「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」をパーパス(目的・存在意識)に掲げるユニリーバ。目指すのはサステナブルなビジネスの先駆者たることだ。経営リスクを減らし、持続的成長を目指すサステナブルな挑戦は、SDGs採択よりも早く始まっていた。
グローバルに推進したビジネスプラン「USLP」
ヘアケア・ボディケア製品である「Lux」や「Dove」。耳に慣れ親しんだその名は、190超の国々で25億人以上が愛用する消費財メーカーであるユニリーバのブランドだ。日本市場では、ユニリーバ・ジャパンがビューティー&パーソナルケア・ホームケア分野で事業を展開している。
グローバル企業として世界をリードするのは、事業規模や知名度だけではない。ユニリーバは創業以来、事業成長と持続可能性を両立するビジネスモデルを追求し、2010年から独自のビジネスプラン「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」(以降、USLP)を導入。「10億人以上のすこやかな暮らしに貢献」「製品ライフサイクルからの環境負荷を1/2に削減」「数百万人の経済発展を支援」という3つの約束を掲げ、バリューチェーンからの温室効果ガスなど環境負荷を減らし、健康・衛生で社会に貢献しながらビジネスを成長させることを目指している。(【図表】)
「USLPを導入し、13億人以上の衛生・健康に貢献できました。例えば、殺菌石鹸ブランド『Lifebuoy』では、石鹸を使った正しい手洗いを10億人以上に啓発し、民間企業における世界最大の取り組みとして、社会的に評価を頂きました。これまでに多くの成果を上げ、SDGsにも貢献できた一方で、グループ全体の業績も堅調でした」
USLPが導入されてからの12年間をそう振り返るのは、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスのアシスタントコミュニケーションマネジャー・新名司氏である。USLPの取り組みの起点は、ユニリーバがパーパスに掲げる「To Make Sustainable Living Commonplace(サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に)」にある。また、ユニリーバでは、商品ブランド別にもパーパスを掲げている。
例えば、Doveのブランドパーパスは「すべての女性が自分の美しさに気付くきっかけを提供する」。同社のDoveチームでは、2004年に世界各地の女性に対して「自分が美しいと思う人(容姿に自信がある人)がどれだけいるのか」を調査。結果はわずか4%だった。そこで2014年から、女性が自分自身と他人の幸福と平和について自ら考え、行動できる人になることを目的とするガールスカウト日本連盟と共同で、自己肯定感を育てるワークショップ「大好きなわたし~Free Being Me~」を開催。参加者からは、「もっと自分を好きになった」「外見を前向きに考えられるようになった」などポジティブな反響が相次いだ。また、この取り組みで「令和2年度 青少年の体験活動推進企業表彰」(文部科学省)審査委員会優秀賞も受賞した。
さらに、2017年の追加調査で日本の10代女性の自己肯定感が世界最低水準だったことを受け、2018年に東京・順心広尾学園で学生証の写真を撮影する企画を実施。友人から自分へのコメントを聞いた後に写真を撮影することで、やわらかく、その人らしい笑顔の学生証が出来上がった。また、この企画を動画にまとめた「ダヴ:リアルビューティーID」も制作した。
「『ダヴ:リアルビューティーID』では、『目が小さいから、肌の色が悪いから自分の外見が嫌い』と話す学生たちが、クラスメイトの目に映る自分の姿を知ることで、自分らしい魅力に気付いていく姿が描かれています。この動画は、制服や学生証といった日本の学校文化の中で特に響くものでした。市場の特性に合わせて消費者の方々の心に寄り添う施策を行うことで、より大きな反響が得られています」(新名氏)
道は自由でも向かう先は必ずパーパス
全社パーパスと各ブランド別パーパスの実現に向け、いかに目標を設定し、行動を起こすのか。「SDGs達成への取り組みを何から始めたら良いか分からない、と他社からご相談を受けることも多い」と新名氏は語る。
「自社ビジネスを通して、どのような社会課題に貢献できるか。その接点を探すことから始めるのが良いと思います。例えば、SDGs17のゴールの中でも、『住み続けられる街づくりを』はユニリーバのビジネスに直接関係ありません。でも、『すべての人に健康と福祉を』なら、自社ブランドの石鹸を使って手洗いの重要性を啓発することで直接貢献できます。ユニリーバは、自社のビジネスやブランドに近く、社会に働きかけができる分野を選んでいます。そして、向かう先は必ずパーパスです。何をするにしても、企業として、ブランドとしてのパーパスから外れることは絶対にしません。ただ、パーパスを実現するための道は1つではないので、Aという道を進み、違うと感じたらBの道へ進むことも当然あります」(新名氏)
同社においても、USLPを発表した直後から、全社員が同じ方向を目指せたわけではない。「こんなことできない」「将来の成長が見込めない」という理由で退職を決める社員もいたという。
そのような中、当時のユニリーバのグローバルCEOだったポール・ポールマン氏は、「USLPは、ユニリーバがこの先企業として長期的に成長を続けて生き残る唯一の道だ」と、USLPの発表後すぐ、15万人を超える世界中の社員へ決意と切迫感を持ってメッセージを発信した。
「企業にとって大きな変革だと社員に意識させるために、ユニリーバ・ジャパンでも映画館を貸し切りにして録画メッセージを上映しました。その後も、業務を通じて各部門・チーム・個人へと少しずつ浸透させていきました」(新名氏)
同社には成果を重視する人事評価制度があり、毎年個々に目標を立て、その成果によって賞与や昇進が決まる。明快な評価基準に沿って目標を落とし込み、達成を目指すことが個々の成長につながっている。だが、組織において部門や人に業務を細分化するほど、横のつながりや全社の動きが見えにくくなる。
そこでユニリーバ・ジャパンでは、半期ごとの全社会議や、毎月社長から社員に発信するレターにも必ずサステナビリティに関するメッセージを入れるなど、あらゆる機会を生かしてUSLPの重要性を伝えている。
結果として、「上司に言われたから」「指示された通りに動いただけ」といった受け身な姿勢ではなく、自発的に行動する社員が増えたという。新名氏は、「そのようなパッションのある社員に活躍の場を提供することも大事」と続ける。
2020年11月には、プラスチック使用量の削減やリサイクル促進の取り組みとして、日常の買い物で気軽にエコ活動できるエコポイントプログラム「UMILE(ユーマイル)プログラム」をスタート。小売店などの店頭で使用済み容器を回収することで、エコグッズや寄付、LINEポイントと交換できる。このプロジェクトを考えたのも、パッションのある社員たちだ。
「当社には、『サステナビリティに熱心な会社だから』と入社する社員が多いです。UMILEプログラムも、通常業務とは別に、営業部門の若手社員が有志を募って企画・推進しています。社内起業制度もあり、基本的にやりたいと手を上げた人が自ら予算も取り、やり切ってくれています」(新名氏)
【図表】成長とサステナビリティを両立するユニリーバのビジネスプラン
出所:ユニリーバ・ジャパン提供資料よりタナベ経営作成
自己肯定感を育てるワークショップ「大好きなわたし~Free Being Me~」。自分の外見に対する自信のなさから、さまざまなことに挑戦できない少女たちにポジティブな変化をもたらすプログラムを提供
ユニリーバ・ジャパンが花王とともに2021年6月に東京都東大和市で始めた「みんなでボトルリサイクルプロジェクト」。消費者・行政・企業が連携して日用品ボトル容器の分別回収・リサイクルの仕組みを検討する実証実験を行っている(上)/ユニリーバ・ジャパンの若手社員有志が立ち上げた「UMILE(ユーマイル)プログラム」。製品使用後に家庭で洗浄・乾燥した空容器を回収ボックスに入れたり、ボトル製品に比べてプラスチック使用量が少ないつめかえ対象製品を購入したりすることで、寄付やエコグッズ、LINEポイントと交換できる(下)
ゼロをプラスにする「ユニリーバ・コンパス」
ユニリーバは、2021年にUSLPの後継となる成長戦略「ユニリーバ・コンパス」を始動した。ユニリーバ・コンパスでは、「サステナブルビジネスのグローバルリーダーになる」という新しいビジョンの下、「地球の健康を改善する」「人々の健康、自信、ウェルビーイングを向上させる」「より公正で、より社会的にインクルーシブな世界に貢献する」という3つの分野で約30の数値目標を掲げている。
「パーパスはそのままですし、USLPの導入以降、目指してきた方向性も変わりません。違いは、USLPが環境負荷の削減といった『マイナスをゼロにする』取り組み中心だったのに対し、ユニリーバ・コンパスには自然を再生するといった『ゼロをプラスにする』取り組みも新たに組み込まれています」(新名氏)
気候変動に関する項目では、「2039年までに、原料調達から店頭販売まで全ての過程で、ユニリーバ製品からの温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」という高い目標を掲げる。取り組みの背景には、USLP開始から10年間で、製造工程で排出される温室効果ガスを75%減らし、使用エネルギーも51%を再生可能エネルギーに切り替えた実績がある。
「達成不可能な目標ではないと社員も分かっているので、後はいかに100%へ近付けていくか。取引先やサプライヤーなども巻き込んでいく新たなチャレンジだと思っています。SDGsという言葉がなかったUSLP開始時に比べると、いまは格段に協力していただきやすい環境になっています。ビジネスパートナーからも『ユニリーバと一緒にSDGsに取り組みたい」と言っていただくなど、追い風が吹き始めています。その風を上手に生かし、業界や政府への働きかけを含めて、より多くの消費者の行動変容を起こせるようにしていきたいと考えています」(新名氏)
軽量でコンパクトな商品パッケージを作り、プラスチック使用量を削減することはユニリーバ単独でもできる。だが、使用済みのパッケージを回収して新たなパッケージにリサイクルするには、分別回収の仕組みや再生技術の開発、消費者の行動変容が求められる。同業他社、国や自治体、リサイクル業者といった幅広いステークホルダーの協力が不可欠なのだ。
2021年6月には、競合企業である花王と協業し、東京都東大和市でプラスチックをゴミにしない循環型社会の実現に向けた協働回収プログラム「みんなでボトルリサイクルプロジェクト」を始動。消費者・行政・企業が連携し、日用品プラスチック容器の分別回収・リサイクルの仕組みを検討し、ボトル容器からボトル容器への水平リサイクル再生技術の検証を行っている。
「東大和市に協力いただき、開始から半年で5500個を超える空き容器がきれいな状態で回収できました。それを再生して新しいボトルを試作し、安全性や強度などをテストしています。今後も市場での実用化に向けて検証を進めています。回収地域も茨城県常総市、東京都狛江市へと広げました」(新名氏)
日用品のボトル容器は、メーカーごとに素材や色、デザインが違うことが多い。プロジェクトにはP&Gとライオンも参画し、リサイクルしやすい業界基準の検討が進んでいる。ペットボトルのような業界基準が決まり、空き容器のリサイクルが実現すれば、それは日本から世界を変える取り組みにもなり得る。
また、社外のステークホルダーと共に社会課題に取り組む解決モデルは、地域課題においても有効な切り口になる。ユニリーバ・ジャパンは、2019年に宮崎県新富町と地域連携包括協定を締結。町内の施設にリフィル(詰め替え)ステーションを開設し、Doveのシャンプーやボディウォッシュの量り売りを開始した。また、町内の中学生が描いたイラストをパッケージデザインに採用した九州地方限定のDove製品を販売し、売り上げの一部をウミガメの産卵で知られるビーチの保護に役立てるなど、サステナブルな街づくりに貢献している。
「サステナブルな取り組みを行動変容につなげるには、発信力も大事になる。「それにはコツがある」と新名氏は続ける。「単なるお願いではなく、環境や消費者の生活にどのような良い影響があるかを伝えることが重要です。UMILEプログラムも、『プラスチック削減に貢献しながらLINEポイントがたまり、楽しくお得にエコ活ができます』と伝えました。楽しさがなければ何事も続きませんから」(新名氏)
サステナブルビジネスにおける4つのメリット
SDGs実現に向けた取り組みの波に乗り遅れまいと考えながらも、「サステナブルに関する取り組みが企業の成長につながるのか」と、疑念を感じる経営者は少なくない。新名氏は、企業にとってサステナブルな取り組みには、4つのビジネスメリットがあると分析する。
「大きく分けて4つのメリットがあると考えています。1つ目は、『成長の加速』です。ユニリーバでは、パーパスを掲げてサステナビリティに早くから積極的に取り組んできたブランドは、他のブランドよりも早く成長しています。サステナブルな取り組みをしているかどうかを、商品を購入する上での選択材料にしている消費者が増えているからです。世界的なマーケティング会社であるカンター社の12年間に及ぶ調査でも、パーパスを持つブランドはそうでないブランドに比べて175%早く成長すると報告されています。
2つ目は、『信頼の向上』です。毎年実施するユニリーバの社員満足度調査では、94%が自社はサステナブルなビジネスだと実感し、93%が働くことに誇りを持ち、96%が自社製品を家族や友人などに勧めると回答しています。ロイヤルティーやエンゲージメントの高さは、まさに信頼の証しでしょう。
3つ目は、『コストの削減』です。当社では、環境対応のために節水や省エネ、パッケージ原料の削減などを進め、10年間で約1200億円のコスト削減を実現しました。そこで得た原資を、再生可能エネルギーや再生プラスチックの投資に充てることができています。
4つ目は、『リスクの低減』です。サプライチェーンでひとたび人権問題が起これば、ブランドの売り上げやイメージが大きく損なわれます。環境に負荷のかかる農業を続けた結果、原材料となる農産物の収穫量や品質が悪化すれば、製品をつくり続けることはできません。人権の取り組みを強化したり、環境に配慮した農園から原材料を仕入れたり、再生プラスチックへ切り替えたりすることは、道義上正しいだけではなく、レピュテーションリスク(企業やブランドに対するネガティブな評判が広まるリスク)や将来の調達リスクを減らすことにもつながるのです」(新名氏)
さらに、「信頼の強化、コストの削減、リスクの低減は目に見える成果となって表れている」と新名氏は続ける。
「USLPやユニリーバ・コンパスを通じて、サステナブルに取り組む姿勢が支持されているのは明らかで、企業成長を後押しする機運は間違いなく現れています。それをもっと明確にして、他社にまねされる存在になることが当社の役割だと考えています。
また、『サステナブルなビジネスモデルが企業の競争力や利益につながる』ということを実証していく中で、何をしているかをしっかりと説明することも重要です。私たちが何を目指しているかをステークホルダーに伝えて、良いことも悪いことも透明性高く報告することが大事でしょう。世の中を良くしていくことが、ユニリーバのパーパスですから」(新名氏)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス アシスタントコミュニケーションマネジャー 新名 司氏

