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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2023.05.01

「知の探索」センサーを稼働させ創業間もないスタートアップに投資:ADワークスグループ

「知の探索」センサーを稼働させ創業間もないスタートアップに投資:ADワークスグループ  

「両利きの経営」を実践するADワークスグループでは、「知の探索」としてスタートアップの資金調達支援を開始。CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)※1として活動する同グループの未来に向けた経営戦略を探る。

 
スタートアップ支援で「両利きの経営」を実践
  1886年に染色業として創業したADワークスグループ。現在は収益不動産事業を主な事業として展開するグループカンパニーだ。オフィス、マンション、商業施設などを仕入れ、付加価値を付けて投資家に販売するビジネスを展開して成長を遂げている。同社が着実に成長してきた要因には、不動産価値を上げる独自のノウハウがある。   不動産の付加価値を上げるには、経年劣化した設備の改善や外壁の塗り替えなどを行う。また、アフターコロナではオフィスに求められるニーズも変化し、オフィスのICT化、在宅勤務が増加したことによるシェアオフィスの需要なども増した。ADワークスグループでは、このように変化するニーズを的確にキャッチして商品を改修することで「バリューアップ」を図ってきたのである。   このバリューアップには、社内のさまざまな技術やノウハウが活用されている。それらの連携によって、同社には新しい事業が生まれた。それがCVCとしての活動だ。   実は、同グループは「両利きの経営」の実践者としても社内外に知られた存在。両利きの経営とは、世界的な経営学の権威である米国の経営学者、チャールズ・A・オライリー氏が提唱する経営の在り方で、主力事業の改善を指す「知の深化」と、新規事業開発のための実験や行動を指す「知の探索」の両立の重要性を唱える理論だ。確実に収益を上げる主力事業を成長させるだけでなく、未知の領域の開拓にも注力することで、持続可能な経営が可能になるという考え方である。   近時パンデミックがもたらした先行きの読めない環境下では、この考え方を取り入れて活動する企業が増えてきている。ADワークスグループのユニークさはこの考え方をCVCに託していることだ。   「日本のCVCは、自社の事業領域の周辺で可能性を秘めるスタートアップへ投資するケースがほとんどです。もちろん、事業拡大には周辺領域への投資は意味あるものですが、それだけでは本来の知の探索の実践にはなりません。   当社では既存事業周辺への投資だけでなく、まったく関係のない領域への投資も積極的に行っています。それが日本で行われている一般的なCVCとの最大の相違点です」   このように語るのはADワークスグループで経営企画を管掌している専務取締役CFOの細谷佳津年氏だ。  
シードやアーリーのスタートアップを支援
  ひと口にスタートアップといっても、成長フェーズにより何段階かに分類されている。「ゼロイチ」と呼ばれる、何もない状態から新しい価値創出を図る創業段階や実証段階の「シードステージ」「アーリーステージ」を経て、事業化して収益が見込める「ミドルステージ」「レイターステージ」へと成長していく。(【図表1】)   【図表1】スタートアップの成長フェーズ スタートアップの成長フェーズ 出所:タナベコンサルティング作成   こうした各フェーズのスタートアップに対して投資をすることで、新しい商品やサービスを創出する動きが活発化している。ただ、日本のCVCの多くが投資先として選んでいるのは、ミドルステージやレイターステージのスタートアップだという。事業が立ち上がったばかりのシードステージやアーリーステージのスタートアップへの投資はごくわずかだ。   「ミドルやレイターステージへ投資が集中しているのは、事業が成長期に入ったフェーズであり、投資リスクが少ないという考え方からです。確かにリスクヘッジにはなりますが、それでは社会を変えるユニコーン※2は生まれづらい。本来、支援すべきは、まだ『よちよち歩き』のシードやアーリーのスタートアップです。ここに資金を投入しないと、せっかく良いアイデアや技術を持っていても、資金調達ができなくて事業撤退をせざるを得なくなるわけです。   一方、米国などはどんどんシードやアーリーのスタートアップに投資をするので、イノベーションを起こしグローバル市場を席巻できるユニコーンが生まれる。持続可能な社会に貢献するという文脈も含めて、当社グループでは多くのCVCが二の足を踏んでいるシードステージやアーリーステージのスタートアップをメインに投資をしています」(細谷氏)   こうした日本のスタートアップを取り巻く投資環境に一石を投じ、自らがシードステージやアーリーステージのスタートアップを応援するべく立ち上げたのが、細谷氏が代表取締役社長を務めるADワークスグループのCVC事業子会社であるエンジェル・トーチだ。 ※1 ベンチャー企業に出資を行う組織 ※2 創業10年以内で企業評価額10億ドル以上の非上場ベンチャー企業
個人の金融資産をスタートアップに流入
  まだ事業を軌道に乗せていないスタートアップ企業の可能性を評価するには、確かな「目利き」を備えていなければならない。そのためには、自社のみならず、それぞれの領域で強みを持つ他社とのアライアンスも重要になる。そこで、2022年8月、エンジェル・トーチは「ファイナンス・アレンジメント事業」を開始し、岡三証券グループ(東京都中央区)と業務提携し、FUNDINNO(東京都品川区)への出資と、Siiibo証券(東京都中央区)への出資、資本提携を開始した。   ファイナンス・アレンジメント事業は、シードステージ、アーリーステージをメインターゲットにした成長資金の調達という役割を担うものだ。そのため、出資や業務提携した3社もスタートアップ支援に必要なノウハウやバックグランドを有する企業ばかりである。   FUNDINNOは、個人投資家が未上場企業に小口で出資できるクラウドファンディング事業(個人Equity)を立ち上げて「個人版エンジェル投資家の創出」を実現し、その分野の圧倒的なシェアを誇る。Siiibo証券は、私募社債の購入・発行・管理が行えるWebプラットフォームを提供する(個人Debt)スタートアップ企業。そして岡三証券グループはデジタル有価証券を発行する役割(STO事業)を担う。(【図表2】) 【図表2】CVC事業を母体とした「ファイナンス・アレンジメント事業」の事業イメージ CVC事業を母体とした「ファイナンス・アレンジメント事業」の事業イメージ 出所:ADワークスグループニュースリリースより
タナベコンサルティング作成
  「こうした布陣からも分かるように、ファイナンス・アレンジメント事業はシードステージ、アーリーステージのスタートアップ企業への資金を個人投資家から募ろうというものです。日本経済の停滞は長く続いていますが、お金がないわけではありません。2021年度のGDP(国内総生産)は約540兆円ですが、日本銀行の発表によると2022年12月時点での個人の金融資産は2023兆円(「資金循環統計(速報)(2022年第4四半期)」2023年3月17日)。つまり、日本のGDPの4倍に当たる現金を個人が所有している計算です。こんな先進国は世界中に1つも見当たりません。   ところが、魅力的な投資先がないために銀行やタンス預金で眠っているわけです。こうした出口を探している資金をスタートアップへと流入する導管をつくる。それがファイナンス・アレジメント事業構想の狙いであり、日本経済活性化の切り札になるスキームだと考えています」(細谷氏)   加えて、細谷氏はADワークスグループのCFOとして、株主に優しい増資方法といわれる「ライツ・オファリング※3」を駆使して、個人株主・投資家から累計80億円超の資金調達してきた実績を持つ。それぞれが得意とするノウハウを融合させることで、個人投資家の資金をスタートアップに流入させる仕組みづくりをスタートさせている。  
NFTなどに注目すると同時に経営者の資質を最重要視する
  では、ファイナンス・アレンジメント事業構想は、どのようなスタートアップへ投資を行っているのか。今後、市場拡大が見込まれる分野だが、その中でも細谷氏が注目しているのが、ブロックチェーンを基盤にしたNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)やメタバースなどである。   例えば、NFTの活用分野としてデジタルアート※4が注目されている。デジタルアートは作品そのものの価値に加えて、誰が所有していたかが価値につながる側面がある。NFTの識別情報によって作品の所有履歴が全て分かるので、デジタルアート作品の売買などに活用されている。このように新しいビジネスの創出につながる分野への積極的な投資を進めていく予定だという。   「スタートアップへの投資で何よりも重要なのが経営者の情熱など事業に対する姿勢です。そこを重視しながら未来を切り開く企業を支援していきたいですね。また、最近の個人投資家の傾向としては、SDGsなどへの取り組みや社会貢献的な活動を支援する動きが活発化し、寄付型のクラウドファンディングなども活況を呈しています。企業に対する評価も人的資本経営など非財務情報を重視する傾向が強まっています。こうした社会の動きを見極めながらスタートアップの資金調達の支援をしていきたいと考えています」(細谷氏)   さらに、細谷氏はCVCという方法で知の探索を行うことで、多様な領域の人々の交流が生まれ、社内だけでは醸成できないダイバーシティーを獲得することができるというメリットを指摘する。   エンジェル・トーチを中核にしたADワークスグループの知の探索で、日本からどんなスタートアップが生まれるのか、動向に注目が集まる。 ※3 市場価格よりも低い価格で、株主に対して当該上場会社の株式を購入できる新株予約権を無償で割当てる増資手段の1つ ※4 PCやタブレットなどのデジタルデバイスを使って作られたアート作品   ADワークスグループ 専務取締役 CFO 経営企画管掌 細谷 佳津年氏 ADワークスグループ 専務取締役 CFO 経営企画管掌 細谷 佳津年氏  

PROFILE

  • (株)ADワークスグループ
  • 所在地:東京都千代田区内幸町2-2-3 日比谷国際ビル5F
  • 創業:1886年
  • 代表者:代表取締役社 長田中秀夫
  • 売上高:278億5600万円(連結、2022年12月期)
  • 従業員数:219名(連結、2022年12月現在)