セブン&アイグループの事業会社での買い物や食事で貯めたマイルを、さまざまな特典と交換できるセブンマイルプログラム。グループ共通の会員ID「7iD」でログイン・利用できる
近年、デジタルの顧客接点の強化に注力しているセブン&アイ・ホールディングス。NPS(ネット・プロモーター・スコア:正味推奨者比率)調査によるCX向上の取り組みがグループ全体に新しい企業文化を生み、ロイヤルカスタマーの増加につながっている。
デジタルの顧客接点を持つ戦略を展開
セブン-イレブンをはじめ、イトーヨーカ堂、そごう・西武、ロフトなどを展開する流通大手のセブン&アイ・ホールディングス。グループの店舗数は国内で2万2000店を超え(2022年2月現在)、1日当たりの総来店客数は約2240万人(2022年2月度)に上る。近年はECにも力を注ぎ、事業会社ごとにアプリ・ECサイトを運営している。
「セブン&アイ・ホールディングスは、以前から最新のサービスを提供することでCX(顧客体験価値)向上を図ってきた実績があります。例えば、小売業でいち早くPOSシステムを導入し、お客さまから支持される商品を欠品なく提供できる体制を構築したり、セブン-イレブンの店舗でセブン銀行の現金引き出しや振り込みを可能にしたりするなど、常に新しい体験価値を提供してきました。そして今、注力しているのが、デジタルにおける顧客接点の創出です」
同グループのDX戦略についてそう説明するのは、セブン&アイ・ホールディングスのデジタルマーケティング部CRM推進兼カスタマーサービスシニアオフィサーの伏見一茂氏である。
大きな転換点となったのが、2018年6月のグループ共通会員ID「7iD(セブンアイディ)」導入だ。一度7iD会員として登録した顧客は、セブン&アイグループ各社提供のアプリ・ECサイトに同じIDでログインできる。「アプリやサイトごとに個人情報を入力・登録しなければ利用できないわずらわしさをなくす」というCXを提供したのである。
加えて同時期に、グループ横断型のロイヤルティープログラム「セブンマイルプログラム」を開始。セブン&アイグループの対象店舗やECサイトでの購入履歴が7iDでひも付けされ、購入金額に応じて「セブンマイル」が貯まって、「nanaco※ポイント」やオリジナルグッズなどさまざまな特典と交換できる仕組みである。
同プログラムのコンセプトは、「いつものお買い物で私だけのHappyを」。普段の買い物でマイルが貯まり、貯めたマイルを特典に交換できるという体験の提供によって、リアル店舗とECサイトの相互送客、グループ内での相互送客、ロイヤルカスタマーの増加・離脱防止・定着化を目指す戦略を立てたのだ。
利用頻度が伸び悩みNPSで課題を可視化
ところが、セブンマイルプログラムの利用頻度は、当初の予想通りには増えなかった。利用頻度が伸びない要因を洗い出すため、伏見氏は購入の金額や回数といった定量データの分析に加え、NPS調査を取り入れた。顧客が買い物を楽しんでいるのか、サービスに満足しているのかといった定性データを可視化し、CX改善につなげたのである。
「まず、【図表】のようなカスタマージャーニーマップ分析により、どの顧客層のCXを優先的に改善すべきかを検討し、調査を実施しました。その結果、長年リアルの店舗に慣れ親しんできたお客さまにとって、セブンマイルプログラムの利用方法が分かりづらいということが判明しました。そこで、思い切ってシンプルな仕組みにリニューアルしたのです。プログラムの提供開始から約1年で仕組みを変えるのには、かなり勇気が必要でした」(伏見氏)
【図表】カスタマージャーニーマップ分析の例
出所:エモーションテック提供資料よりタナベ経営作成
開始当初は、一定期間に貯めたマイル数の総数に応じてランクが決まり、ランクに応じた特典の抽選に応募できる仕組みだった。しかし、それが分かりづらいという声が多かったため、貯めたマイルをいつでも特典に交換できる設計に変更したのである。結果、利用頻度は大きく伸びた。
きめ細かい施策も行った。「プログラムに対する顧客の理解度が低い」という課題に関しては、「200円ごとに1マイルが貯まる」といった説明をポップアップ機能で行い、サービス理解度の向上を図った。
また、「マイル履歴画面を確認するとボーナスマイルを付与」「欲しい特典のリスト登録でボーナスマイルを付与」など、買い物以外のセブンマイルプログラムサイト内でのアクションでもマイルが貯まるようにした。
特に、NPS調査で「推奨度を上げるための重要度が高いにもかかわらず顧客のエンゲージメントは低い」という結果が出ていたのが、ランダムに1~3マイルが当たるサイト内の「ガチャ(くじゲーム)」だった。
「せっかく当たっても獲得マイル数が少なく、満足いただけていないという分析結果だったので、大当たりすると30マイルを付与する特別企画も用意。同時に、ガチャの認知度を上げられるよう、開催中であることや開催期間の予告をトップ画面に出すなどの施策も行いました。この改善で満足度が高まり、推奨度を押し上げることができました」(伏見氏)
小さな改善を次々と実践した結果、セブンマイルプログラムのNPSは向上。それに伴って同プログラムの利用頻度が上がり、収益向上にもつながっていることが確認できたという。
「NPS調査に基づく制度変更で痛感したのは、対応スピードの重要性です。お客さまが分かりにくい、使いづらいと感じることを放置していると、サービスに対する悪印象が根付きかねません。迅速に対応したおかけで、不信感が募るのを防ぎ、好印象に転換することができました。
大切なのは、NPS調査を繰り返すこと。1つの課題が改善できたら、次の課題に対応していく。PDCAを回しながらCXを向上し続けることが何よりも重要です」(伏見氏)
※セブン&アイ・ホールディングスが国内で展開する非接触型決済方式の電子マネー
グループ各社へNPS調査を水平展開
NPSを活用したCX向上の取り組みは、現在、セブン&アイグループ全体に波及している。
「定期的に開催しているグループ内のCRM担当者会議で、ケーススタディーとしてセブンマイルプログラムでのNPS調査の成果を共有しています。その結果、セブン-イレブンをはじめ、イトーヨーカ堂やロフト、セブン&アイ・フードシステムズなど、グループの事業会社各社が提供しているアプリのNPS調査を実施するようになりました。
定性的な情報も数値で可視化することができ、優先的に対応すべきことや、推奨度を1上げるとどのくらい収益が上がるのかといったインパクトも分かるので、社内に説明しやすいというのが大きな導入理由です」(伏見氏)
セブン&アイ・ホールディングスは、顧客に支持される商品を開発し、欠品なく提供することで顧客満足度の向上を図ってきた。この「商品」軸の企業文化に加え、ここ数年で生まれたのが「人」軸である。
7iDでデジタルの顧客接点が生まれ、一人一人の購買や行動の情報が分かるようになった。さらに、NPS調査で顧客の定性的な情報も可視化できた。その結果、人を起点にさまざまな施策を考えられるようになったと伏見氏は言う。
「小売業にとって、より良い商品をいつでも提供することがCX向上の重要な要素であることは間違いありません。結果、セブン-イレブンをはじめセブン&アイグループは商品力に優れているというブランドイメージも定着しました。
しかし、さらに顧客満足度を上げるためには、お客さま一人一人に向けて最適なサービスを提供していくという、新しい付加価値を提供できる仕組みづくりが不可欠です。
近年、当グループでは、人を起点に考えようという意識変化が起こっています。それがDXによってCX向上を図ってきた最大の成果だと考えています」(伏見氏)
より良いCXの提供がNPSの向上につながり、ひいてはそれがLTV(生涯顧客価値)を向上させる。発想の転換に成功し、グループ全体で顧客視点の重要性を共有できるようになったということだ。
セブン&アイ・ホールディングスが始めた7iDの導入とセブンマイルプログラムのNPS調査によるCX向上の取り組みは、グループのロイヤルカスタマー増加という7iDのKGI(経営目標達成指数)達成に向け、着実に前進している。
大切なのは、NPS調査を繰り返すこと。
1つの課題が改善できたら、次の課題に対応していく
セブン&アイ・ホールディングス デジタルマーケティング部 CRM推進兼カスタマーサービスシニアオフィサー 伏見 一茂氏
PROFILE
- (株)セブン&アイ・ホールディングス
- 所在地:東京都千代田区二番町8-8
- 設立:2005年
- 代表者:代表取締役社長 井阪 隆一
- 売上高:14兆2432億円(連結、2022年2月期)
- 従業員数:17万757名(連結、2022年2月現在)