「KDDI VISION 2030」実現の加速に向け、2022年10月にオウンドメディア「KDDIトビラ」を開設し、KDDIの取り組みを発信している
サステナビリティ経営を推進するKDDIでは、2022年4月にサステナビリティ経営推進本部を新設。通信を中心にさまざまな事業領域を拡大し、社会課題解決が収益機会につながるビジネスモデルの創造に取り組んでいる。
グループ全体で取り組むサステナビリティ経営
コロナ禍の外出自粛で在宅勤務が求められた2020年以降、あらゆる領域で急速にデジタルシフトが進んだ。DXによる新たなビジネスが続々と展開され、Beyond5G※1や次世代技術の研究も加速。人々のワークスタイルや価値観が多様化する中、世界の投資家・投資機関が重視しているのが企業のサステナビリティだ。めまぐるしい事業環境の変化にもしなやかに適応していけるポテンシャルを、財務・非財務の両面から見定めようとしている。
そうした要請に応えて、KDDIは2020年5月に「KDDI Sustainable Action」を策定。5GやIoTを活用して命・暮らし・心をつなぎ、「つながる安心」を広げていくための事業変革にかじを切った。激甚化する自然災害や、深刻化する人口減少などに対し、通信事業会社としてどう社会的責任を果たしていけるのか。ステークホルダーとともに検討を重ねている。
同社の執行役員常務CFOコーポレート統括本部長の最勝寺奈苗氏は、次のように語る。
「2011年の東日本大震災の際には『電話で会話できて初めて安心した』という多くの体験を聞き、人と人をつなぐことの意義を深く実感しました。当時に比べると、現在は固定電話の利用者や公衆電話の台数が大幅に減少し、人々の通信手段はモバイルに集中しています。
その一方、ネットワーク・端末・コンテンツで差別化を図っていた3Gの時代は終わり、多種多様な企業といかに連携できるかが問われる 5G・6Gの時代へと移行しつつある今、通信事業で培ってきた『つなぐチカラ』を進化させ、通信を溶け込ませながら、それ以外の事業領域でもイノベーティブな成長を遂げていくことが何より重要だと考えています」
目指すべき変革の方向性を明確に示したものが、2022年5月に発表した「KDDI VISION 2030」と「中期経営戦略(2022-2024年度)」(【図表1】)だ。
【図表1】中期経営戦略の全体像
出所:KDDI提供資料
中期経営戦略では、KDDIグループの強みである5G通信を核に、5つの注力領域の事業拡大を図る「サテライトグロース戦略」と、経営基盤強化の両軸を掲げ、さまざまな事業領域のグループ会社と連携して、複雑な環境の変化にもしなやかに対応できるレジリエントな未来社会の実現を目指している。
これまでと大きく違うのは、「長期志向」と「社会価値」の観点を組み入れたサステナビリティ経営(次頁【図表2】)を根幹に据えたことだ。企業と社会の持続的成長を両立させるサイクルの実現を目指している。
【図表2】KDDIのサステナビリティ経営
出所:KDDIコーポレートサイト
重要なポイントは「自社の強みを生かし、最も社会に貢献できることは何か」を考えることである。今回の中期経営戦略においては、マテリアリティ(重要課題)を「通信を核としたイノベーションの推進」「安心安全で豊かな社会の実現」「カーボンニュートラルの実現」「ガバナンス強化によるグループ経営基盤強化」「人財ファースト企業への変革」「ステークホルダーのエンゲージメント向上」の6つに絞り込んだ。
※1 5Gの次世代の移動通信システム
専門部署を新設し、サステナビリティ経営を推進
事業そのものにサステナビリティの視点を組み込んで収益機会につなげる。このような戦略性を持ったサステナビリティの重要性を浸透させるため、全社横断的に動いているのが2022年4月にコーポレート統括本部に新設された「サステナビリティ経営推進本部」だ。
会計・人事・法務・新規事業など多様な部署から集結したメンバーが、KDDIグループ事業全体を持続的に成長させる仕組みづくりや社内外への戦略的な情報開示の役割を担っている。
「採算や収益と切り離された社会貢献ではなく、当社のサービスにしっかりと落とし込まれたものにしなければなりません。大切なのは、経済活動と社会の持続的成長のどちらも両立させていくトレード・オンの発想です。1つでも2つでも有益なビジネスが生まれるよう、事業に寄り添いながら進めています」(最勝寺氏)
これまで培ってきたコア技術を生かし、自治体や研究者と協働で環境課題の解決に取り組むビジネスの在り方も見えてきた。例を挙げると、生物多様性の分野では、AI画像解析や遠隔カメラなど、IoTを活用した有害鳥獣対策や、水上ドローンを用いた水中撮影による藻場調査などが該当する。
「サステナビリティのテーマは多種多様であり、ありとあらゆる課題解決の場面に通信が溶け込んでいることが理想です」と最勝寺氏。旧来型のCSRから脱却し、広範な事業全般にサステナビリティを浸透させるには、事業戦略と経営基盤強化を両輪で推進し、グループ全体で取り組まなければならないと強調する。
同社では経営基盤強化の最重要課題として、①カーボンニュートラルの実現、②ガバナンス強化によるグループ経営基盤強化、③人財ファースト企業への変革を掲げている。それぞれ具体的な取り組みを見ていこう。
カーボンニュートラルの実現
カーボンニュートラルに向けた目標は、KDDI単体で2030年度、グループ全体で2050年度までにCO2排出量を実質ゼロにすること。「2050年と言わず可能な限り前倒しできるよう各部門・グループ全体に呼びかけています」と最勝寺氏は言う。
具体的な通信設備の省電力化の取り組みとしては、基地局は新たな機能を2023年3月より導入。基地局ごとのトラフィック変化を分析し、深夜などトラフィックの少ない時間帯に顧客の通信に影響がない範囲で一部の電波を一時停止させることで、消費電力の削減が可能となった。また、データセンターの省電力化は、パートナー企業と共に液浸冷却の実用化に取り組んでいる。実証ではサーバー冷却電力の94%減を達成し、2023年度中の提供を目指している。
さらに、2022年カーボンニュートラルへの貢献に向け、4月にエネルギー事業を本体から分離・独立させてauエネルギーホールディングスを設立。グループ会社として共に歩んできたエナリス※ 2の電力ソリューションを生かし、大規模発電所だけに依存せず、太陽光発電や蓄電池など複数の分散型電源をリアルタイムかつ低遅延で効率的に制御できる「仮想発電所」への変革に取り組んでいる。
そして社会のカーボンニュートラルへの貢献に向け、2021年11月に設立したCVC※3ファンド「KDDI Green Partners Fund」を通じて気候変動問題に取り組むスタートアップへ5年間で約50億円を投資し、スタートアップの技術を活かしたビジネスの開発も進めている。
ガバナンス強化によるグループ経営基盤強化
KDDIは多数の企業群でグループを形成している(2022年3月現在、連結子会社159社、関連会社38社)。そのため、グループ会社の増加と事業の多様化に伴い、ガバナンス体制の強化が一層重要になってきているという。
「これまでは、グループ会社ごとの内部統制活動の結果に○×をつけ、改善に向けたチェックをすることがメインでした。しかし、一口に改善と言っても、実態として各グループ会社の現場では要員も決して潤沢ではありませんし、事業の立ち上げ直後は首も回らないほど多忙です。共に成長していくためには、グループ全体のコーポレートガバナンスを支援する体制が必要だと考えました」(最勝寺氏)
そこで同社は、2022年4月に「グループ経営基盤サポート部」を経営管理本部内に新設。グループ会社へ派遣している約50名のCFO(最高財務責任者)がそれぞれ抱えている課題を定期的にヒアリングし、月1回のグループガバナンス支援会議で現状を集約。コーポレートの各本部と連携して課題を整理し、専門的にサポートする体制を整えた。
「グループ会社のCFOは会計部門から出向している社員が多いのですが、総務・人事なども含めたガバナンスも一手に担うとなるとオーバーフロー状態になりかねません。CFOが独りで悩んでしまわないよう、相談できる窓口を用意しました」(最勝寺氏)
グループ会社の負担をできるだけ減らし、KDDIグループ全体の業務効率を高めていく仕組みづくりは他にも行われている。2022年4月にコーポレート統括本部に新設した「コーポレートシェアード本部」では、グループ会社の経理・購買・人事の給与関連業務の一部を受託。フルクラウドでシェアードサービスを提供している。
「最も多く寄せられる相談は人事関連です。採用の質を高めて社員の定着率を上げていきたいという多くの声を受け、シェアードサービスで採用ノウハウを学べるパッケージを用意しました。また、人材派遣業を営むグループ会社に一時的な要員確保を依頼できる体制も整えています」(最勝寺氏)
一方、グループ間のデータ連携を進める上で必須となるのが情報セキュリティーの強化だ。情報漏えいの防止やサイバー攻撃から情報資産を守るため、「技術統括本部情報セキュリティ本部」がグループ全体のデータガバナンス強化に取り組んでいる。
また、以前は事業ラインの所属だったCFOの所属も経営管理本部に変更し、レポートラインを明確化。CFOとCEOが両輪でガバナンスを効かせ、情報の可視化、将来価値につながる情報分析に取り組みながら、企業価値を上げていくことを期待しているという。「全て同じ水準・スピードで推進することは難しいと思いますが、グループ全体でサステナビリティ経営の実効性を高めていきたいと考えています」と、最勝寺氏は語る。
グループ会社がKDDIの主管部門と連携しながら自律的にガバナンスを強化し、コーポレート部門がそれを下支えする。さらに、監査部が全体をモニタリングするという二重三重のリスクマネジメントにより、ガバナンスを揺るぎないものとしている。
人財ファースト企業への変革
採用後の人財育成も、中期経営戦略を実行していく上では大きな課題の1つだ。同社では、キャリア採用の増加や注力領域への要員シフトの機会が増えてきたことなどを背景に、2020年8月からKDDI版ジョブ型人事制度を段階的に導入。2022年4月に全面移行している。
「もはや、勤続年数が長いからといって給与や役位が上がるとは限らない時代です。自分の頭で考え、新しいものを生み出すチャレンジができるかどうかが、求められており、終身雇用制が薄れた分、自己研鑽はシビアに求められるようになっています」(最勝寺氏)
同社では、サテライトグロース戦略の注力領域の1つであるDXに対応できる人財を育成すべく、「KDDI DX University」と呼ばれる社内人財育成機関を立ち上げ、現在では、DXやLXを実現するための新たな専門スキルを、データサイエンティスト、エクスペリエンスアーキテクト、ビジネスディベロップメント、コンサルタント&プロダクトマネージャー、テクノロジストの5領域に分けて定義付け、外部講師を招いてプロフェッショナル人財育成にも着手している。また、全社員のDXスキル向上のため、DX基礎スキル研修をスタート。2025年3月期までに1万1000名超の全社員が修了することを目指している。
一方、「社員に自律的なキャリア形成を求める以上、企業としての魅力も高めていかなければ人財が流出してしまいますので、管理職には多様な意見を受け入れられる力量が求められるでしょう。年齢や役位にとらわれず正しいことは正しいと言える、心理的安全性の高い職場づくりが大切です」(最勝寺氏)
2020年度からはサステナビリティに関する評価指標を役員や社員の賞与算定に反映。2022年度からはKPI(重要業績評価指標)の達成掛け率の算定に用いる評価点の内訳として、ESG指標への配分を3割にまで高めているという。
※2 2022年7月1日付でauエネルギーホールディングスに移管
※3 コーポレートベンチャーキャピタル。通常VCなどの専門機関が広く資金を集めて行うベンチャー投資を、事業会社が自社の戦略目的のために行うことを指す
フィロソフィ浸透に向け、年間計画を立て、階層別に勉強会を繰り返してきたKDDI。このような勉強会の開催数がPBRに貢献していることも判明している
サステナビリティ経営を支える「KDDIフィロソフィ」
これまでに述べてきた事業戦略と経営基盤強化の取り組みを支えているのは、長年にわたって地道に浸透させてきた「KDDIフィロソフィ」だ。
2000年にDDI(第二電電)、KDD、IDO(日本移動通信)の3社合併により誕生したKDDIでは、それぞれ違う組織風土で働いてきた社員が共通のベクトルを持てるよう、「KDDIフィロソフィ」を制定したが、十分な議論と検討を重ねた上で、2013年にこれを改定した。
「当初は『フィロソフィを改定することにどれほどの意味があるのか』という意見も少なからずありました。しかし、トップ層が粘り強く繰り返し重要性を伝えていくと、だんだん後ろ向きなことを言えない空気になってくるものです。結果的には全社を挙げて真摯に取り組めるようになりました」と、最勝寺氏は当時を振り返る。
改定に当たっては、全社員が本気で実践できるものとなるように、部門や階層を超えて幅広く声を聞き、社員一人一人が理解し共感できるよう検討を重ねた。根底には、創業者である故・稲盛和夫氏の言葉もしっかりと継承されている。
「人事本部主導の各階層別研修や全社員横断研修の他、各組織においても担当者がフィロソフィ浸透のための年間計画を立て、地道に勉強会を続けてきました。売り上げを生まないコーポレート部門が主導する取り組みは、事業に専念したい社員から負担と思われてしまう面もあるでしょう。
しかし近年、非財務活動の重要性は広く認識されるようになりました。当社においても、215指標に及ぶ非財務関連データを過去10年分収集して外部に分析を依頼したところ、フィロソフィ勉強会の開催数とPBR(株価純資産倍率)が正の相関にあるという結果を得ました。KDDIフィロソフィを学び続けてきたことが、KDDIの価値向上に貢献できていると分かり、その重要性を再認識できました。
これまで見えにくかった非財務の取り組みを定量化し、収益との相関関係をできるだけ解明していこうという企業姿勢は重要であると、投資家の方からも一定の評価を頂いています。今後も、社内外への戦略的な財務・非財務の情報開示を通じて、ステークホルダーの皆さまのエンゲージメント向上に努めていく方針です」(最勝寺氏)
2022年度は、従来の投資家向けの統合レポートと、非財務(ESG)情報を中心とするマルチステークホルダー向けのサステナビリティレポートを合冊し、『サステナビリティ統合レポート2022』として発行。サステナビリティサイトでも非財務情報を開示している。さらに、メディアや投資家を対象とした記者説明会の実施や「KDDI SUMMIT 2023」の開催などを通して、パートナーと取り組んでいる社会課題の解決事例を広く発信している。
こうした活動の上で、いま問われているのは、環境や社会の課題に全社員が危機感を持ち、事業を通じて解決策を実行するサステナビリティ経営の重要性を強く意識することだと最勝寺氏は語る。
目下の課題は、「サステナビリティ中期目標(2022年度~2024年度)」として掲げた25項目の着実な達成だ。社内外への開示に向けて推進・報告体制を確立し、月次でマネジメントサイクルを回している。
サステナビリティ経営のトップカンパニーを目指して
企業価値を財務・非財務の両面で定量的に分析し、自社のサステナビリティを社内外のステークホルダーに開示する。そのための膨大な業務を未来への飛躍台とするには、KDDIにおけるサステナビリティ経営推進本部のような「伴走者」の存在が支えになるだろう。
「自社の業績だけを追いかけるのではなく、長期的な視点で社会課題の解決につながるインパクトをもたらしていく。その中で見いだした社会の成長を次なる事業戦略に生かし、企業価値を向上させ、再び社会に還元していく。そのような価値の好循環こそが、サステナビリティ経営によって当社が確立させようとしている『KDDI Value Creation Model』です。
サステナビリティ経営は、いまや経営の中心課題。各事業部門で自律的にサステナビリティ活動が実践されるよう、サステナビリティ経営推進本部のみならず、コーポレート統括本部が他部署やグループ会社など組織全体を巻き込んでけん引していかなければならないと考えています」(最勝寺氏)
KDDI 執行役員常務 CFO コーポレート統括本部長 最勝寺 奈苗氏
PROFILE
- KDDI(株)
- 所在地:東京都千代田区飯田橋3-10-10
- 創業:1984年
- 代表者:代表取締役社長CEO 髙橋 誠
- 売上高:5兆4467億円(連結、2022年3月期)
- 従業員数:4万8829名(連結、2022年3月現在)