかもしれません。
「全ての廃棄物を再資源化」に取り組む直富商事。2018年には地域未来牽引企業に選定されている
独自の研究開発と
AIを駆使した最新設備導入に注力
村上 2018年には経済産業省「地域未来牽引企業」に選定され、長野県環境関連産業界のリーディングカンパニーになりました。直富商事の強みである研究開発力についてお聞かせください。
木下 当社は歴史的に営業力の強い会社として知られており、数値的なデータによる裏付けはあまり行っていませんでした。そこで25年前(2000年)に独自の技術研究室を開設。廃プラ塩ビ判定小型装置、振動を使った廃棄物の選抜技術などの開発実績を持っています。また、工場排水や環境水などの計量証明を行える環境計量証明事業所でもあるので、お客さまに対する提案の信頼度は他社を圧倒しています。
村上 「全ての産廃物を再資源化」をモットーに社会貢献に努めるサステナビリティと環境への取り組みをお聞かせください。
木下 大前提となるのは「人口が減少しても廃棄物は出続け、それを資源化する流れは止まらない」ということ。特に資源に乏しい日本において、廃棄物の資源化はサステナブルな社会をつくるために不可欠な条件であり、当社の事業は社会に貢献できていると思います。
脱炭素の取り組みには賛否両論がありますが、昨今の気温上昇傾向が示すように、温室効果ガスは地球に多大な悪影響を及ぼしていると私は確信しています。この危機的状況から脱するために、化石燃料の代替となるRPF(産業廃棄物を原料とした固形燃料)やBDF(廃食用油などを原料としたディーゼルエンジン用燃料)を生産する取り組みを始めました。
また、AIを搭載した自動クレーンや選別ロボットなどを多数導入。混合廃棄物の高精度な選別を実現しました。今後も、労働力の減少を補い、正確で効率的な廃棄物処理を行うための投資を積極的に行いたいと思います。設備投資の遅れは、致命的なダメージになりかねません。
村上 タイムリーな設備投資が必要となると、生き残る企業は限られてきますね。
木下 今後の廃棄物処理は工程がライン化され、より高度で複雑になるため、多額の設備投資ができる体力が必要になりますから、業界では今以上に寡占化が進むと考えられます。
最新のAI選別機導入で省人化を実現(写真は直富商事第3工場)
グローバル展開と新たな市場への挑戦
直富商事 代表取締役 木下 繁夫氏
長野県出身。1992年、明星大学理工学部土木工学科を卒業後、直富商事株式会社に入社。以来、一貫して廃棄物処理・資源リサイクル事業の発展に携わり、2010年に常務取締役、2013年4月24日に代表取締役へ就任。経営トップとして、持続可能な社会の実現に向けた事業展開を推進している。2024年4月より長野県立大学大学院に在籍し、学術的視点からも地域社会と環境課題の解決に取り組んでいる。
村上 経営理念にある「地域に愛され、必要とされる会社」へ向けた地域貢献と産官学連携の取り組みについてお聞かせください。
木下 社会貢献活動としては、こども食堂への支援や文房具などの提供を通した子ども学習支援プロジェクト、スピードスケートの山田梨央選手をはじめとするスポーツ支援関連、インターンシップによる環境学習、施設を一般公開する工場見学などを実施しています。自然科学、人文科学などに関する研究に対して奨励金を交付する「長野県学校科学教育奨励基金」にも協賛しています。
産官学の取り組みとしては、信州大学と「含塩素樹脂を含む廃棄プラスチック混合物の無害化方法」の共同研究で特許取得。2023年には「SDGsを踏まえた直富商事の取り組み」をテーマに、当社社員が同大学で講義させていただきました。
また、長野工業高等専門学校、長野県工業技術総合センターと共同で「麹化菌体を用いた廃食用油のバイオディーゼル燃料化技術の実用化」の研究を行いました。
井関 共同研究や講演活動を通して「環境活動に力を入れる企業」と認識されると、採用活動にも好影響を与えるのではありませんか。
木下 信州大学卒の社員は結構多いですね。最近では長野県立大学が主催するイベントに当社ブースを出して古着を回収し、作業車も展示しました。
工場見学は人気があり、年間130組以上が訪問している(左)
直富商事社員による信州大学での講義の様子(右)
村上 次に、直富商事の広域展開とグローバル戦略についてお聞かせください。
木下 商圏は長野市周辺の北信エリアをメインに、上田市・軽井沢周辺の東信エリア、松本市周辺の中信エリアに広がっています。今後は伊那市・飯田市周辺の南信エリアにも商圏を広げ、長野県内での存在感をさらに高めたいと考えます。
また、2006年に東京営業所を開設し、2020年には東京都杉並区に営業拠点を移転しました。東京は市場が桁違いに大きい分、競争は非常にハードですが、杉並区を足がかりに当社の強みを生かして商圏を広げていく計画です。
海外展開は1992年に中国との取引をスタート。江蘇省ではスクラップ事業、吉林省では自動車のリサイクル事業を展開しています。中国は競争が厳しく、ビジネスモデルの革新に努めています。さらに、カンボジアへの事業進出も進めており、JICA(国際協力機構)を介して市場調査を行っています。同国に対しては、専務が発案し継続してきた井戸の寄贈に努めており、政府から感謝状をもらったことも強みになると思います。
タナベコンサルティング 常務取締役 村上 幸一
VCにおいて投資先ベンチャー企業の戦略立案、マーケティング、フィジビリティスタディ(事業性評価)など多様な業務に従事。豪州での現地工場の設立と運営、米国の大学とのTLO(技術・特許移転)を通じた大学発ベンチャー企業の日本市場開拓支援など、国境を越えた産学連携の実績を有する。タナベコンサルティング入社後は、事業戦略策定を軸に、ビジネスモデルの立案、新規事業開拓支援、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスなど多岐にわたるコンサルティングに従事。戦略コンサルティング事業部の東京担当役員。
倫理、理性、人間力に富んだ社員を育成
村上 人材育成で注力されていることは何ですか。
木下 250台ほどの収集トラックに乗って現場を巡るドライバーは、当社の“顔”でもあるので、安全に対する教育はもちろん、あいさつや立ち振る舞い、実務のコンプライアンスに関する指導も徹底して実施しています。その効果は大きく、地域の人々からの評判は上々です。
また、社員には長野県の平均よりも高額の賃金を支給しています。これは人材確保の大きなポイントで、今後も給与アップに努めていきます。
村上 直富商事の今後の展望をお聞かせください。
木下 数字的には売上高200億円の達成が第一です。人材面では、倫理と理性と人間力を備えた社員が必要になります。廃棄物に関する豊富な知識を持ち、自分をきちんとコントロールでき、子どもたちともしっかり付き合えるような人材です。そんな人材を育成するために、社員の学ぶ意欲を高めて多様な学習チャンスを提供したいと考えます。同時に給与水準と職場環境を整え、寛容な気持ちで多様性を受け入れる社風の醸成を加速していきたいですね。
村上 倫理、理性、人間力に富んだ社員たちが働く職場は、会社のイメージ向上に直結しますし、仕事の効率化が飛躍的に高まります。その結果、直富商事のブランディングが業界のブランディングになっていくと確信します。本日はありがとうございました。
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン チーフコンサルタント 井関 由子
大手航空会社・教育会社を経てタナベコンサルティング入社。クライアントファーストを信念に掲げ、事業戦略、組織改革、風土改革、人事制度改革、営業改革などをテーマに多くの企業を支援している。特に企業風土活性化を軸にしたコンサルティングや人材育成に情熱を注ぎ、若手・中堅・幹部社員を経営幹部に育てる育成コンサルティングで多くの実績を持つ。
PROFILE
- 直富商事(株)
- 所在地:長野県長野市大字大豆島3397-6
- 創業:1948年
- 代表者:代表取締役 木下 繁夫
- 売上高:171億6600万円(2025年2月期)
- 従業員数:734名(契約・パート社員含む、2025年8月現在)