2023年4月より「小さなお客さまにもお食事を楽しんでいただけるお店でありたい」という思いから離乳食およびキッズセットの提供を開始
たった一人の顧客に寄り添い課題解決の一歩を踏み出す
事業の枠を超え、スープを食べた後のようなぬくもりを社会に広げる活動を展開するスープストックトーキョー。「世の中の体温をあげる」を合言葉に、さまざまな取り組みを通じてブランドビジョンを体現している。
年齢・性別・国籍・宗教を超えて愛される身近な食べ物であるスープを「いつでも、どこでも、誰にでも安心安全な品質で届けたい」という思いから、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」は生まれた。工場らしからぬ広大なキッチンで、シェフの五感を頼りに何時間もかけて作った多種多彩なスープを、国内約60店舗ごとに異なる週替わりのメニューで提供している。
2016年の設立以来、変わることなく発信しているのは「Soup for all!」というブランドメッセージである。これは単に、同社のスープを多くの人に提供するという意味ではない。商品であるスープはあくまでもコミュニケーションツールに過ぎず、同社の本意は、商品やサービスを通じて社会の「小さくて大きな壁」を取り除いていくことにある。
近年は、小麦アレルギーなどを持つ人も安心して食べられるグルテンフリー対応メニューを全店で展開しているほか、動物性食材を摂取しない人のためのベジタリアンスープ、かむことが困難な人のための咀嚼配慮食など、食の多様性を広げる新しい取り組みを次々と開始している。
そのまなざしは、人に限らず身近な動物にも向けられる。2021年に発売した「猫のスープ」は、16年間一緒に暮らしてきた大切なネコの看病という体験をきっかけに社員が発案したものだ。
対象となる顧客層が社会全体から見ればマイノリティーであっても、同社は「たった一人に寄り添う」というブランドの価値観に基づいて商品やサービスの開発を行っている。
2023年4月に全店でスタートした離乳食(後期)の無料提供も、自由な食事がままならない人の助けになればというブランド共通の思いからスタートした。スペースの限られた店内に背景の違う多様な顧客を同時に迎え入れることは決して容易ではないが、それぞれに多少の不便をかけることになったとしても、ある特定の顧客だけを優遇するのではなく、同社のスープやサービスに価値を見いだしている全ての人の体温を上げていきたいとする同社の姿勢に、共感が広がっている。
食のバリアフリーは他社との間でも進められている。その象徴が、2022年11月に実現したベーカリーカフェ「CAFE BURDIGALA(カフェ ブルディガラ)」とのコラボレーション店舗だ。隣接地に同時オープンした両社の店舗には隔たりがなく、訪れた客はスープもベーカリーも同時に楽しむことができる。
商品・サービスが多岐にわたっても、「Soup for all!」というブランドメッセージにブレが生じない理由として、「ブランドをつくるのは人」という同社の考え方がある。この考え方は、ブランドメッセージを体現するための施策だけでなく、採用ブランディングにも生かされている。
同社は2016年に人材開発部を新設し、ブランドメッセージを体現できる人の評価・育成を本格化した。採用は「熱量をもって想いを伝え、共感を得る表現力」を選考基準とし、自分の好きなことをプレゼンしてもらう独自の面接を実施。社内では、「世の中の体温をあげる」という企業理念の実践エピソードを「SSTグランプリ」(成果発表イベント)や社内交流サイト「Smash」で定期的に報告し合うという。
アルバイトを含む全ての従業員が日々の中で模索し、自発的に取り組んだことをたたえ合う場が、人と食の多様性を尊重する意識の醸成につながっている。卒業した社員・アルバイトのうち、希望者は全店10%引きで食事ができるほか、社内イベントに参加できる「バーチャル社員証」を発行し、将来復職した場合には特典も付与。いずれも、「ブランドに共感してくれた仲間と、雇用関係を超えて価値観を共有し続けられるように」との思いからだ。
また、「LGBTQ Ally※」として、東京レインボープライド(セクシュアル・マイノリティーの存在を社会に広める活動)への参加や、社内でのミートアップ開催も活発に行っている。そうした草の根活動は、職場におけるセクシュアル・マイノリティーに関する取り組みの評価指標「PRIDE指標」(一般社団法人work with Pride)でも高く評価され、2020年から3年連続で最高ランクのゴールドを獲得している。
一方、2023年にはブラインドサッカーによる研修プログラムを通じて、ダイバーシティーの理解促進を目指すサッカークラブ「クリアソン新宿」とパートナーシップ契約を締結。食のバリアフリーと同様に、多様な企業・団体との対話を重ねながらブランドビジョンの実現に取り組んでいる。
一人の顧客に寄り添ったさまざまな課題解決を通して、ブランドメッセージを体現しているスープストックトーキョー。ブランドに共感するファンの裾野は社内外で着実に広がっている。
※セクシュアル・マイノリティーの活動を支持・支援する人たち
PROFILE
- (株)スープストックトーキョー
- 所在地 : 東京都目黒区中目黒1-10-23 シティホームズ中目黒203
- 設立 : 2016年(創業:1999年)
- 代表者 : 代表取締役社長 松尾 真継
- 売上高 : 91億9000万円(2022年3月期)
- 従業員数 : 1470名(2022年3月現在)
2009年に「SHIRO」としてリブランディング。大文字のロゴとブランドカラーのネイビーが映えるシンプルなパッケージ
「エシカルストーリー」の発信でユーザーの心を動かす
自然素材の恵みを生かした化粧品開発に取り組むシロ。「エシカル※1」を軸に自社ブランドをリブランディングし、ブランドの世界観をユーザーに体感してもらう施策と丁寧なコミュニケーションによって高成長を続けている。
創業の地である北海道の「がごめ昆布」や「酒かす」をはじめ、自然素材を原材料とするスキンケアシリーズが多くのファンに支持されている化粧品ブランド「SHIRO(シロ)」。その前身ブランド「LAUREL(ローレル)」を2009年に立ち上げた当初から「自分たちが本当に毎日使いたいものをつくる」ことにこだわり、その姿勢を貫いているのが、SHIROの企画・開発・製造・販売・店舗運営を手掛けるシロである。
同社の製品作りの第一歩は、生産者に会いに行くことから始まる。人間の思い通りにはコントロールできない自然と対峙し、過酷な作業に汗を流す生産者にしか生み出せない、栄養価の高い農作物や海産物を大切に譲り受け、食用には向かないという理由で廃棄されていた部位も余さず生かす製品を作っている。根底にあるのは、かけがえのない自然と、それを守り育てる生産者への深い尊敬の念だ。
農産加工物の製造・販売で1989年に創業した同社は、1998年以降、化粧品・化粧雑貨のOEM事業を手掛けて売り上げを伸ばした。2009年にLAURELを立ち上げ、2015年にはグローバル展開を目指してブランド名を「shiro」に変更。OEM事業から完全に撤退し、「shiro cafe」(飲食)、「shiro beauty」(サロン)などへ事業領域を拡大した。
自社ブランドの立ち上げ10周年に当たる2019年、ロゴを小文字から大文字の「SHIRO」へリニューアル。パッケージを一新し、「シロ パフューム」シリーズを発売するなど製品の幅を広げ、「年齢や性別、国籍を問わずあらゆる人の笑顔を生むブランド」として再スタートを切った。
大きなプロモーションを行わなかったにもかかわらず、2020年6月期の総売上高は約88億円(前期比155%超)※2と急成長。その後、コロナ禍により一時閉店や製造スケジュールの大幅変更を実施したが、展開するショップは2023年5月現在で国内27店、海外は英国ロンドンに2店と成長を続けている。
世に数多い“オーガニックコスメ”との差別化の秘訣は、SHIROのブランドストーリーの構築と実践にある。シロは、製品作りだけでなく、顧客や地域社会とのコミュニケーションにおいても、SHIROというブランドビジョンである「エシカル」の実践と発信に取り組んでいるのだ。
例えば、コーポレートサイト掲載の「シロのものづくり」では、2023年2月発売の「酒かす米ぬか」シリーズができるまでを丁寧に紹介。風土を知り抜く地元農家が蔵人を担う創業145年の小林酒造(北海道)と、自然循環型の農法で農産物を育てる山燕庵(石川県)から提供された原材料を掛け合わせて開発されたことや、企画開発から製造販売まで「自然に合わせるものづくり」を貫く姿勢を発信している。
また、ものづくりに関するコンテンツ以外にも、「シロで働く」「社会との繋がり」といったカテゴリーでSHIROらしさを体現する社員のエピソードや、同社のエシカルな取り組みなどを発信。「お客様との繋がり」では、同社スタッフの接客態度や製品不良などに対する顧客の声と同社の対応を、個人情報保護に配慮しつつ、ほぼそのまま掲載することでファンの信頼を高めている。
2023年4月28日には、北海道砂川市に新しい製造拠点「みんなの工場」をオープン。砂川市民をはじめ全国のSHIROファンと検討を重ねて設計したこの施設は、開発・製造・販売の全工程を公開するガラス張りの工場に、ショップやカフェ、キッズスペース、ラウンジなどを併設し、食やカルチャー、環境保全といったSHIROの世界観を体感できる複合施設となっている。オープン以降10日間の来場者数は、砂川市の人口1万6000人を大きく上回る2万2000人だったという。
同工場の屋外には、施設排水を自然作用できれいにしてから石狩川に流す浄化池や、生ごみで作った堆肥による土づくり・野菜づくりを体験できる畑もある。「自然以上のものづくりはしない」との考え方で、地域に根を張る人々の暮らしを支え、雇用を創出できるビジネスモデルを推進しているのだ。
さらに、2024年春には、北海道夕張郡長沼町に一棟貸し宿泊施設「MAISON SHIRO(メゾンシロ)」をオープン予定である。本プロジェクトでは、自生する森の蘇生を第一義とし、間伐材や枝葉を木こりから譲り受けて、その種類や量をもとに宿泊施設の規模やサービスを検討。「建築のための森」ではなく「森のための建築」というアプローチで進められている。
SHIROというブランドの成長エンジンは、独自性あるものづくりの視点と技術だけでなく、ファンの共感と愛着を高める施策とブランドストーリーの構築、それを正しく伝えるストーリーテリングの技術にほかならない。
※1 人や社会、地球環境に配慮した、倫理的に正しい消費行動
※2 美容経済新聞社『美容経済新聞』(2021年6月10日)
PROFILE
- (株)シロ
- 所在地 : 東京都港区北青山3-6-7 青山パラシオタワー8F
- 設立 : 1989年
- 代表者 : 代表取締役社長 福永 敬弘