グローウィン・パートナーズ(タナベコンサルティンググループ) 代表取締役CEO 佐野 哲哉氏
タナベコンサルティンググループのグローウィン・パートナーズは、MBOをはじめ多様なスキームを駆使して顧客企業の成長戦略を描き、「攻めの組織」へと変革をもたらす経営承継を実現している。いつか必ず訪れる社長交代の時、真に問われる企業の「継続価値」を最大化するポイントを聞いた。
経営理念を「永続的」に体現できるか
「経営参謀のプロフェッショナルチーム」として、企業の成長(Growth)と成功(Win)を支援するグローウィン・パートナーズ。代表取締役CEOの佐野哲哉氏を含む公認会計士12名や、経理財務、M&A、ERP、人事などの実務に長けたエキスパートがチームを組み、伴走型の経営コンサルティングサービスを提供している。
2005年の創業以来、同社が強く推奨してきたのは、経営者が交代しても継続的に組織が成長する仕組みの構築だ。
「経営者が高齢になってから、個人としての節税や家族への相続、親族への承継を最優先して事業承継を進めようとするケースは少なくありません。しかし、オーナー経営者は、①個人、②株主、③経営者、という異なる3つの立場があります。例えば、相続税を節税しようとすると、個人としては都合が良くても、株主として最適なメリットが得られるとは限りませんし、経営者の立場から見ると、会社の成長戦略と矛盾してしまう可能性もある。
社長は、どの立場で判断しようとしているのかを自覚することが大切です。役員報酬、役員退職金、譲渡所得、相続税評価額といった今の金銭価値にとらわれず、企業価値の算定に最も大きく影響する『継続価値』の向上に注力する方が、経営者を含めて会社に関わる全ての人たちの幸せにつながると考えています」(佐野氏)
継続価値を最大化する仕組みづくりのポイントについて、「まずは会社と経営者はイコールではなく、独立した別人格であるという認識を持つこと」と、佐野氏は強調する。
「法人には『死』という概念がありません。志を持って事業を営み、経営理念を体現し、あらゆるステークホルダーとの共存・共栄を重視して経営を行えば、企業の継続価値はおのずと高まり、100年先も生き続けることができます。一方、全ての経営者はいつか必ず寿命を迎えます。事業承継は『遠い先の話』と考えがちですが、その時がいつ訪れるのかは誰にも分かりません。極端な話、明日その時が来たら、あなたの会社は存続できますか? その問いに明確に答えられる会社こそ、継続価値の高い会社なのです」(佐野氏)
佐野氏いわく、経営者が企業価値、とりわけ継続価値を向上させるために選択できる成長投資の方法は、「資金を使う」か「資本を使う」かの2つしかない。人材・設備・IT・マーケティングなど連続的な成長を支える投資はもちろん、買収・合併・株式交換を含むM&Aや、増資・株式譲渡・IPO(株式公開)などの資本政策によって非連続的な成長を促すイノベーティブな投資も、時代や環境の変化に応じて実行すべきタイミングがある。
経営者交代時の企業価値は、それまでに、いつ・いかなる成長投資をして、継続価値を高めることができるかによって大きく変動するという。
「企業価値の低さを社会情勢のせいにすることはできません。『何もしてこなかったという歴史』が、会社を潰すことになるのです」(佐野氏)
創業16年目で自社のM&Aを決断
そう語る佐野氏自身、グローウィン・パートナーズの創業当初から常に「承継」の2文字を意識してきた。社名を決める際も、「佐野哲哉公認会計士事務所という名前を付けたら、長くても数十年しか存続できない会社だと公言しているようなもの」と考え、自身の名前は初めから付けなかった。
1992年に大手監査法人に入社し、M&A専門部署の黎明期から在籍していた佐野氏は、当時からM&Aを経営戦略上の重要な一手と捉えていた。国内大手企業のIPO準備や外資系企業の監査を通じて、あらゆる経営管理の現場を見てきた経験から断言できることがあるという。
「エクセレントカンパニーの共通点は、上場・非上場を問わず守りがしっかりしています。当時は『コーポレートガバナンス・コード』(上場企業に対するガイドライン)はまだ存在していませんでしたが、リスク・ガバナンスの考え方が浸透し、バックオフィスなど守りの面も強い会社は、事業も組織も優秀な会社が多く継続価値も高く評価される。その実例を数多く見てきました」(佐野氏)
その後、「経営に直接関わりたい」という思いが膨らんだ佐野氏は、IT革命の旋風が巻き起こった2000年にITベンチャー企業の創業メンバーに加入。設立時からCFO(最高財務責任者)として20億円以上の資金を調達し、財務・経理、総務・法務・人事、情報システム、経営企画など経営全般に携わった。多様なステークホルダーと事業をつくりながら、企業が加速度的に拡大するのを目の当たりにしてきたからこそ、「会社は創業者の志の表れ。オーナー経営者個人のものでも、ましてや家族のものでもない」という思いは強い。
2005年に「自分の思いが詰まった会社を経営したい」と、グローウィン・パートナーズを起業。M&A、バックオフィスDX、HRコンサルティング、ベンチャーキャピタルなど、独立資本で幅広く事業を展開しながら、自身は上場企業の社外取締役(2社)と、TOB(株式公開買い付け)・MBO独立委員会委員(10社)も務めてきた。
承継期より前から企業組織として成長する仕組みを構築し、未来に経営をつなぐための継続的な企業価値向上を目指す「MIRAI承継」のコンセプト。それが生まれた原点は、佐野氏が起業して軌道に乗り始めたころ、余命3カ月の宣告を受けた義父の会社の経営を突然任されることになり、二足のわらじで事業承継に当たった苦い経験にある。
「青天の霹靂でした。まったく畑違いの仕事で、業界も事業内容も十分に理解できていないまま、『親族』という理由で副社長の重責を担うことになってしまった。幸い業績の良い会社だったので、資産を整理したタイミングで私は経営から身を引き、最終的には親族が売却しましたが、トータルで5年ほどかかりました。その出来事をきっかけに、全てのステークホルダーが幸せになれる経営承継を実現するために必要なことは何か、自社の未来を真剣に考えるようになりました」(佐野氏)
そして創業16年目の2021年、佐野氏は単独資本による経営に終止符を打ち、タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)への参画を決断した。まったく接点のなかったTCGへの株式譲渡について、佐野氏は次のように語る。
「『当社に関わる人すべての成長と成功を支援する』という経営理念の承継を第一に考えたとき、単独資本のまま経営を続けることは最適解ではないと判断しました。検討に当たり重視したのは、経営理念と組織文化です。TCGの経営陣との懇談は最初から最後まで経営理念の話が尽きず、心から共感できました。初対面なのに自社のような親和性を感じたのです。理念に強く共感できる会社は、不思議と組織文化も似ているものなのだと思いました」(佐野氏)
TCGに参画した結果、「自分が社長でなくても会社が存続する可能性は飛躍的に高まった」と佐野氏は続ける。
「経営資源の選択肢が圧倒的に増え、さまざまな制約が減りました。非連続的な成長を日々肌で感じています。上場企業グループとしての説明責任が生じたことで、ガバナンスもおのずと強化されましたし、TCGの経営陣との意見交換を通して経営戦略に厚みが出てきました。マーケティングや営業活動では多面的な展開が可能となり、共同営業や人材交流、研修の機会なども広がりました。銀行の連帯保証がなくなり、財政基盤が安定化したことで、社員のためにできることも格段に増えましたね」(佐野氏)
MBO・MEBOの検討を通して組織の体幹を鍛える
TCGの一翼を担い、「MIRAI承継を広く推進していきたい」と語る佐野氏。特に今後、認知度を高めていきたいのは、MBO(役員陣による株式買取)やMEBO※という選択肢だという。
「日本において事業承継問題は、『経営を親族に継ぐか、そうでなければM&Aで会社を売却するか、廃業するしかない』という極端な考え方が広まっています。会社をよく知る役員が共同オーナーになるMBOやMEBOという選択肢をもっと広げたいと考えています。ストラクチャーを工夫することで、役員持ち株会や従業員持ち株会がオーナーから株式を買い取って自らガバナンスを強化していく、といった取り組みも考えられます。上場していなくても、社外取締役を招聘して指名報酬委員会をつくり、議論を経て次世代経営者を育てていく、といったことも可能です」(佐野氏)
経営者は経営理念を追求し、継続的な企業価値の向上に集中する。それによって組織の体幹を鍛え上げれば、未来の経営者が継続的に現れて、新しい事業を紡ぐことができる。
グローウィン・パートナーズは、そのような「MIRAI承継」のサポートにこれからも全力を注いでいく。
※ 企業の経営陣と従業員が一体となって、外部支援も得ながら、株主から株式などを買収し、経営権を掌握する手法
【図表】オーナー経営者が掛け持つ3つの立場
出所 : グローウィン・パートナーズ提供資料を基にタナベコンサルティング作成
グローウィン・パートナーズ(株)(タナベコンサルティンググループ)
- 所在地 : 東京都千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井タワー14F
- 設立 : 2005年
- 代表者 : 代表取締役CEO 佐野 哲哉
- 従業員数 : 84名(2023年7月現在)