創業以来、水環境と公衆衛生を守る製品の開発に努めてきたTOTOにとって、「ESG経営」は新しい取り組みではない。貴重な水資源に負荷の少ない清潔なトイレ文化の普及をリードする同社が、「ESG経営」実現に向けて注力している重要課題とは。
創業当初から貫いてきたESG経営
東洋陶器(現TOTO)の創業は1917年。当時、日本では明治以降の急激な近代化で人口と工場が一気に増え、汚水処理が深刻な環境問題になっていた。コレラや赤痢など水因性の伝染病が流行し、多くの人々が命を落としていた時代である。 そのような状況に課題意識を抱いていた創業者の大倉和親氏は、ヨーロッパを訪問した際に腰掛型の陶器製トイレがあることを知り、衛生的なトイレの普及が日本社会の発展につながることを確信。TOTOのものづくりは、国による下水道・下水処理場などのインフラ整備や、環境・衛生に関する法整備よりもずっと前に、人々の衛生意識を啓発するところからスタートしたのである。 以来、世界18カ国・地域(日本を含む)で事業を展開する同社の活動は、全て「健康で文化的な生活を提供したい」という大倉氏の意志に根差している。 「『水まわりを中心とした、豊かで快適な生活文化を創造します』という理念は、当社を取り巻くビジネス環境がどれだけ変化しても変わらないハートの部分です。TOTOの存在意義を示す『グループ共有理念』として多言語に翻訳し、世界中の社員一人一人へ丁寧に共有しています」 そう話すのは経営企画本部ESG推進部(小倉)企画主幹である曾根崎修司氏だ。「経営」と「CSR(企業の社会的責任)」を一体のものとして考え、企業理念を実現するための本業としてCSR活動に取り組んできた同社は、国際的なESG投資指標「Dow Jones Sustainability World Index(DJSI World)」※1の構成銘柄にも選定されている。節水へのたゆまぬ挑戦から生まれたコア技術
ESG経営の成果は、同社の代名詞である「超節水トイレ」の技術革新に見て取れる。戦後の人口増加と高度経済成長で市場が拡大するとともに、水不足が社会問題となっていた1973年、同社は大規模な投資を決断し、本格的な節水型トイレの開発に乗り出した。6階建ての仮設ビルを建て、3年がかりで実証実験を行った。1976年に大洗浄1回当たりの水量を20リットルから13リットルへ劇的に削減したという。(「TOTO百年史」より) 「当社がこだわってきたのは『節水量』だけではなく、『洗浄性能』『快適性』との両立です。汚物とトイレットペーパーを1回でしっかり流せなければ2回、3回と水を使うことになるからです」と曾根崎氏は語る。 その後も、内部機構の形状と水流のバランス、汚れが付着しにくい表面加工技術、清掃しやすい便器の形状などの研究を重ねた同社は、1993年に6リットル洗浄のトイレを発売。進出して間もない時期に米国市場で売り上げを伸ばした。 「水不足が深刻化していた米国で、折しも1994年に1回当たりの洗浄水量を6リットル以下に規制する法律が施行されたのです。それもあってか、製品を購入する家庭が増え、『1回でしっかり流せるトイレ』として大反響を得ました」(曾根崎氏) それから30年、2023年現在の最上位モデルは洗浄水量3.8リットルまでに進化を遂げ、超節水トイレとしてブランド力を発揮している。 「水源に恵まれ、今のところ洗浄水量の制限もない日本では実感しにくいかもしれませんが、地球上にある13.8億立方メートルの水は97.4%が海水で、淡水はわずか2.5%。そのうち私たちが実際に利用できる水は0.01%しかありません。世界の水不足は危機的な状況であり、トイレの洗浄水量に厳しい規制をかける地域が数多く存在します」(曾根崎氏) 同社では、企業理念に掲げた「お客様の期待以上の満足を追求します」という言葉通り、国の規制よりもはるかに先んじて人類の生存に不可欠な水資源の危機と向き合い、これまでの常識を超える節水に挑戦してきた。その中で生み出されたのが、汚れが付着しないよう陶器表面の凹凸を100万分の1ミリ単位でなめらかにする「セフィオンテクト」(1999年)と、外に飛び出すことなく水を旋回させて汚物を流す「フチなし・トルネード洗浄」(2002年)という2つのコア技術であり、これらが他社の追随を許さない強みになっている。 ※1…世界的なESG投資の指標。米国の金融サービス企業S&P Globalが持続可能性(Sustainability)に優れた企業を評価する際に用いる
出所:TOTO提供資料よりタナベコンサルティング作成
性能だけではなく、豊かで快適な生活文化を創造
節水型トイレを開発した1976年当時30%程度だった日本の下水道水洗化率は現在90%を超え、1980年に販売開始したウォシュレットは2022年8月に累計6000万台を突破した。公共施設から一般家庭まで、現代の日本では「きれいで快適」「環境にやさしい」トイレが広く普及している。しかし、ここに至るまでには地道な啓発活動が重ねられてきたと曾根崎氏は強調する。 「当社では、製品性能だけではなく『豊かで快適な生活文化を社会に広めていく』という視点を大切にしてきました。1996年にトイレ関連企業と業種の枠を超えて結成した『学校のトイレ研究会』では、5K(汚い・臭い・暗い・怖い・壊れている)のイメージもある学校のトイレを安全・安心な生活空間に変えていこうと、学校や自治体に改善提案を重ねてきました。30年の時を経て、トイレに対する日本の衛生意識は格段に向上したと思います」(曾根崎氏) 生活文化は、人と人とのつながりの中で長い年月をかけて育まれていく。2005年に設立した「TOTO水環境基金」は、環境に貢献する地域の人たちの輪を広げていくためのプラットフォームだ。顧客・株主・社員などステークホルダーによる環境貢献の実績から助成金額を算出し、水環境の保全や衛生的な生活環境を整備する国内外の活動を支援している。「意志を持って水環境の課題解決に取り組んでいけば、必ずや社会の発展に貢献でき、経済的成長にもつながると考えています」と曾根崎氏。2022年までの17年間の累計助成額は4億1656万円に上る。人権尊重のために明確なKPIを掲げる
TOTOの事業は、公衆衛生や社会福祉の向上、環境権の保障など、国の責務として憲法に定められた「人権の尊重」に寄与する取り組みだ。具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、「社会的価値」「環境価値」の創造に取り組んできた結果、売上規模・営業利益率・海外売上高比率などの「経済価値」も比例して伸びてきた。 人権尊重の取り組みは、足元の職場でも積極的に行われている。 「社内では、性の在り方・障がい・国籍・年齢などによる差別がなく、皆が安心して生き生きと働けるような環境の整備をグループ一丸となって推進しています」(曾根崎氏) 一例を挙げると、現在グローバルで達成を目指している「新共通価値創造戦略 TOTO WILL2030」においては、2023年度の目標として、①女性管理職比率(日本)21%、②ライフイベントによる離職率※2(日本)0%を掲げている。(【図表】) 【図表】2023年度までのグローバル環境目標
※a…2005年当時の商品を普及し続けた場合と比べた削減効果※b…対象範囲:日本・米州・欧州・中国大陸・台湾・インド・タイ・ベトナム
出所:TOTO提供資料を基にタナベコンサルティング作成 障がい者雇用についても1978年から積極的に取り組んでおり、2021年4月現在、307名が働いているという(日本全社員の2.53%)。多様な「人財」を包摂する組織づくりは、製品のユニバーサルデザインにも生かされ、市場の裾野を広げている。 同社ではサプライチェーン全体にも目を配っている。人権・労働・環境などの国際的なガイドラインに沿ったCSR調達計画を策定し、購買部門が方針説明、アンケート調査、訪問監査などを担当。長くて深い信頼関係を構築するため、企業訪問によるモニタリングも実施している。 今後、TOTOは2030年にきれいで快適、環境にもやさしい「サスティナブルプロダクツ」の構成比を78%まで向上させることを目標に掲げる。感染症予防に配慮したタッチレスで流せるパブリックトイレや、高騰する光熱費の抑制につながる節水シャワーや断熱浴槽など、社会課題の解決に直結する製品のポテンシャルは高い。 「中国、米国、タイ、ベトナムなど、さらなる成長が期待できる海外市場では、先行する競合他社との差別化が求められます。当社だからこそ提案できる『より良い生活』、つまり付加価値とは何か。引き続き、清潔なトイレ文化がウェルビーイングにもたらす意味を探究し、広く発信していきたいと考えています」(曾根崎氏) ※2…結婚・妊娠出産・介護・配偶者の転勤などライフイベントを原因とする望まない離職を防ぐため、制度などを充実させながら、仕事との両立支援を推進している
TOTO 経営企画本部 ESG推進部(小倉) 企画主幹 曾根崎 修司氏
PROFILE
- TOTO(株)
- 所在地:福岡県北九州市小倉北区中島2-1-1
- 設立:1917年
- 代表者:代表取締役 社長執行役員 清田 徳明
- 売上高:6452億7300万円(2022年3月期)
- 従業員数:3万4614名(2022年3月現在)