食品工場やオーダーメイド型倉庫の建設で業界をリードする中堅ゼネコンの三和建設は、ここ10年余りで7社のM&Aを実施。事業の専門化・高度化を進めると同時に、幹部人材のさらなる成長につなげている。
総花的な事業スタイルから脱却し重点分野に集中
三和建設は大阪府大阪市に本社を置く総合建設会社だ。創業は1947年。創業以来、企業の生産・物流施設、マンション、商業施設といった建設工事や官公庁の土木工事など幅広い分野の工事を手掛ける中堅ゼネコンとして成長を遂げてきた。
建設プロジェクトの元請けだけでなく、下請け工事や戸建住宅の建築も引き受ける全方向の経営スタイルで事業を広げてきた同社だが、ここ十数年は独自技術を用いた賃貸集合住宅設計・建築「エスアイ®200」、食品工場に対するトータルソリューション事業「FACTAS®(ファクタス)」、完全オーダーメイドの専用倉庫の設計施工を行う「RiSOKO®(リソウコ)」をブランド化するなど、他社と差別化を図るブランド戦略を積極的に展開。総花的な経営スタイルから脱却し、事業領域を絞って重点分野に集中する戦略へ大きくかじを切ったのが、2008年に代表取締役社長に就任した森本尚孝氏だ。
「顧客に選ばれ続けるには、どこの建設会社でもできる工事ではなく、自社にしかできない分野に重点を置くべきだと考えました。当社では、食品工場と集合住宅、特殊倉庫を3大強化分野と位置付けて競争力を高めていくブランド戦略を採っています」(森本氏)
「人を大事にする」「こだわりを持つ」企業を重視
個性を磨く。これはM&Aにも共通する考え方だ。同社は2014年の小川電設を皮切りに2017年にはソークエンジニアリング、2020年にコアー建築工房とAgec、2022年に潮設備コンサルタントと森塗装工業、2023年に三共空調を三和グループに迎え入れた。
7社とも株式を100%取得する形でグループに迎えている。いずれも本業である建設業に関連する事業内容であるが、それだけでなく、特定の分野で高い専門性を持っていたり、事業にこだわりが感じられたりする企業が並ぶ。
その意図について森本氏は、「三和建設の事業の何らかのプロセス強化になる企業であること。営業や仕入れ、技術も含め、本業である建設業に関連する企業との連携を前提にM&Aを進めてきました」と説明する。
例えば、2014年に提携した小川電設(兵庫県尼崎市)は創業から電気工事を生業としてきたが、事業所向けに電気・制御・計装工事に加えてプラント・通信の企画提案、設計、施工、メンテナンスまで一貫体制で提供するワンストップサービスを得意とする。こうした戦略は、顧客ニーズのヒアリングから提案、設計、施工までを担う三和建設の設計施工一貫方式に通じる。
あるいは、2020年にグループ入りしたコアー建築工房(大阪府堺市)は、自然素材を用いた注文住宅を手掛ける工務店として、地域の景観や環境に配慮した家づくりにこだわっている。これも、重点分野に事業を絞り込んだブランド戦略を採る三和建設と共通する。
「コアー建築工房はBtoCのビジネスモデルですが、顧客を絞って事業展開されているなど考え方が似ていて親和性があります。また、国は非住宅の木質・木造建築を推進しているところですから、この先、技術面でも三和建設に取り入れていく部分が多くあると考えています。事業にこだわりを持ち、それを戦略に掲げて実践している会社や、今後そのような形になっていく姿が想像できるような会社こそ、グループとして一緒にやっていきたい会社です」(森本氏)
M&Aにおいては、第一に買収先の事業が三和建設の事業領域と重なること。つまり、三和建設が買う意味のある会社であることが重要だが、同時に「買収される側の企業にとっても三和グループに入る意味があることが大事」だと森本氏は言う。そのためM&Aを検討するに当たっては、戦略もさることながら経営者の価値観や考え方を森本氏は重視する。中でも大切にしているのが、人に対する考え方だ。
「価値観で言えば、最も重視しているのが何らかの形で人を大事にしている会社であること。人を大事にすると言ってもさまざまな考え方がありますし、手法も違いますが、入り口の時点で人を大事にしていると感じられる会社であることは譲れない条件です」と森本氏は強調する。
【図表】三和建設グループ会社
出所 : 各社コーポレートサイトなどを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
幹部人材が“社長”へ育つM&Aとは
森本氏が繰り返し口にするのが「人を大事にする」という言葉である。そもそも三和建設の経営理念は「つくるひとをつくる」。建物や顧客、技術や信頼などを「つくる」のは社員であり、そうした社員を「つくる」という意思の込められた理念だ。理念を実現するため、同社では「ひと本位主義」の経営を実践し、社員とその家族を何よりも大事にすることをうたっている。
この考え方は資本・業務提携においても変わらない。提携後のグループ会社としての発展や社員の働きがいについても十分に検討した上でM&Aを決断するのはもちろんのこと、三和建設の社内大学「SANWAアカデミー」を活用したグループ一体化の取り組みも進めている。
「ビジネスにおいて最も重要なのは人材です。M&Aで提携した7社を含めた三和グループ体制となったことで人材の幅は大きく広がりました。非連続的な広がりが生まれて面白いですし、1社だけやっていたときとは違う景色が見えています」(森本氏)
中でもメリットを感じているのが幹部人材の成長だ。「M&Aで仲間入りした会社のいくつかに三和建設から社長を派遣していますが、みんな社長らしくなってきました」と森本氏は目を細める。月1回のグループ会議で方針などの擦り合わせや情報共有は行うものの、グループ各社の経営については基本的に社長に一任しているという。社長にはその会社の全てを理解した上での判断が求められ、経営者としての目線や判断力が鍛えられる。その経験は何物にも代えがたい。
また、幹部人材を経営者として育てるだけでなく、幹部をグループ各社へ派遣したことで空席となったポストに新たな人材を登用し、次の幹部人材が成長する流れも生まれている。
人材の流動化がもたらす社員の成長に加えてもう1つ、森本氏がM&Aの大きなメリットとして挙げるのが、ビジネスチャンスの拡大だ。互いの顧客を紹介し合ったり、事業領域から外れるオファーに対してグループ企業へと橋渡ししたりすることが可能となった。
「三和建設は重点分野に絞った戦略を採っているため、対象外の依頼についてはお断りしなくてはならないケースもありました。しかし、グループ会社が増えたことで、適任の会社を紹介したり、グループ内で専門性の高い会社に役割分担したりできるようになりました」(森本氏)
例えば、かつては個人向けの一戸建て住宅の建設も手掛けていた同社だが、一時は戦略転換によって断らざるを得なかった。それが現在は、注文住宅を得意とするコアー建築工房につなげることができるようになった。また、コンストラクション・マネジメント(CM)※を手掛けるAgecを買収したことで、自社重点分野以外の依頼についてもCMの活用を提案したり、建設プロジェクトを抱える顧客にCMを提案したりと、新たなビジネスにつながっている。
100年企業に向け個性豊かな企業グループへ
設備工事や塗装、注文住宅、CMまで、バラエティーに富んだ企業がグループに加わる中、これからの課題となるのが、いかにグループをまとめてシナジーを発揮し、事業拡大を図っていくかだ。だが、性急な事業拡大に対して「M&Aに関しては一段落した」と森本氏は慎重な姿勢をとる。
「M&Aの目的の1つは幹部人材を流動化させること。M&Aで7社が加わり、グループ8社体制となったことで、ある程度の流動化は進んだと考えています。これ以上動かすと本体の人材が不足する懸念もあり、その意味でほぼキャパシティーに達していると感じています。もちろん検討は続けていきますが、バランスシートの観点からも、これまでのようなペースでの買収は一段落したと捉えています」(森本氏)
現在はグループのシナジーを発揮するため「シェアードサービス化も含めたPMI(M&A成立後の経営統合プロセス)を、タナベコンサルティングと一緒に取り組んでいる」(森本氏)段階であり、採用や業務効率化において目に見える成果が上がり始めている。
一方、興味深いのは、企業文化や事業領域に関しては各社の個性を残す方針を明確に打ち出している点である。
「三和グループに入ったからといって、企業文化や事業分野を三和建設一色に染めようとは考えていません。その会社『らしさ』の追求が非常に重要であると考えています。当社が重点分野を絞るブランド戦略を採っているように、グループ企業の良い意味での『らしさ』を残していきたいですし、伸ばしていってほしいと考えています。各社が個性豊かな、忘れられない企業でありながら、よく見ると共通するバックボーンや価値観を持っている。そんなグループを目指しています」(森本氏)
個性を大事にする。その理由を森本氏は「その方が面白いから」と即答する。これは社員一人一人の個性を伸ばす同社の人づくりにも通じる考え方である。各社の個性や主体性を伸ばしながら、同じグループの企業として真摯に顧客と向き合う姿勢や体制を整えていく。100年企業となるべく、三和グループはより広く、より深く、顧客価値の実現に向けて進化を続ける。
※建設プロジェクトの事業構想・企画・計画から設計・発注・施工・維持管理までの各段階で、プロジェクト運営、品質管理、コスト管理、スケジュール管理などのマネジメント業務を行うこと
三和建設 代表取締役社長 森本 尚孝氏
三和建設(株)
- 所在地 : 大阪府大阪市淀川区木川西2-2-5
- 創業 : 1947年
- 代表者 : 代表取締役社長 森本 尚孝
- 売上高 : 168億円(2023年9月期)
- 従業員数 : 197名(2024年4月現在)