山形県・高畠町の屋内遊戯場「もっくる」。遊戯場の88%に町産材の杉を使用している
「働く」「学ぶ」「集う」に関わる空間と人に活力を提供し、働き方・学び方の変革や街づくりによって、人・社会・企業・学び・地域のサステナビリティ活動に貢献するパワープレイス。伝えたい「物語」が五感で感じ取れるような空間を、クライアントと共創している。
2003年に内田洋行のグループ会社として分社独立したパワープレイスは、オフィスや学校、公共施設などをエンパワー※する空間デザインと、サステナブルな運用を得意とするデザイナー集団である。
中でも特筆すべきソリューションは、地域の木材をフルに活用した「ソーシャルデザイン」だ。これまで企業や自治体にとってハードルの高かった地域産材の調達・製材・加工・施工を一気通貫でコーディネートし、施工後の末永い運用まで見据えて、施主のビジョンを未来へ継承する空間デザインを行っている。
木材流通を再設計する「タニチシステム」
日本では、戦後復興期から高度経済成長期にかけて木材需要が増加し続けてきたが、その大半を満たしてきたのは輸入材である。1964年に木材輸入が全面自由化されると、木材自給率はさらに激減。林業の採算性は著しく悪化し、林業従事者数は40年間、減少の一途をたどっている。「地域を元気に」という思いでデザイン活動を行うパワープレイスでは、創業当初から地域産材の有効活用の仕組みを模索してきた。
地域産材が十分に活用されていない背景について、同社のウッドデザイナー・谷知大輔氏は次のように語る。
「従来の木材流通はツリー型の重層下請構造で成り立っており、上から下への一方通行で『伐採して、製材・加工して、納品したら終わり』でした。そこには『次の森をいかに作るか』という視点が抜け落ちています。木は一朝一夕に育つものではありません。生産者は50年先、100年先を見据えて育てています。そこで私は、できる限り地域で育てた木を地域で加工し、地域で使えるよう、案件ごとに人と人をつなぎ、木材流通を個別にデザインしているのです」
これは、森林の現場と施工の現場を共通言語でつなげられる谷知氏だからこそなせる技と言っても過言ではない。「タニチシステム」と名付けられたこの木材流通マネジメントは、2019年に、山形県・高畠町の図書館と屋内遊戯場の設計プロジェクトから本格スタートした。
地元の生産者や製材・加工業者に少しでも多くの利益が還元されるように、谷知氏は施主である高畠町と工期や材料を細かく調整。図書館の99%、屋内遊戯場の88%に町産材の杉を使用することに成功した。図書館と屋内遊戯場は、高畠町が目指す「持続可能な『しあわせ』な未来」というビジョンを象徴する空間となり、作り手と使い手の双方に喜びが広がっているという。
こうした新しい木材流通の在り方は、日本全国に存在する社有林や公有林のサステナブルな活用、林業の再興につながる仕組み(【図表】)として、産官学民のあらゆる方面から注目を集めている。
【図表】循環型社会の再生に向けたパワープレイスの国産材活用
出所 : パワープレイス提供図表よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
「林業は50年先、100年先の未来のために行われている尊い営みだと思います。世界に誇る日本の豊かな森林を守っていくには、その価値をきちんと伝えて、次の森をつくるアクションまでデザインしていくことが大切です。木の利用者を『消費者』ではなく『共創者』と捉え、長期的なまなざしで『循環型社会』を提案していけたら」(谷知氏)
パワープレイスの代表取締役社長・前田昌利氏は、次のように話す。
「ソーシャルなつながりの創出は、創業以来、多様性と共創を大切にしてきた当社が最も得意とするところです。民間・教育・文教・社会・自治体・地域という幅広いマーケットで、1つずつの案件を『唯一無二の物語』として紡ぎ、お客さまとともに共感価値を生み出したいと考えています」
「安全への思い」を未来へと継承する東京建設PMOのオフィス:JR東日本撮影協力
「安全」を意識付けるオフィス設計
2021年、パワープレイスは、JR東日本グループで駅や鉄道施設の保守・新設・改良を担っている東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(以降、東京建設PMO)に、新オフィス設計を提案。先人の思いを感じ、企業ビジョンを未来に伝えるデザインとして、同グループの鉄道林の木をふんだんに活用し、オフィスのどこにいても、鉄道事業の根幹にある「安全」への強い思いを感じられる空間を実現した。また、社内や地域とのでコミュニケーションが活性化する仕掛けや、生産性を向上させる工夫を随所に散りばめ、「働き方改革」にも役立てている。
このオフィスの設計を手掛けた、パワープレイスの教育公共ソーシャルデザイン部担当部長で一級建築士の小林健一氏は、次のように語る。
「未来に向けて新しい価値を生み出したいという要望を踏まえ、『変わらぬ価値と変わる価値』をデザインのコンセプトに据えました。鉄道にとって変わらぬ価値とは『究極の安全』です。そう考えた時、以前、JR九州のプロジェクトを担当していた頃に大分支社の支社長から聞いた『鉄道林』のことを思い出しました。
鉄道林は、豪雪地域の安全運行を守るため、JR東日本が維持・管理しています。しかし、寿命を迎えて伐採された木は、バイオマス燃料やチップとして活用されるのみで、主に首都圏で働く東京建設PMOの皆さまにとっては身近な存在ではありませんでした。そこで、ぜひ光を当てたいと思ったのです」
鉄道林は本来、風雪を防ぐ「壁」として植樹された木々のため、節が多く、サイズも不ぞろいだ。建材として活用するには何重にも工夫が必要で、施主や製材所・加工業者からも理解と協力を得なければならない。
そこで、林学の知見と現場経験が豊富で、全国に林業関係者とのネットワークを持つ谷知氏がプロジェクトに参加。木の特性を踏まえながら、部位ごとの需給量を小林氏ときめ細かく検討し、適材適所に使い切れるよう、工期と材料の調整を重ねた。
また、鉄道林の木材を活用するだけでなく、新しいオフィス空間をどのように活用すれば、東京建設PMOの社員・鉄道利用者・鉄道林の維持管理者とのつながりが深まり、「安全への思い」を広く共有していけるかという視点で検討を重ねていった。
そうして2022年に完成した新オフィスは、日常的に目に触れ、手で触れるテーブルやベンチに鉄道林の木が使われた温もりある空間となった。また、パワープレイス社内で展示コンテンツ制作を得意とするチームや、グラフィック・ICT構築を手掛けるチームとも連携し、事故から学ぶ展示室や歴史展示コーナー、最新の情報を発信できるデジタル展示「Energy Wall(エナジーウォール)」などを設置。オフィスのどこに居ても安全への思いが感じられ、オフィスそのものが同社のビジョンを象徴する空間へと生まれ変わった。
鉄道林を使用した社員食堂(左):JR東日本撮影協力。オリジナルの焼き印を作り、鉄道林の木材を使用した家具に刻印(右)
オフィスは経営を表現する場
「変わる価値」という観点では、働き方改革に焦点を当て、各フロアを回遊できる動線をつくり、フリーアドレス制とした。役職や部署の壁を越えて声を掛けやすくなった上に、働き方の自由度が上がり、生産性が向上したとの声が上がっているという。
さらには、使用した木材が鉄道林であることを示すオリジナルの焼き印を作製し、東京建設PMOの社員に刻印してもらうイベントも実施。この焼き印は、鉄道林の端材でコースターを作るワークショップなど、地域市民と交流を深めるイベントでも活用されている。
「国産材を使って終わりではなく、多様なつながりを創出し、社会への視野が広がるようなソーシャルデザインを実現することが、当社の使命です。本プロジェクトを通じて、鉄道林を維持管理する方々のモチベーションが向上したり、鉄道好きの子どもたちが森林の循環活用について関心を持ったりするきっかけになれば、本当にうれしいです」(小林氏)
オフィスとは、単に社員が集まって業務を行う場所ではない。自社の経営を表現する場であり、そこに集う人々が新たな価値を生み出す場でもある。自社を「在るべき姿」に変えていくオフィスはどんな形か、ぜひ考えていただきたい。
※ 本来の能力を開花させ、自分が置かれた環境や状況を主体的・自律的に改革する行動を引き出す支援
左から、パワープレイス 教育公共ソーシャルデザイン部 ウッドデザイナー 谷知 大輔氏、代表取締役社長 前田 昌利氏、教育公共ソーシャルデザイン部 担当部長 一級建築士 小林 健一氏
パワープレイス(株)
- 所在地 : 東京都中央区新川2-4-7
- 設立 : 2003年
- 代表者 : 代表取締役社長 前田 昌利
- 売上高 : 13億2000万円(2023年7月期)
- 従業員数 : 83名(2023年7月現在)