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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2023.11.01

社内・社外、両方の視点から見たM&A成功ポイント 三谷康生氏(神姫バス社外取締役)

神姫バス 社外取締役 ワイエムエー 代表取締役社長 三谷 康生氏  
より良いM&Aには、どのような条件が必要なのか? M&A推進のポイントは? 外部アドバイザーとして多くのM&Aを成立させるとともに、企業のM&A責任者として、また社外取締役としての経験も持つ三谷康生氏にM&Aのポイントを聞いた。
  マツキヨ ココカラ&カンパニーによる水平統合型M&A   新規事業への参入、既存事業の拡大など、自社の弱みを補い、強みを最大化できる手法として一般化したM&A。数十年前に比べると、その数や規模は比べものにならないほど増えた。中でも効果が大きいとされるM&A手法が水平統合だ。「勃興⇒成長⇒成熟」のサイクルで、群雄割拠の地方企業が合従連衡していく水平統合のプロセスを経てきた業界として、ドラッグストア業界やDVDレンタル業界が挙げられる。   その両方の業界をはじめ、国内外の上場企業から中堅・中小企業まで多数のM&Aに携わってきたのが、M&Aアドバイザーとして活躍中の三谷康生氏だ。三谷氏は、社外のM&Aアドバイザー、企業所属のM&A責任者、社外取締役など、多様な立場からM&Aを成立させてきた。現在は神姫バスの社外取締役でもある。   ドラッグストアチェーンのココカラファインホールディングス(以降ココカラファインHD、現マツキヨココカラ&カンパニー)は、三谷氏が複数回にわたって企業譲受をサポートした企業の1つだ。同社はM&Aを繰り返して業界内でシェアを拡大し、上位ドラッグストアチェーンのポジションを獲得した。十数年にわたるココカラファインHDによるM&Aの軌跡を、三谷氏は次のように説明する。   「同社のM&Aの軌跡は、5つのフェーズに分類できます。第1フェーズは、関東を中心に事業展開するセイジョーと、西日本で展開するセガミメディクスが、株式移転により共同持ち株会社ココカラファインHDを2008年に設立したことです。東西の中堅ドラッグストアチェーンの合併によるココカラファインHDの誕生です。   第2フェーズは、地域を補完する統合。関西・東海を中心に展開するアライドハーツホールディングスとの2010年の経営統合です。その後、第3フェーズで、関東地域や北海道、新潟などの地域一番店として展開していた複数のドラッグストアチェーン吸収による拡大の結果、業界5位まで成長しました。第4フェーズでは、調剤薬局の買収でドミナント強化を図り、第2の事業の柱に据えました。   そして第5フェーズが、2021年のマツモトキヨシホールディングスを完全親会社としたマツキヨココカラ&カンパニーの誕生です。ドラッグストア業界最大級の企業統合により、アジアに存在感を示す国内売上高1位を目指しています。このように、状況に合わせたM&Aを図ることで同社は成長を遂げてきました」   ココカラファインHDの譲受案件の中で最も三谷氏の印象に残っているのは、介護関連会社の案件だという。福祉用具のレンタル・販売、住宅改修事業を手掛ける三重県のA社から相談を受け、その買収先としてココカラファインHDに白羽の矢を立てた。   「介護事業は制度変更の影響を受けやすい業界で、将来的に安定しながら成長できるパートナーを探していたA社の経営者から相談を受けました。同業者への譲渡を望まない意向をくみ、相談を重ねてココカラファインHDを譲渡先に選びました。   A社の中身や経営者の人柄には自信がありましたし、ココカラファインHDを源流とするグループの1社に三重県内を中心に展開しているチェーンがあり、県内トップシェアといった地域親和性も認識していました。両社のトップが意見交換をした後は、株式譲渡契約の締結まで4カ月というスピーディーなM&Aでした」(三谷氏)   三谷氏は、ココカラファインHDが“M&A巧者”たる要素を次のように整理する。   「1つ目は、同社が100社以上の合従連衡の結果できた企業グループで、従業員の誰もが『ココカラファイン出身』として実力本位で活躍できる企業風土が出来上がっており、合流を考える企業が受け入れやすいこと。   2つ目は、M&A検討チームの業務がマニュアル化され、案件の検討スピードが速いこと。M&Aが特殊な業務と位置付けられていないため、『事業部門からの異動⇒M&A担当⇒買収企業の経営者として出向』といったキャリアパスを描けるなど、他社に見られないグループ戦略上の優位性を有しています」   DVDレンタルからリユース事業へ業態転換   次の事例は、ゲオホールディングス(以降ゲオHD)のM&Aである。三谷氏は2013年から約3年間、ゲオHDのM&A責任者として案件に関わった。当時のゲオHDは、祖業であるゲオショップでDVDレンタルと中古・新品ゲーム販売を中心に事業展開を行っていた。しかし、Netflixなど動画コンテンツ配信サービスの台頭が予想され、将来展望が厳しいことから、持続可能な事業ポートフォリオの確立が大きな命題だった。   この状況下で、同社が早くから将来の成長領域と着目したのがリユース事業である。業界が拡大基調にある中、白羽の矢を立てたのがリユースショップを展開するフォー・ユーだった。ゲオHDは同社を2008年に子会社化し、2010年には社名をセカンドストリートに変更して完全子会社化。2013年にゲオHDを存続会社とする吸収合併により事業部化した。   「この吸収合併で本格的なPMI(M&A後の経営統合)を開始し、人的交流やブランド統合などを行いました。また、全国に広がるゲオショップの業態転換を図る戦略を展開しました。当時、DVDレンタル市場はゲオHDとTSUTAYAが激しいトップシェア争いをしていました。北関東でDVDレンタルを展開する会社の売却案件が持ち込まれた際には、『衰退分野でM&Aをするのか』という議論もありましたが、TSUTAYAのフランチャイズを主事業にしている上場企業2社に挟まれた地域で、ここをTSUTAYAに完全ドミナント化されるリスクを踏まえ、果断に買収を行いました。   現在、ゲオHDのDVDレンタルの全国シェアは6割に迫り、残存者利益を享受しています。成熟事業における“持久戦”という観点では、正解であったと言えましょう。もう一つ重要なことは、この買収で取得した物件を、注力分野であるリユース事業(セカンドストリート)へ業態転換できたことです」(三谷氏)   リユース業界はこの10年間成長を続けてきたこともあり、ほとんど水平統合型のM&Aは行われていない。ゲオHDは自前で出店攻勢を続け、セカンドストリートの店舗数は、2014年3月期の366店舗から2017年3月期には555店舗と3年間で約1.5倍に増え、2023年3月期現在は803店舗へと拡大を続けている。結果、成長するリユース業界のトップカンパニーとして好業績を上げ、株価もPBR(株価純資産倍率)1倍を大きく超える水準で推移している。   最後の事例が、社外取締役という視点からのM&Aである。三谷氏は2023年10月現在、兵庫県姫路市に本社を置く神姫バスの社外取締役として活躍している。   同社グループの売上高は448億円(連結、2023年3月期)。その半分近くが「自動車運送(主に乗合バス事業)」での売り上げだが、旅行業や車両物販・整備、不動産、レジャーサービスなどの事業も手掛けている。過去には旅行会社を買収するなどM&Aの実績を持つほか、2022年に策定した中期経営計画では、不動産投資100億円、成長投資100億円の合計200億円の戦略投資を掲げている。   不動産投資は、不動産物件への投資や自社保有地の有効活用を含めた開発事業を行う資金。成長投資は、M&Aによる成長事業の事業拡大やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)投資、DX投資などである。   「私は社外取締役として、神姫バスが有益なM&Aを行えるよう提言する役割です。大切なのは、未熟な議論で何となくM&Aを実行してしまうことや、逆に慎重になりすぎてチャンスをつぶさないようにすることです。   また、M&Aにはリスクが伴いますが、単にリスクを列挙するのではなく、リスクの本質が何かを探る重要性を伝えるなど、M&Aを実践するための風土が醸成されるように心掛けています」(三谷氏)   そのため、社内M&A検討チームの情報収集源の拡張に対する支援や、情報収集先から上がってくるM&A案件の妥当性チェック、社内チームによるM&A案件の取締役会への上申におけるスムーズな意思疎通への助言といった役割も担うという。   社内外の異なる立場からM&Aに接してきた三谷氏は、次のように締めくくった。   「より良いM&Aにするにはさまざまな要素がありますが、最も大切なのは、売り手も買い手も『良い相手』を明確にすることです。売り手としてなら、相手に『価格』『品格(企業文化)』『スピード感』のどれを求めるのか。買い手としてなら、自社が他の買い手よりシナジーを生み出せる相手であるのか。シナジーの前提となる自社の強み・優位性は何か。これらを整理しておくことが重要です。   そして、最終的に『良い相手』とのM&Aを成就させるには、経営者同士・事業内容・企業文化の親和性が必要です。それらを確認するプロセスにおいて、真摯に適切なアドバイスを提供する外部アドバイザー-の存在が不可欠なのです」   兵庫県を中心に路線バスや高速バスなどを運行する神姫バス