秘書・人事・経理などバックオフィス業務を代行サポートするリモートアシスタントサービス「CASTER BIZ」シリーズ
「オンライン秘書」や「リモートアシスタント」と呼ばれる新ビジネスを創出し、自らの手で市場を拡大したキャスター。同社の生み出した「フルリモートワーク」という言葉は、コロナ禍で一気に注目が高まり、メディアを介して広く浸透した。2023年10月に東証グロース市場へ上場を果たした同社が体現する、未来に価値を創出し続ける働き方に学ぶ。
労働バイアスを打破する挑戦
「リモートワークが世の中に強く認知され、当たり前になっていく流れづくりに影響を与え、微力ながら貢献することができたと思っています」
リモートアシスタントサービスの先駆者として、2024年に10周年を迎えた創業からの歩みをそう振り返るのは、キャスターの代表取締役である中川祥太氏だ。秘書・人事・経理などバックオフィス業務を代行サポートするリモートアシスタントサービス「CASTER BIZ」シリーズは、導入企業が累計4800社を超え、売上高も50億円目前へと着実に成長を続けている。
リモートワークで働く人が仕事に見合う価値を認められず、適正な報酬も得られない。そんな働き方の現実を変えるため、中川氏はリモートワークで働く人々を社員として正規雇用するキャスターを起業した。
「当時は、『リモートワーカーをマネジメントできない』というバイアスがかかっていました。『真面目に仕事に向き合っているかどうかは、直接顔を合わせなければ分からない』という信念を持つ方が多く、その結果として、『リモートワーカーは正規雇用できないから業務委託にしよう』『委託なら最低賃金は関係ないよね』と都合良く考える、非常にゆがんだ市場が形成されていました。
当社がビジネスを始めてから、そうした市場は崩壊して適正化が進み、ゆがみにつけ込んだ人材ビジネスの事業者も姿を消しました」(中川氏)
「0から1へ」と挑んだ起業から、社会の公器になるIPOに「約10年かけて、ようやくたどり着いた」(中川氏)が、それはゴールではなくマイルストーンだ。そこからさらに「仕事とはこうあるべき」ととらわれてきた「労働におけるバイアス」を打破する挑戦が続いている。
全社的にフルリモートワーク、フレックス
オンラインのアシスタントサービスを提供する同社の組織体制は、フルリモートワークで働く従業員800名以上で機能している。
「フルリモートワークでバックオフィス人材を直接雇用し、継続的に求人をかけているのは、国内では当社だけでしょう。
育児と介護のダブルケアやパートナーの転勤など、リモートワーク以外では自分のキャリアが続けられない環境下で、自らが望む働き方を実現する選択肢として入社する社員が、多くの比率を占めています」(中川氏)
多い時には月間の応募者が3000名を超え、競争倍率はかなり高い。全国どこにいても働けるため、優れた人材が集まるのはフルリモートワークの強みだ。日常業務や働き方に関する社員の要望は人事部門が丁寧に吸い上げ、副業やベビーシッター制度の導入など的確に対応している。
一般的に、リモートワークはコミュニケーションが薄まることが問題視されがちだが、全社員にSlack(スラック)を導入。業務だけでなく、部活動や事業部間の垣根を越えるコミュニティーづくりにも活用している。
注目したいのは、部活動やコミュニティーは「制度があるからやる」のではなく、社員から自然発生的に生まれていることだ。
「こんな制度をつくろうと私から指示したことは一度もありません。人事部門が働く環境づくりのサポートをよく考えてくれて、フルリモートワークで、しかもフレックスの働き方が実現しています。
リモートワークだからと言って、組織がフィットさせるべき特別な事情は多くない。住宅手当や通勤手当がなく、社員1人当たりにかけるマネジメントのリソースを増やすこと以外は、一般的な企業と組織構造は大差ありません」(中川氏)
人事評価や報酬は、社員の約7割が生産性と連動し、優先順位を設定するタスク管理を採用。明確な数字に基づいてロジカルに決まる。残りの3割は、販売管理担当の社員が対象で、目標を設定し、実績は点数で定量化される。
「目標設定は、全社戦略に対する事業部戦略、さらにその中での部門戦略に基づくため非常にファジーなので、クリアできる目標を立てることがマネジャーの腕の見せどころです。できない目標を立てるマネジャーは優秀ではないし、その部門の社員は苦労することになります」(中川氏)
ミッションやバリューを共有する「パーパス経営」が重視される今、リモートワークで物理的な距離感を余儀なくされる社員に、どんなアプローチをしているのだろうか。
「結論として、何もしていません。なぜかと言えばとてもシンプルな話で、ミッションは会社における行動基準であり、リモートワークで働く人が、適正な報酬水準以上で安定的に働ける環境を増やしていくことだからです。それが『売り上げ増を目指す』ことに変換され、そのために何をするかは、おのずとあらゆる部門に浸透していきます」(中川氏)
【図表】キャスターとは
出所 : キャスター提供資料よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
15年後の2040年には1100万人の労働人口が消える
コロナ禍が収束し、出社(オフラインワーク)へ戻そうとする企業の動きがあるが、2023年度の日本企業のテレワーク導入率(総務省通信利用動向調査)は約50%を占める。キャスターも独自に「労働バイアス」「働き方」を調査・研究するラボ「Alternative Work Lab」を設立し、リモートワークの実施率について多様なオープンデータを収集・分析しているという。
「新しい働き方はリモートワークに限らず、さまざまなバリエーションが生まれています。変わらない企業は生き残れませんし、10年後に後悔したくないなら、今変えるしかありません。
働く人にとって、オフラインワークで皆が同じ時間に同じ場所へ集まる価値は何でしょうか。日本や先進国で価値があるのは、工場など大型設備がある場合のみで、それ以外に価値はないことに反論できる方は恐らくいないと思います」(中川氏)
もう1つ、大きな課題が目の前にあると中川氏は指摘する。統計上、必要労働人口(労働力)と就業人口の差について、2024年現在は乖離が数万人程度だが、今後30年近く加速し続け、2040年には早くも1100万人が足りなくなるという(リクルートワークス研究所「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」2023年3月)。
「1100万人足りなくなるということは、2024年の近畿地方全域の労働人口がいなくなることに相当します。それが現実になるまであと15年しかなく、しかもどこから消えるかと言えば、医療や介護、生活インフラ分野などのエッセンシャルワーカーから始まります。都市機能がまひする可能性すらある状態に向かう中で社会を動かし続けるには、リモートワークで働く人が増えて、生産性を上げていくしかありません。それが最大の課題であり、必ず訪れる未来なのに、分かっていない人が圧倒的に多い。
言い方を選ばずに言えば、1社だけで働いたり、毎日通勤したり、労働バイアスの不思議なルールに縛られている場合ではないのです」(中川氏)
エッセンシャルワーカーをはじめとして、 現在よりもさらに労働人口が減少する事業領域の社会課題をいかにスムーズに解決できるか。キャスターが見据えるのは、リモートワークの標準規格(プラットフォーム)を提供して従事する人を増やすことで、最低でも2倍の生産性に働き方を変えていくことだ。
「新たな領域でも、フルリモートワークの仕組みを当社の技術と考え方で先行的に示し、イニシアチブを取っていくところです。今後はダブルワークで生産性を高め、価値を創出するために、何をどう変えていくかという議論にシフトしていきます。とても重要なのは、理想的な未来を語るふわっとしたグッドアイデアではなく、目の前にある課題を具体的かつ現実的に解決することです」(中川氏)
キャスター 代表取締役 中川 祥太氏
COLUMN
完全出社かフルリモートか、二択の決断をフルリモートワークのロールモデルとして、中川氏に企業へのアドバイスを求めた。
「自社のビジネス戦略を俯瞰し、どのような優位性があるかフラットな目線で見極めることが大切です。最も大切なポイントは、全員出社のオフラインワークか、フルリモートワークかの二択で考えること。出社とリモートワークが混在するハイブリッドの働き方はお勧めしません。組織がバラバラになってしまいます」(中川氏)
理由は明快だ。ハイブリッドワークでは社員のコミュニケーションや情報量が不公平になりやすい。公平な環境下にあることが、協議や意思決定、その先の行動にはとても重要になる。
「トライアルで始めたいなら、リモートワークを福利厚生の範囲に限定した方が良いでしょう。いずれにしても、リモートワークの方針を固めて、経営や人事制度の重要アジェンダの最上段の意思決定として、動かしていくのがベストです」(中川氏)
(株)キャスター
- 所在地 : 東京都千代田区大手町1-5-1 大手町ファーストスクエア ウエストタワー1・2階 LIFORK大手町 R06
- 設立 : 2014年
- 代表者 : 代表取締役 中川 祥太
- 売上高 : 41億7900万円(2023年8月期)
- 従業員数 : 828名(2024年5月現在)