創業100年を超える老舗企業でありながら、スタートアップさながらの改革を推進しているナカリ。組織活性部を中心に、「働き方開拓」と銘打ち、時代に合わせて社員が働きやすい仕組みを整えている。
どの現場も「自分事」と感じられる心を
ナカリは、主食用から加工用まで、あらゆる種類の国産米を取り扱うオールライスメーカー®である。創業の地・宮城県加美町(旧・中新田町)に根を張り、地元産を中心とした良質な米を全国に届けることで、地域の発展に尽くしている。創業者・中村利三郎氏から4代にわたり質素堅実の経営を貫き、盤石な基盤を築いてきた。 しかし、家族経営の企業において、経営者と社員の目的意識を一致させていくことは、決して容易なことではない。同社の執行役員統括本部長で、組織活性部の中心メンバーでもある星忠吉氏によると、同社も2008年ごろまでは「文鎮型組織」と指摘されるほど封建的な組織だったという。 「当社は3代目まで、ハード面の投資やグループ会社の立ち上げに注力し、成長・発展してきました。一方、『家業』という感覚が強く、社員一人一人がナカリという会社を『企業』として客観的に分析する機会はありませんでした。そこで、4代目である代表取締役社長の中村信一郎に世代交代するタイミングから、ソフト面での改革が本格的に始まったのです」(星氏) 2009年、中村氏が初めに着手したのは、次世代幹部育成プログラム「ジュニアボード」の実施だった。このジュニアボードでは、星氏を含む20歳代から30歳代の若手リーダー候補9名が、1年間かけて自社のビジネス環境や政治・経済の動向、強み・弱みなどを多角的に分析。一人一人が将来の経営幹部としての役割を自覚し、具体的なアクションプランを作成した。 翌2010年には、ジュニアボードで浮かび上がった課題を解決していくために「組織活性部」を発足。メンバーそれぞれが業務の合間を縫って月1回の定例会議を重ね、社員の意識改革につながる取り組みを次々と試みていった。 「最初は何から始めれば良いのか分からず、手探り状態でのスタートでした。ジュニアボードで学んだ内容をボトムアップで現場に共有したり、社内アンケートを実施してみたり、さまざまな資料を作成したり……。しかし、当時は『仕事以外のことはするな』と反発する上司が多く、改革は思うように進みませんでした」(星氏) しかし、「この壁を乗り越えなければ」と心に決めていた星氏ら組織活性部のメンバーは、粘り強く改善の道を探り続けた。特に課題として感じていたのは、各現場の間に存在する厚い壁である。 「私たちが扱う商品は、複数の工場でいくつもの工程を経て、ようやく出荷できるものです。始点から終点まで、どのプロセスにおいても同じように高い意識で製造管理を行わなければ、最終工程でそのしわ寄せが生じ、結果としてお客さまからのクレームが増えてしまいます。 そのため、組織活性部では、社員一人一人が各現場の役割や責任の所在を理解し、自分の立ち位置や到達すべき目標を自覚した上で、皆で同じ方向を目指して『共走』できるように、組織づくりを進めていきました」と星氏は当時を振り返る。 中には改革の途上で会社を離れていった社員もいたが、「常にやるべきことを共有でき、one for all, all for one(ひとりが皆のために、皆がひとりのために)で行動できる組織」を目指して、ブレることなく施策を実行したのである。 ある時、ナカリブランドの価値向上に向けて、丸2日間業務を停止し、全社員で徹底的に工場を清掃したところ、社内の空気が一変したという。 「役職も部門も年齢も関係なく、全員で一生懸命に工場をピカピカにしたら、すがすがしい達成感で心がつながったのです。清掃の効果をあらためて実感し、今は年に5回「5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)の日」を設けて、全社を挙げて取り組んでいます。その後も、社内のコミュニケーションが活発になるよう地道に取り組む中、どの現場で起きていることも全て『自分事』として考える風土が、少しずつ醸成されていきました」と星氏は語る。
ナカリ 代表取締役社長 中村 信一郎氏(上)、執行役員 統括本部長 星 忠吉氏(下)
星氏と組織活性部のメンバーは、各現場の役割を明確化し、目的達成までのストーリーを共有することで製造効率を高め、社員に全社視点を広めていった
遊ぶために、家族のために休もう
組織活性部が解決に向けて取り組んできたもう1つの課題は、「有給休暇の取りづらさ」だ。制度としては用意されていたが、以前の現場には「自己都合で3連休を取るのは御法度」という暗黙のルールがあった。 組織活性部は、中村氏の「組織づくりのために、やれることは全部やろう!」という強い思いを追い風に、途絶えてしまっていた社員旅行の復活を企画。2017年から毎年、会社の全額負担による社員旅行(行き先はグアム・国内を選択可能)が決定した。2023年の創業100周年の節目には、ハワイ旅行も実現している。 こうした中で、「全社員で旅行に参加する」という目的に向かって多能工化への挑戦がスタート。それぞれが自分の担当業務に加えて他の社員の仕事も覚え、互いに代行できる体制を整備していった。 社員旅行をモチベーションにして多能工化を実現したことにより、組織活性部のメンバーが発足当初から目指してきた「社員が喜ぶ、社員が幸せになれる会社を実現していこう」というビジョンは、社内に広く浸透し始めた。このプロジェクトが功を奏し、同社では政府の「働き方改革関連法」の施行に先立ち、余暇や家族のために気軽に有給休暇を使えるようになった。 また、稼働率の向上によって残業時間が減少。製造効率は飛躍的に向上した。現場の社員からは「仲間に甘えさせてもらうこともあるけれど、その分、他のメンバーが休みの時はカバーしたいと自然に思える」「自分のためでなく誰かのためにという気持ちを会社で学ぶことができた。仕事をするなら仲良く楽しくという気持ちは、仕事をする上で大切にしている」という声も上がっている。 「私たちの世代は、『人に頼ってはいけない』『できないと言ってはいけない』『もっと頑張りなさい』という教育を幼い頃から受けてきました。しかし、自分が幸せでなければ、人に思いやりを持つということは非常に難しいと思います。私たちが考える“いい会社”とは、一言で言えば“身内を入れたくなる会社”です。人生の中でも、会社は特に長い時間を過ごす場所。だからこそ、時代に合わせて自分たちが幸せになれる仕組みを整えていこう。それがナカリの『働き方開拓』なのです」(星氏)
創業100周年の社員旅行は、海外(ハワイ)と国内(京阪神)の2組に分かれ、日程をずらして全社員が参加
仮説を立て、学びと自社の接点を探る
ナカリが本社を構える宮城県加美町の高齢化率は39.3%(宮城県「高齢者人口調査結果(令和6年)」2024年3月31日現在)。同社では、「これからも地域に根差して、顧客から一番に声がかかる『ファーストコールカンパニー』を目指していくには、多様な働き方のモデルケースをつくっていくことが大切」との考えから、シニアの再就職を積極的に受け入れている。中には、70歳で新たに入社し、活躍している社員もいるという。 また、職場の誰かが子育てや介護の都合で帰宅する際には、他の社員がひと声かけて笑顔で送り出すなど、世代を超えて支え合い、安心して働ける職場づくりを進めている。 「ランチタイムには、10歳代から60歳代までの社員が3、4人のグループに分かれて楽しく学び合う『木鶏会』を任意参加で定期的に開催しています。人間学を学ぶ月刊誌『到知』(致知出版社)をテキストに課題記事の感想文を書き、持ち回りで発表するのですが、『美点凝視』と言って良いところを伝え合うことにより、共感的なコミュニケーションが広がっています。互いの価値観や人となり、いま抱えている課題などを理解し合う場にもなっていますね」(星氏) 組織活性部を中心とするナカリの取り組みは、中村氏が外部研修へ次世代リーダーを積極的に送り出し、参加した社員が異業種の人たちと交流する中で得た知見を現場の状況に合わせてアレンジして、丁寧に落とし込んできたものに他ならない。 「セミナーや研修の内容を、そのまま自社に当てはめられることは、まずありません。外部環境や内部環境が変われば課題も変わります。それを見逃さず、解決に向けた仮説を立てた上で、自社との接点を探るために研修に参加する。そのような学びのサイクルを大切にしています」と話す星氏。14年間、組織活性部の活動を続けてきた最大の成果は、今なお一緒に活動してくれる有志が何人もいることだと感謝の思いをかみしめる。 「会社は、社員の幸せのためにある。それが経営者を含めたステークホルダーの幸せにつながる」(ナカリ語録065)という信念の下、同社は互いの喜びや課題を自分事と捉え、新しい働き方を「開拓」し続ける方針だ。
働く環境の“体温”を上げる方法をビジュアルで表現(左)、100年史(中央)、ナカリ語録「伝えたい100の言葉」(右)
ナカリ (株)
- 所在地 : 宮城県加美郡加美町羽場字山鳥川原9-28-4
- 創業 : 1923年
- 代表者 : 代表取締役社長 中村 信一郎
- 売上高 : 150億円(グループ計、2024年7月期)
- 従業員数 : 150名(グループ計、2024年7月現在)