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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2024.03.01

経営とは「雇用を守り、社員の成長を支援する」こと 日本レーザー

日本レーザー 代表取締役会長 近藤 宣之氏
四半世紀にわたり赤字を繰り返す苦境を、親会社からのMEBO※1による独立で脱却した日本レーザー。海外メーカーのレーザー製品を輸入販売するビジネスモデルで、30年連続の黒字を実現した。優良経営を未来にも持続する成功の鍵は、トップが変わり、社員が活性化する「人を大切にする」経営にあった。
   
モチベーション向上とMEBO、2つの転機
  倒産寸前の赤字企業から、長期安定の黒字経営へ。レーザー発明の草創期からの専門商社・日本レーザーが、変貌を遂げる転機は2度あった。最初は1994年、現代表取締役会長の近藤宣之氏が50歳で社長に就任した時だ。   「1億8000万円の債務超過で金融機関に見放され、清算も見越した再建へ、電子顕微鏡のトップメーカーで当時の親会社だった日本電子で最年少役員の私に出向の命が下りました」(近藤氏)   労働組合執行委員長や10年近い米国勤務で現地社員の解雇を経験した近藤氏は、赤字が続く原因を「モチベーションの欠如」と見抜いた。歴代社長は全員出向で、人事評価や制度も親会社のスキームのままだった。社員に発した第一声で「誰一人、クビにはしない」と雇用を守ることを宣言。モチベーションを大切にする社内管理体制へと一新していった。   「プロパー社員は経営に携わるチャンスがありませんでした。英語での交渉など個々のコミュニケーションスキルが大きく問われる輸入商社に、メーカーの制度や評価が合わないのは当然です。モチベーションが高まる要素は皆無でした。そこで、住宅・家族手当を廃止して共通の基礎手当にし、インセンティブを導入。年齢や家庭環境に関係なく、能力と努力の成果を『貢献主義』で評価し、賃金水準を一致させて可視化し、透明・納得性の高いものに変えました」(近藤氏)   モチベーション向上の改革は、すぐに成果として表れた。社長就任初年度から2000万円の黒字化を達成し、自らも親会社の役員を退任して退路を断つ覚悟を示した。   だが、社員旅行にさえ親会社の承認が必要など、経営の自由度は低いまま。また、近藤氏が定年を迎えて社長を退任すると、再び親会社から社長が出向し、元通りの姿に戻ってしまう懸念も残っていた。   時計の針を戻さないためには「親会社から独立する自主経営の確立しかない」。そう考えた近藤氏は、IPO(株式上場)やM&A、MBOなどの選択肢を検討。最終的に決断したのは、日本初のMEBOだった。未来にも成長し続ける経営の実現と継承へ、存亡を懸けた第2の転機である。   2007年に受け皿となる新会社JLCホールディングスを設立。親会社から株式額面の6倍、個人株主から3倍の価格で株式を取得。役員が約40%、社員株主は32%の持ち株比率で新たなスタートを切った。   「役員だけが出資するMBOではなく、社員との共同出資で株式を買い取り全社一丸で独立を果たしました。前例のない挑戦でしたが、出資を募ると全社員が承諾してくれて、合計額は予定の4倍になりました。私も銀行から1億5000万円の借入金を個人保証しました。失敗すれば自己破産する崖っぷちでしたが、社員一人一人が『自分の会社だ』と当事者意識を強く持つようになりました。モチベーションがさらに高まって最大限の力を発揮し、成長が一気に加速しました」(近藤氏)   社員を変えようとする経営者は多いが、まずトップ自身が変わることの大切さを、歴史が物語っている。     日本レーザーでは管理職・幹部の3割が女性。多くの女性社員が活躍している  
社員の「大切にされている」実感が重要
  自主自立の経営に移行して17年、売上高は6倍、従業員数は2倍、生産性も3倍に成長を遂げてきた。社員は入社2年目から出資資格を得て、最低出資額は25万円で元本保証。高収益による10%の配当は10年間で元が取れる計算だ。社員持ち株比率は40%に増大し、資本金は6000万円に増額。自己資本比率は60%近くに高まり、実質無借金経営を続ける。   「私の持ち株比率は14.9%なので、ガバナンス上、常に背水の陣の経営です。身勝手な意思決定は、株主総会で3分の1以上の同意を得られませんから。   MEBOは事業承継の資本戦略であるだけでなく、社員の成長を促し優秀な人材の流出を防ぐ仕組みです。人事と財務の充実は持続可能な成長の絶対条件ですが、社長や会社全体への信頼感を醸成できます。モチベーションが高いから株主になってくれるわけで、株主だからモチベーションが上がるわけではありません」(近藤氏)   MEBOはゴールではなく、より良い経営にする理念や風土の企業文化を社員が自らの手でつくるスタートライン。その自覚を促すのが「圧倒的な当事者意識、健全な危機意識、共存共栄し続ける仲間意識」だ。輸入販売総代理店は、商権を1つ失うと数十億円の売上高が消え、為替変動も1円の円安で数万円の利益が霧散するビジネスモデル。いつつぶれてもおかしくないからこそ、意識の共有で持続的な成長・発展が可能になる。   近藤氏は「3つの意識を社員の心に響かせ、養成する手段の1つが、『働き方の契約書』と位置付けているクレドです。年3回、クレドに基づく評価を上司と1on1ミーティングで確認し、自主的に目標を決めて約束します」と話す。毎日読み、週1回は全員で唱和するクレドは「社員の約束」であるとともに「経営の約束」でもある。「社員の成長が会社の成長」「CS(顧客満足度)より先にES(従業員満足度)」など、EFCS(社員第一、顧客第二)を大原則とする経営の在り方を、明確に言語化している。   「経営戦略は机上で描けても、誰が実行するのか。3つの意識を持つモチベーションが高い人材の共同作業です。日本に350万人いる中堅・中小企業の経営者は、ものづくりや研究開発、販売、サービスなど『事業経営』は得意でも、なぜか人事や財務など『企業経営』は他人任せになる。重要なのは、大切にされていると社員が実感する企業文化です」(近藤氏)   国家施策に先駆けて、働き方改革や女性活躍、ワークライフバランスを推進。正社員や嘱託、パートなど、ライフスタイルや年齢に合わせた自由な働き方の選択や雇用延長で生涯雇用を実現し、74歳の新入社員も採用した。キャリアマップも社員の意向が最優先で、一方的な人事発令はなく、管理職の3割を女性が占める。   「利益は雇用を守る手段。だから赤字は良くないですし、利益を上げるためには社員を成長させる投資が不可欠」(近藤氏)と毎年、社員育成に売上高の1%を充当させる。特に、未来のマネジメント人材は外部教育機関に1人当たり数百万円をかけて毎年3人以上の派遣を続ける。   「管理職や経営者がやるべきことは管理や命令ではなく、縁あって入社した人を支援し、チャンスを与えて、仕事を通じて成長させることです。働きやすさも働きがいもある、人を大切にする経営で、面白い仕事ができ、実力・実績に見合う収入が得られれば、優秀な社員は転職しません。離職率は長年、ほぼゼロを維持しています。ダイバーシティーも大事ですね。新卒一括採用は廃止し、経験や年齢、性別、国籍を問わない通年採用で多能な人材が集まっています。社員の成長こそが、企業の成長なのです」(近藤氏)     創立55周年記念式典の様子。社内コミュニケーションの活性化を目的に、懇親会やパーティーなどの社内イベントを頻繁に開催している  
「自分と異なる」人材を後継者に選定
  雇用を守り、社員の成長を促す「人を大切にする」経営で、同社は未来への承継を着実に進めている。50周年を迎えた2018年に近藤氏は会長となり、宇塚達也氏が社長に就任。バトンタッチを内示してから就任までの2年間は、始業前30分に経営哲学を承継する「社長育成塾」を実施した。   副社長や上席常務2人を飛び越えて最年少の常務を選んだ決め手を近藤氏に問うと、「自分と異なる特性」との答えが笑顔とともに返ってきた。   「攻めの経営で乱世の将だった私とは違い、安定期の経営で社員のモチベーションを上げ続けるには、彼のような懐の深さと優しさがあって、頼れる相談相手になれる人がふさわしいと考えました。新社長になって、コロナ禍でも過去最高の増収増益を記録しました。2024年度は新規事業の商権が契約終了し、20億円減収の見通しですが、ピンチやトラブルは進化・成長のチャンス。楽観的に思い切ったかじ取りをと伝えています」(近藤氏)   さらに目指すのは、トップダウンではなく自立した社員が創造的に活動し互いに連携する、経営の「自己組織化」だ。社員73名には73通りの雇用と成長があり、達成感や満足度につながる向き合い方があると考える近藤氏。一人一人のエネルギーを正しく活性化し、組織の可能性を最大限に引き出すために、独自のアルゴリズム理論を社員の成長支援や後継者選びに実践してきた。   「蓄積してきた内部留保が会社の資産になることを、特にファミリー企業がどう考えるか。また、経営が順調なら、企業文化を変えてまで社員が株式を持つ覚悟を持てるかどうか。問われるのは、より良い選択で人を生かし続ける『不易流行』です。   当社は倒産の危機から国内外の経営を学んでブレンドし、進化させて国内唯一のコーオウンド経営※2を確立しました。日本では珍しい事例ですが、欧米企業では約1割が実現しています」(近藤氏)   独自の経営を体現し続ける日本レーザーの姿は、今も未来も「経営は、経営者が思った通りになる」という心強いメッセージになる。   ※1 企業の経営陣と従業員が一体となって、外部支援も得ながら、株主から株式などを買収し、経営権を掌握する手法 ※2 従業員が自社の株を所有する経営手法。自社の価値向上に向けて主体的に従業員が行動するなどのメリットが期待できる  

(株)日本レーザー

  • 所在地 : 東京都新宿区西早稲田2-14-1
  • 設立 : 1968年
  • 代表者 : 代表取締役社長 宇塚 達也
  • 売上高 : 62億9400万円(2022年12月期)
  • 従業員数 : 73名(2024年1月現在)